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11 料理が苦手な幼馴染

林間学校1日目の夕食は、定番のカレーだ。

各班に分かれて調理しろとのことだったので、大まかな役割分担をしていく。


しかし、ここで少々問題が起きた。

調理場が足りないので、クラス内で2つの班で1グループになれとのこと。


となれば()()()()()()()()が出っ張ってくるのは、当たり前だったのだ。


「やあ美亜。俺たちも一緒にいいかな?」


甘いマスクのハンド部イケメン・笹丘である。

本当はこんな温厚な性格ではなく、俺を親仇みたいに舌打ちしまくってるタイプなのだが、まだ美亜には隠しているらしい。


美亜が好きなので、中途半端に美亜の周りをちょろついてる俺のことが気に食わないのだろう。

それを表立って出すのは、幼稚だなと呆れるけど。


彼の後ろには同じ班であり、美亜や唐沢も含めた学内でのいつメンのグループのメンバーたちが居た。


ちっ、と2人分の舌打ちが聞こえてきた。

顔のいい蓮と唐沢のお2人さんは、笹丘に見えないところですんごい表情をしていた。

……多分?…俺の味方だ。


「あ、えっと……」


自分に決定権を委ねられた美亜は、困った顔をした。

こう見ると、あまり美亜は笹丘に好意らしいものを抱いていないように見える。美亜と笹丘が恋仲かもしれないと落ち込んでいた、少し前までの自分が馬鹿みたいだ。


俺は周りを見たが、既にどこも8人グループを作ってる。まあ、笹丘たちを無理に断る積極的理由もないしな。


待たせても悪いと思い、俺は困ってる美亜の代わりに返事をした。


「笹丘たち、一緒にやろ」

「ありがとう、如月」


笹丘がサムいくらい、優しい声を出す。

ここまで別人だと、俺にヘイトしまくってた笹丘の姿の方が偽物だと信じたくなるが、もちろんそんな事はなく。


「お前に聞いてねぇよ黙ってろ不細工」

「………」


肩を掴まれ、ボソリと呟かれた。

目が合うと、にこっと目尻を下げた笑いをするので、俺は彼の二重人格を疑った。


……すげぇな、コイツぅ……


あんまり調理の時間もないので、俺はどうでもいいやと笹丘の幼稚な態度は無視をした。

それが気に食わなかったのか、また舌打ちされたが、特に気にならない。


こういうところが「スカしてる」と笹丘の反感を買ってるんだろうが、彼には俺があえて相手にしてない優しさを分かって欲しい。

こっちも傷つきたくないし、相手にするわけないだろいちいち。


「じゃあ、美亜。一緒に野菜やろうよ。あ、如月と斉藤は火おこしとか頼める?女子にさせたら危ないし」


じゃあお前も来いやと思ったが、いかん平常心無問題(モーマンタイ)南無阿弥陀。

いつメンさんたちは、「きゃー、笹丘優しー」「惚れるぅ」とか笹丘をヨイショしてたが、エキストラなのか?金でも払ってんのか。

笹丘なんもしてないじゃん。


まあいい。


「ああ、分かった。行こうぜ蓮」

「えっ、おい」


蓮を誘って、俺は火おこしに向かう。

薪と新聞紙を用意して、マッチで火をつけようとしたが「まだ早いか」と思って、やっぱりやめた。代わりに他のグループの火おこしを手伝った。

昔家族でキャンプをしたことがあるので、ある程度慣れていた。


蓮が俺の隣にしゃがむ。


「やらなくていいのか?」

「やろうと思ったけど、多分まだ早いな」


俺が苦笑すると、蓮は首を捻った。

すぐに意味が分かるさ。


近くに居た男たちは、自分たちの作業がてら、俺たちが元いた場所を眺めている。


「七瀬さんって、やっぱり学年でいちばん可愛いよなぁ」

「絶対料理美味そー」


思うよな。やっぱりそういうの思っちゃうよな。

安心しろ、答えはすぐに分かるから。


思った通り、最初に聞こえてきたのは笹丘の情けない悲鳴だった。


「み、美亜っ!包丁、垂直、危なっ、ひょぇぇ!?」

「え?ごめんね、笹丘くん。何か言った?」

「おい、ちょ、!?包丁持ったまま、こっち見、ぶへぇ!痛ぁ、目にジャガイモがぁ!?」

「あっごめんなさい!ジャガイモがまな板の上で暴れてて押さえるのが大変でっ、」

「はは、大丈ぶぉ、ニンジンが、腹に……」

「あっごめんなさい!包丁持ったままニンジンもってたから!」


また笹丘の悲鳴が響いた。


「……………」

さっきまで幻想を語っていた男たちは、さっさと自分の仕事に戻った。彼らは現実を知ったようだ。


あの調子じゃあ、火をくべても調理するものが何もないからな……


「七瀬さんって、もしかしてすごくドジ?」

「料理だけは、点で駄目っぽいんだよな……」


バレンタインは一度俺が腹を壊して以来、市販なんだぁ………

調理実習も昔から油でファイヤーするし、洗剤ワカメスープとか透明のカレーとか……

美亜はとにかく料理が苦手だった。


俺は急いで引き返し、美亜の包丁捌きに怯えている笹丘を遠ざけて、美亜の手を押さえた。


「あ、伊織くん」

「美亜………」


まな板の上の、ひび割れたジャガイモの塊とか、台のふちにめり込んでるニンジンとか、半径2メートルほど散らばってる玉ねぎは、俺はひとまず考えないことにした。


「……包丁は、俺が預かるよ」

「うん?…うん!」


よく分かってない様子で、美亜は俺に包丁を明け渡した。無邪気に笑っている。

笹丘は一体何があったのか、すっかり腰を抜かしていた。


「……あ!あのね、見て見て伊織くん!ジャガイモがちゃんと切れたんだよ初めてだよ!いつも切れなくてそのまま入れてたのに!」

「………わ、わー、す、すごいな」


周りがぎょっとした顔をしていた。

だ、だろうな、ジャガイモ丸ごとは流石に……


「あのー……美亜」

「うん?」

「ご飯炊くの、楽しそうじゃないか…?」

「でもお野菜切るのーーーー」

「ご飯炊くの楽しそうじゃないか?」

「うん、?うん、楽しそうだね!」

「うんだから、唐沢とご飯炊いてきてもらってもいいかな?」

「?分かった!」


幸いにも美亜は聞き分けがよく、ハンゴーを持って、米を洗いに行った。


俺は思う。

人には適材適所というものがあるのだ。



ひとまず、笹丘が狼狽えてるさまを見れたのは、ちょっとスカッとした。



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