詩小説へのはるかな道 第59話 図書館の少女と老司書
原詩:図書館の少女と老司書
古い図書館の片隅で
少女はノートを広げていた
文章はまだ拙く 投稿はまだ先のこと
けれど瞳は 未来を信じていた
年老いた司書は 静かに棚を整理し
誰にも読まれなかった本の埃を払う
長い年月の重みを抱えながら
その手は やさしく震えていた
少女は夢を描き 老人は記憶を守る
二人の間に言葉はなく
ただ沈黙が やわらかく流れていた
十年後 少女は名高い文学賞を取る
司書を退職していた老人は 立ち寄った書店で
少女のデビュー作を手に取る
そこには
老司書と作家を目指す少女の
心温まる交流が描かれていた
老人は思う
わしと来館者とにはこんなことはなかったな
老人には
作者が十年前のあの少女だとはわからなかった
ーーーーーーー
詩小説: 図書館の少女と老司書
古い図書館の片隅に、少女は毎日のように座っていました。
小さな机にノートを広げ、まだ拙い文章を一心に書き連ねます。
鉛筆の先は迷いながらも、時には勢いよく走りだします。
彼女の言葉はまだ未熟で、投稿するのは遠い未来のことでしたが、瞳には確かな希望が宿っていました。
老司書は、静かに棚を整理します。
誰にも読まれなかった本の背表紙を撫で、積もった埃を払い落とします。
長い年月の重みを抱えながら、その手はやさしく震えていました。
少女の存在に気づいてはいましたが、声をかけることはありませんでした。
彼にとって来館者は日常の風景の一部であり、特別な意味を持つことはなかったのです。
二人の間に言葉はなく、ただ沈黙だけが柔らかく流れていました。
けれど、その沈黙は少女に安心を与えました。
ただそこにいる老人の背中が、彼女の孤独を支えていたのかもしれません。
十年が過ぎました。
少女は作家となり、名高い文学賞を受賞しました。
新聞や雑誌にその名が載り、書店には彼女のデビュー作が並びます。
一方、司書を退職した老人は、ある日ふらりと街の書店に立ち寄りました。
手に取った一冊の本のタイトルに心惹かれ、ページをめくります。
そこには「老司書と作家を目指す少女の心温まる交流」が描かれていました。
老人は眉をひそめました。
「わしと来館者とには、こんなことはなかったな」
本を閉じかけたそのとき、ふと目に留まった一節がありました。
老司書が、誰にも読まれなかった本の背表紙を撫で、積もった埃を払い落とす、という描写。
それは彼の記憶の奥底に、かすかな残像を呼び起こしました。
老人は本を抱え、レジへと向かいました。
その作者が十年前のあの少女だとは知りませんでした。
帰り道、老人は本を胸に抱きながら歩きました。
図書館で過ごした長い年月の中で、忘れてしまった来館者は数え切れません。
作家になった少女もその一人だったのです。
=====
わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:図書館の少女と老司書
古き館 鉛筆走る かすれ声
まだ拙き夢 瞳に灯して
棚の影 誰にも読まれぬ 背を撫でて
埃の粒に 年月宿す
沈黙は 少女を包む 空気なり
老いた背中が 孤独を支え
十年を 越えてひらける 書店には
少女の名あり 賞の光あり
閉じかけし 本の一節 ふと揺れて
忘れた記憶 胸に抱きゆく
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




