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3 謎の美少女とカフェ

カフェなんてオシャレな場所はそう知らないのだが、俺が探すよりも前に、謎の美少女は自分から適当なカフェを見つけて俺を連れ込んだ。


何も注文しない訳にはいかないので、俺はアイスコーヒー。彼女は、チョコのテリーヌとカフェラテ。


俺の対面に座っている美少女は、両頬に手を当てて、膝を立てていた。

にこにこ。


「駄目だよ〜?のこのこついて来ちゃ!私のお胸にやられっちゃった?男の子だもんね〜仕方ないよね〜♬」

「何かすごい勘違いをされてる気がするんだが、訂正してくれる?」

「え〜?あーんなにお顔真っ赤にしてたくせにぃ」


………割と否定できないのが、悲しい。


違うんだ……あのでっかいお目目で見つめられてしまうと、俺は弱いのだ。この美少女と、自分の知る幼馴染は、タイプが全然違う。

なのにあの瞬間、重なってしまったのだ。この美少女を通して、俺は幼馴染のことを思い出してしまった。


注文していた品が届き、謎の美少女は目を輝かせた。

鞄からスマホを取り出して、パシャリ。


そのスマホが見たことないレベルに横幅が薄かったので俺は驚いた。俺の持っているスマホの厚みの半分ほど。

俺の知らないところで、どうやら世界の科学技術が急速に進んでたらしい。にしても薄いな…?


「あ、そういえば自己紹介してなかったね!はじめましてっ、きさら……じゃなかった、花音だよっ!よろしく〜!」

「何か言いかけてなかった?」

「えへへ、気のせい気のせい!」


カツン、とテリーヌを通り抜けた彼女のフォークが食器にぶつかった。手元がブレたように見えたのは気のせいか?


「じゃあ、……俺は如月伊織。よろしく」

「パ………、伊織くんね!オッケー!私のことは花音って呼んでね〜?」

「パ?」

「パ、パーティー・ピープルにはなれなさそうな伊織くんだねって言おうと思ったの!でも可哀想かなって!えー、私優しい〜っ!」

「おい、どシンプルに悪口かますな」


雰囲気枯れてる系ですが、何か?何か?


「そ、それで〜!ナンパの続き〜!伊織くんは今彼女居るのかな!?」

「………居るように見える?」

「見えなーい!」

「ひどい……こんなひどいナンパがあってたまるか……」


俺の嘆きなど気にせず、もぐもぐとテリーヌに舌鼓をうっている花音。自由人かて。


「でも、好きな人は居るんじゃない?なーんか、長〜い片想いしてそう。彼女も出来ないんじゃなくて、つくろうとしてない気がする」


おい、この美少女は、千里眼でも持ってんのか…?

それとも俺が長ーい片想いしてる哀れな男感を、醸し出してしまっているのか。

的確すぎる花音の指摘に、俺はぎくりとなった。


素直に白状するのも、癪というか、恥ずかしいというか。


「さ、さあ……?」

「じゃあ、私にもチャンスある?」


花音は読めない顔で言った。ニコニコしているが、意図を読み取らせない瞳が、俺を見ている。


考えるまでもない。


「それは……ないかな」

「ええ?どうして?」

「……癪だけど、君の言う通り……好きな人が居る。もうずっと、片想いのままだ」

「………片想いなのに、やめないんだ?」


グイグイくるなあ、本当に。俺が今一番悩んでる核心を見事に突いてきやがった。


その昔、俺は、美亜に恋愛対象ではないと言われてしまった。

彼女には、俺と正反対のお似合いの男が今はそばにいる。もう、実は付き合っているのかもしれない。話すこともめっきり減った俺には、そんなことも分からない………。


不毛だなんて、俺が一番よく思ってる。


俺はコーヒーを口に含んだ。ほろ苦さが、俺の舌を襲う。


「………やめないよ、今はな。そのうち消えるのを待って、多分そのまま人生を安らかに終える」

「ふぅん………」


花音は、聞いた割には興味がなさそうに相槌を打った。テリーヌをすくって、口に含む。

ふぅん、とまた言うだけだった。


そうだ。

俺はこの不毛な片想いをしばらくは続けて、大人になって。

たまにそのほろ苦さを思い出したりして、独りで生きていくのだと思う。


花音が、俺を見つめる。相変わらず、読めない。


「あのさーーーーーー」


店内に流れる静かなBGM。これは、そう。確か、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番。昔ピアノを嗜んでいたので、少し素養がある。

曲はいたって落ち着いているのに、その裏に隠されたモーツァルトの愛憎に、俺はいつだったか、驚いた覚えがある。


彼女は、そして言った。


「もし、私が伊織くんの未来の子供だよって、言ったらーーーーーどうする?」


どうもしない。


未来から来たなんて。

そんなSFじみたことを突然言い出すとは、この美少女もまったく読めない。

俺を揶揄うのは、楽しいか?子供でも引っかからないぞ、そんな見え透いた嘘。


「………まさか。そんなこと…ありえない」


もしそれが本当だとしたら、俺はつまりーーーーー


花音は、窓辺を見る。雑踏を行き交う人々は、忙しなく歩き続けている。俺たちみたいな学生も、スーツをきちんと着たサラリーマンも、ベビーカーを押す母親も。

数多の人がそこに居て、しかし互いを知ることはなく通り過ぎていく。だがもし、何かのきっかけが彼らに訪れたとしたならば、その時彼らはどうなるのだろう。


「分からないよ……人生何があるかなんて、分からないよ伊織くんーーーーーー」



「伊織くんは、誰かと出会って、誰かと結婚して、誰かの父親になってるかもしれないよ」


花音は、ぽつりとそんなことを呟いた。



******


カフェを出ると、もう日が沈みかけていた。

花音はスマホを操作しながら言う。


「私スマホが壊れててさー!」

「今、花音が、絶賛使用中なのは何?」


連絡先交換をしようと言われた女子が「あ、スマホないです」と言いながらスマホいじってる現象を、なぜ俺が体験してるみたいになってんの?

俺、一切誘ってないよ?


「いや、写真とかの、機能は使えるんだけど〜、電波?が合わないみたいで……まあ、だからさ!」


スマホをしまう。

代わりに、花音は鞄からごそごそとペンポーチを取り出し、チャックを開けた。ボールペンと付箋を俺に手渡す。


「伊織くんの連絡先、ここに書いて!私が公衆電話から掛けるから!」

「ええ…?…」


そんな前時代的な……


「いいからー!ほら、ほら、書け書け〜!」

「わ、分かったよ……」


花音の催促に観念し、俺は自分の連絡先をそこにボールペンで書く。花音に手渡すと、彼女は満足そうに頷いた。


「オッケーオッケー!じゃ、また連絡するからよろしくね〜!」

「はいはい」

「はい、は一回だよ〜」


彼女は再びスマホの電源を入れて、「あ、やば」と呟いた。


「急いで帰らないと!パパ門限には厳しいんだよね!普段ゲロ甘なのに〜!どうにかしてよ〜伊織くん」

「何で俺に言うの?」


んなもん、自分の父親と交渉してくれ。

俺にはどうしようもないよ。


「……送ってくか?」


もう辺りが暗いので、一応言ってみる。

そんな心配症な父親が居るなら、じゃあ家まで送った方がいいかと思ったのだが。

花音は、自分の肩を抱いて、ニヤニヤしてきた。


「やだ〜!伊織くんまでー!やっぱり私に落ちない男は居ないのね!自分の魅力がやんなっちゃうぅ〜!」

「純粋に、暗いから、心配してさしあげたんですが」


俺は虚無った。


「はは、うそうそ、冗談だよ〜!大丈夫ー!私彼氏居るから!今頃私のこと探してるだろうから、合流してあげないと〜」

「ああ、そう」


じゃあね〜!!と嵐のように去っていく花音。

俺は彼女の背中を見送って、自分の家へ帰ろうと歩き出す。



しかし。

途中で、ぴたりと足が止まって、花音の消えた方面を俺は振り返った。





え?彼氏?












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