2 謎の美少女にナンパされる
「はあ…」
電車を降りて、帰路に着いていた俺は溜め息を吐いた。
不毛だ。不毛すぎる。
いくらなんでも、不毛すぎる。
結局、昼休みの間、恋が始まりたての初々しい雰囲気の幼馴染とハンド部イケメンの2人を見届ける羽目になってしまった。
なんで傷付くだけだと分かっていて、見てしまうんだ俺は……。
こうなると分かっていたから、美亜と同じ高校にならないように、あの高校を選んだのに。
いい感じの、たまーに会うご近所さんぐらいの距離感で良かったのに……。
「はあ……」
「浮かない顔してるねー、どうしたの?」
「ん?」
真横に美少女の顔。
突然のドアップに、動転する。
俺はずさささ、と後ずさった。
「あはは、そんなに驚くー?」
おかしそうに、彼女は人懐っこく笑った。
いきなり自分の真横に人が現れたことも驚きだったが、何より驚いたのは彼女の美貌だ。
七瀬美亜という究極レベルの美少女を幼少の頃から見てきてしまったばかりに、俺はまず女子の容姿で気が動転したことなどなかった。
しかし、この美少女はとんでもない……
明るい茶髪のストレートをふんわりと巻き、ほんのりメイクをほどこした彼女は自分の魅せ方をよく分かっている。
白い肌は透明感抜群で、何よりあんなに小さな顔に収まってる真ん丸の目!
俺のどタイプど真ん中の、美亜の顔と雰囲気こそ違えど、特徴としては似ていると言っていい。
美亜が黒髪の控えめ正統派美少女だとしたら、この子は青春の中央に立っているアイドル。
キラキラの笑顔を浮かべている。
そんな彼女が、俺をじいっと見ている。
「び、びっくりした……。えっと、俺に何か用かな?」
若干の警戒心を抱きつつ、ぎこちない笑顔で俺は彼女に話しかける。
「うわぁ…顔はいいのに雰囲気枯れてるぅー…これがあのイケメンに成長するんだぁ…不思議」
「……ん?今、俺なんかさらっと貶された?」
「あはは、気のせいだよー!」
雰囲気枯れてるって言ったな??
初対面なのに……!
何で普段、俺が女子に陰でこそっと言われてる言葉をピンポイントで当ててきたんだ…?
俺は仕切り直しに、咳払いをした。
「…こほん。それで、何か用かな?」
「うーん?……ナンパ?」
「ナンパ!??」
目が飛び出るかと思った。
彼女はにこにこと笑顔を浮かべているだけ。
彼女の言葉通りなら、俺はこんな美少女に現在逆ナンされてることになるがーーーーーー
いや、まさか。
俺は無の境地だった。
観察は得意だ。
彼女の目の奥には、こちらを面白がるような愉悦の色が潜んでいる。
彼女は、恐らく俺のような女子慣れしていない男を思わせぶりに誘って、慌てふためく反応を楽しんでいるに違いない。
俺の心は、彼女の目的が分かっていくらか余裕が生まれていた。
ふふん、凪のように穏やかよ。
彼女に決して無様な姿は晒すまいーーーーー。
しかし。
彼女は、すっと俺の腕を取った。
絡めるように、俺の腕に自分の腕を回す。
お?…おん?
「…ふふ!もーっと、お話したいからぁ、カフェでも行こ?私この辺に引っ越してきたばかりだから、よく分かんなくて〜!美味しいとこ、教えてーーーー」
豊満な胸が、ぎゅうっと押しつけられながら。
「よ♡」
彼女は、上目遣いで殺しの一撃を放ったのだった。
俺は、死んだ。
 




