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17 想いは決まってる。されど……

林間学校2日目は、水上アクティビティだった。

俺たちの班は、カヌーだった。


カヤックの班もあったので、カヌーとカヤックの違いって何だろうと思っていたら、パドルを使って水をかき前進するボートの総称がカヌーらしい。


カヌーが「カナディアンカヌー」と「カヤック」の2種類に分類される。

つまり、カヤックはカヌーの一種ということだ。


………とかなんとかインストラクターの男性に教えられ、「へぇ」と俺は素直に感心した。

この先の人生で役に立つのかは分からないが、何だか知識を入れたことで賢くなった気はした。


カヌー(正確にはカナディアンカヌーだが長いので俺は略する)の姿勢やら漕ぎ方やらを教えてもらい、早速ボートに乗ることになった。


俺たちの班に、経験者は居なかった。

初心者は2人以上がおすすめだということで、2人ずつで乗ることに。


「……七瀬さんと乗るか?」


気を回した友人の(れん)はそう言ってくれたが、少し迷ってから……

俺は首を横に振った。


美亜の方を窺うが、彼女は唐沢(からさわ)と話していて、目線は合わない。

もしや無視されてるのかなと少し寂しかったが、そうではなかったようで、突然、美亜がこっちを向いたので驚いた。


美亜の方も俺が自分を見ているとは思わず驚いた様子で、たまたま視線が合ったばかりに、一瞬だけ、気まずい時間が流れた。

俺たちはパッと両者ともに、視線をずらした。


それを見ていた蓮と唐沢は不思議そうな顔をしていたが、俺も美亜も自分からは友人に説明はしなかった。



………進んだと思ったら、美亜との関係は、むしろ後退したのではないか。


これなら、前の方がまだ良かった気がする。

中学の終わりから疎遠にはなったけど、俺たちは幼馴染として、決して気まずい間柄ではなかった。


どっちから話しかけても、どっちも普通に返せたと思う。会話に支障はなかった。


だが、今は……どうするのが正解なのか分からなくて、身動きが取れない。

一番の原因は、美亜の真意をハッキリさせないままにしていて、俺が一方的にショックを受けてるからだろうが。



インストラクターの男性に呼ばれて、俺たちは男子同士と女子同士に分かれて、ボートに乗り込んだ。


両手でパドルを持つと、それなりに質量がある。

上半身を捻って、流れる川瀬を押すとボートがゆっくりと岸を動き出した。


左右のどちらかに偏らないようにするのは、案外大変だ。


「……伊織さ、七瀬さんと何かあった?」


女子組のボートと離れてから、蓮が俺に尋ねて来た。

聞かれるだろうとは思ってたが、いざそうなると何と答えようか返答に迷った。


「………まあそう、だな……。何かは、あったな」


さっきの俺たちの空気感を見られてる以上、誤魔化せないしな、と白状する。


「何したんだよ」

「うん………」


俺は、唸った。

美亜のことは諦める的なことを散々言ってきたばかりに、「美亜にほぼ告白みたいなことを言った」とコイツに言いづらいのだ。


もし言えば、いきなり何でそうなった?とコイツにグイグイ聞かれるだろう。


まさか、未来の娘にけしかけられた挙句、自爆したとか言えないな………。


「伊織、原因分かってるなら、さっさと謝った方が得策だぞ。あの手の女子は長引かせると、余計に拗れるぜ」


経験談の混じってそうなお言葉だった。

学年の女子を弄んできただけに、蓮の声には苦々しい響きがあった。


俺は、また唸った。


「………謝った方が、いいのか……?」


確かに2週間そこらで、元の距離感戻るどころか、美亜との距離を一気に詰めすぎた気はする。


もっと時機を待つべきだったのだ。


元々、俺は美亜に不快な思いをさせないために、自分の恋情を表に出していなかったのだ。

なのに、これでは本末転倒ではないか。


右に寄り始めていたボートをパドルで右を漕いで、左に戻す。

蓮は溜め息を吐いた。


「内容によるけどな」

「……言われてみれば、美亜の目が少し赤かったな」

「何したんだよ、お前。とっとと七瀬さんに謝ってこいよ」

「そうだな……」


告白して謝るというのも、奇妙な話だが。

それも1つの丸くおさめる手なのかもしれない。


問題なのは、「俺がどうしたいのか」を決めあぐねていることなのだ。


花音にも前に指摘された、俺の"他人本位な"部分が完全に浮き彫りになってしまっている。



美亜と元の幼馴染の関係に戻りたいのか。


それとも、このまま無かったことにしないで、やっぱり美亜に好きだと告げるのか。


はたまた、ここでもう恋そのものにピリオドを打って、美亜と距離を置くのか。


俺は、どうしたい?


………いや、違うのだ。どうしたいのかは、既に決めて、ここに俺は居るじゃないか。


美亜と恋人になりたいと決めた。そうなのだ。


ただ、その過程で味わう苦しみに臆病になって、今朝の俺は「逃げ」に走ったのだ。


昨夜に勇気を出した結果が中途半端になって、宙ぶらりんになっている………。


「花音が俺を応援しに来た理由が分かった……」

「は?」



未来の俺も、美亜に対してずっとこんな感じだったんだろうなぁ………。


イケイケな花音からすれば「何でウジウジしてんだこの父親」って感じなんだろうが。



『問題は明日』


『伊織くんがますます美亜ちゃんから離れる原因となった悪しき事件が起きるんだよ』


『美亜ちゃんと笹丘大毅(だいき)のキス騒動』


花音に教えられた、未来での俺が経験してきた"過去"───つまり、今の俺にとっての"未来"の出来事に、俺は頭を抱えた。



「こんな調子で、今日の夜どうすればいいんだ俺……」



自分が、情けなかった。


想いは決まってる。

されど、俺は臆病風に吹かれてる。



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