15 火をつけられた爆弾
「今のところブラックなんですけど、俺の林間学校。こっから、どうやって虹色になるんだ……?」
「パパ、落ち着いて。ほらっ、もうこんな時間!大変!」
花音はロビーにかかっていたアナログ時計を指差した。
確かに、もう部屋の点呼時間が迫っていた。
俺は花音にあれこれ物申したい気持ちをぐっとこらえることにした。
学校の人間に見られないよう注意を払い、花音を送り届け、俺は自分の部屋に向かった。
「おっす、伊織ー。遅かったなー」
2段ベッドの上に寝転んでいる蓮が、トランプの手札を捨てながら、俺に声をかけた。
まあなと生返事を返して、俺もその下に寝転ぶ。
「何だよ、如月ー。女子と逢い引きでもしてた?」
「マジ!?めっちゃ意外」
クラスメイトの佐藤と山﨑もトランプ片手に、俺に興味深そうに尋ねてきた。
勝手に考察されて驚かれているが、本当だと言ったらさらにどんな顔をするんだろうか。
「いや、別に。普通に1人で散策してた」
………やめとこ、詳しく訊かれても藪蛇だ。
「まあそりゃそうか〜」
「如月はもはや老成してるもんなぁ」
佐藤と山﨑がケラケラ笑ってくる。
くそー、やっぱり言えば良かった。納得すんな、悲しいから。
もう寝ようと思って俺が目を閉じかけると、「いんや」と上から蓮の声が振ってきた。
その声に揶揄うような含みがあったので、俺は急いで飛び起きた。
蓮、おま。
「お前ら、分かってねぇなー。意外とこういうヤツが、学年1の美少女をかっぱらっていくんだぜ?」
「え?」
「どういうことだよー」
「ちょ、蓮。お前っ」
蓮がニヤニヤしていたので、俺はヤツの口を塞ごうと手を伸ばしたが、一歩遅かった。
かくして爆弾は、投下されたのだ。
「七瀬さんと幼馴染。しかも、中学までお互いの部屋行き来してたくらいの仲だぜ?はっ、こんなん、何にもないはずがないだろ」
「おい、蓮っ、お前ぇ!?」
同じ中学の人間は、美亜以外にこの高校には居ない。
だから美亜と幼馴染なことなど、俺が唯一話した蓮以外は知らないのだ。
なのに、その唯一の人間がいきなり沈黙を破ってきやがった……!
佐藤と山﨑の俺を見る目が、ギラッと光った。蛇に睨まれた蛙のごとく、ひぃ、と俺は怯えた。
「如月ぃぃぃぃ!!!!」
「どういうことだ説明しろ今夜は寝かさねーぞ!!」
「ちょ、ち、違うんだ!マジで何もなかったんだ!」
「被告はこう言っておりますが、裁判官の斉藤!」
「いや、クロだな。これは七瀬さんと通じてますね。有罪すね」
「おらっ、如月判決が出たぞォォ!!!」
「大人しく白状しろ!!」
「違うんだマジで!無罪だ!そんなわけないだろほら俺の顔を見てみろ!いかにも枯れてるだろ!?学年1の美少女と仲良いはずなくないか!?」
「いや、よく見たら顔は悪くない。雰囲気が枯れてるだけだ!何でお前高校生のくせにそんな辛気臭いんだよ!」
「褒めるか貶すかどっちかしろよぉ!」
「おいお前らうるさいぞ!もうとっくに消灯時間過ぎてっからなぁ!」
恐怖の鬼瓦先生の巡回がやってきたので、俺はひとまず解放されたとほっと息を吐いた。
軽いお叱りを受けて、「はい、わかりましたー、さーせん」とまったく分かってない声で佐藤と山﨑が返し、鬼瓦先生は次の部屋へと向かった。
「さ、寝ようかな……」
俺はそそくさと布団を被り、瞼を閉じたが。
「よし、如月」
「寝ることは許されない」
強制開眼させられ、血に飢えた獣のごとく荒ぶっているコンビと目が合った。
俺は助けを求めて上を見たが、全ての元凶である友人はけらけら笑うだけだった。
「話してやれよー、ちっちゃい頃七瀬さんに泣きついてヨシヨシされてた如月伊織くん」
「「如月ぃぃぃ!!!」」
「うわ、馬鹿やめろっ、違う俺は無罪だーっ!!!」
何故あの友人に話してしまったのか。
恐ろしく巧みな話術で引き出されただけで、俺から話したわけではない。
そこをご理解いただけると嬉しい。
林間学校1日目から、大波乱でした………。




