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元工作員、異世界の殺し屋「死神」に拾われる  作者: 丸ノ内きみこ


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修行二年目

一年目で「肉体の構造」をマスターしたシオンにとって、二年目の課題である「魔力」は、最も非論理的で不快な対象だった。


「師匠、この『魔力』というエネルギーは非常に燃費が悪い。感情の高ぶりで出力が変わるなんて、制御システムとして欠陥品です」


ジークハルトは、指先に巨大な火球を浮かべながら鼻で笑いました。 「それがこの世の真理だ。怒り、憎しみ、あるいは守りたいという執念。情念が濃いほど、魔法は強く、鋭くなる」


「……いいえ。私ならもっと『クリーン』に運用してみせます」

◇◇◇


「いいか、シオン。魔力とは『情念』だ。腹の底から湧き上がる怒り、あるいは憎しみを、この大気というキャンバスに叩きつけろ」


ジークハルトが指先を鳴らす。直後、轟音と共に巨大な火球が放たれ、庭の巨石を一瞬で蒸発させた。吹き荒れる熱波がシオンの頬を撫でる。だが、彼女は眉ひとつ動かさず、手元のメモ帳に何やら数式を書き込んでいた。


「……師匠。今のは非常に『燃費』が悪い。エネルギーの九割が、殺傷に関係のない熱と光として無駄に四散しています。……落第点ですね」


「あぁん? 跡形もなく消したんだ、文句ねぇだろうが」


「いいえ。魔力というリソースをそんな風に浪費するのは、私には理解できません。私なら、もっと『クリーン』に運用します」


シオンにとって、この世界の神秘である「魔力」は、単なる高密度のエネルギー粒子――つまり「電力」に過ぎなかった。


シオンは、魔力を体外へ放出して爆発させる訓練を一切やめた。  代わりに彼女が始めたのは、体内にある微々たる魔力を、血管や神経に沿って「超高電圧」で循環させるという、狂気じみた試行錯誤だった。


「(魔力出力を一ミリワットに固定。抵抗値を極限まで下げ、神経伝達を『超電導』状態へ……)」


 ある日の模擬戦。ジークハルトが重い大剣を構え、一歩踏み出した瞬間だった。  シオンの姿が、陽炎のようにかき消えた。


「なっ……!?」


ジークハルトの動体視力すら置き去りにする、超高速。


彼が背後に気配を感じて振り向いた時には、既にシオンの指先が彼のうなじに触れていた。バチリ、と青白い火花が散る。


「……がっ、貴様、今何をした!?」


「魔力を外に漏らさず、全て内側の『加速信号』に回しました。爆発まほうを起こさなくても、物理的な移動速度を限界まで高めれば、結果は同じです。……あ、今の電撃は、ついでに師匠の運動神経を少し麻痺させておきました」


シオンは平然と言ってのけた。神経を直接ハックし、信号を上書きする。それは、魔術師の戦いではなく、プログラマーによるシステムの書き換えだった。


さらにシオンは、魔法を単体で使うことを放棄した。彼女が注目したのは、この世界の「物理法則」との組み合わせだ。


「師匠、見ていてください。これが『コストを抑えた殲滅』です」


シオンは城の地下に溜まった古い可燃性ガスが漏れるエリアへ、ジークハルトを案内した。そこには魔獣の群れが巣食っている。  ジークハルトが大剣に魔力を込めようとした時、シオンが彼を制した。


「魔力の無駄です。……一粒で十分」


シオンは、指先で小さな火花スパークを一つ、パチンと鳴らした。


たったそれだけ。次の瞬間、エリア全体を満たしていたガスが連鎖的に引火し、猛烈な爆風が魔獣たちを飲み込んだ。「ガス爆発」である。


「……なんだ、今の魔法は。詠唱も魔陣もなかったぞ」


「魔法ではありません。単なる『化学反応のトリガー』です。環境にあるエネルギーを効率よく利用すれば、マッチ一本分の魔力で城一つを灰にできます」


煙の中で咳き込むジークハルトを横目に、シオンは時計を確認した。


「……さて、予定より三分早く終わりました。節約した魔力で、今日の夕食の火加減を調節しておきます。……師匠、ステーキの焼き加減はミディアム・レアでよろしいですか?」


ジークハルトは、煤で汚れた自分の手を見つめ、戦慄した。彼女は魔法を信じていない。奇跡を敬っていない。ただ、この世界の全てを「利用可能なパーツ」として冷徹に解体している。


「……ククッ、科学だか掃除だか知らんが。……お前、最高に可愛くない弟子だな」


「最高の褒め言葉として、給与おやつに反映させておいてください」

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