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9 娘が学校休んでソロキャンしてた

正直まともに話せなかったのだが、お菓子と唐沢のトークで何とかバスの時間はクリアした。

普段ならもう少し話せるのだが、今日はいかんせん緊張している。


花音に提案された"トラウマ療治"を、実行するためだ。そのせいで、心臓がキンと縮み上がっていた。


バスを降りると、2泊3日の林間学校の宿泊施設に着いた。ちょっと古めだが、綺麗そうなのは安心した。

美亜とか、潔癖症だし。


「何とか生きていけそう!」

「良かったな」


筋金入りの潔癖症だと判明した。


各自荷物を持って、ひとまず部屋に行くことになった。

バスに積んでいた自分のカバンを受け取り、俺が同室の蓮と向かおうとした時、信じられないモノを見た。


「ふんふーん〜、花音ちゃんのソロキャンデビュー〜♬」


明るい茶髪をポニーテールにした美少女が、ロビーに一般客として紛れ込んでいた。


間違いない。あの髪、あのスタイル、あの真ん丸の目!マスクしてるが、すぐに分かった。


あ、アイツ……っ!!


「蓮、すまん。先行っといてくれ!」

「ん、おう」


蓮を置いて、俺はロビーの方へと小走りで近付いた。

チェックインを終えたばかりの、美少女の肩をガシっと掴んだ。


俺は頭が痛くなって、側頭部を押さえた。

長いため息を吐いた。


「おい。何で、お前がここに居る?」

「ソロキャンしに」


我が娘、如月花音がしれっと言う。

彼女の言う通り、ここは学校向けの大規模な公共宿泊施設だが、もちろんそれだけではガラ空きの日が出てしまうので、一般客も受け入れている。

登山、アスレチック、カヌー。様々なアクティビティが充実していた。


「花音。今日、平日だよな?」

「うん、そうだねー。一応言っておくと、別に未来の曜日とこの世界の曜日はリンクしてるわけじゃないけど、一応私の居る未来の世界も平日だねー」

「つまり平日だよな?」

「………そうとも言えるね」


ふと沈黙が落ちた。俺は日曜日の国民的アニメのお魚一家のお父さんの気分だった。


「学校は?」

「……………」


花音は明後日の方向を見た。おいこっち見なさいバカ娘。


「学校は?」

「あのね、伊織くん。私には崇高なる使命があるの。本来なら悲惨なことになってた灰色の伊織くんの林間学校を虹色にするためにーーーーーー」

「学校は?ズル休みしたんだな?」

「崇高なる使命ーーーー」

「休んだんだな?」

「……………はい」


花音はついに白状し、だらんと頭を下げた。


「何日居るつもりだ」

「3日です」

「おい」


林間学校の間、ずっと居るつもりか?


「ていうか、色々どうしたんだよ。未来の俺とか母親にちゃんと説明したのか?あとどうやって未来人のお前がこの世界の宿泊施設の予約取れたの?」


身分証とかも通じないだろうし。

あと、未来からやって来た花音のスマホはネット回線が繋がらず、この世界では使用不可能だ。


それなのにどうやって予約取った?


「パパにお願いしまくって、ママにはパパの実家に居ることにしてもらった。なので未来の伊織くんの許可は貰ってるよ!文句なら未来の自分に言ってね!」

「俺っ!?」


嘘だろ。過去改変のために、未来の娘が学校サボるの許可したのか……?


「それだけ伊織くんが後悔してたってことだよ。あまりに美亜ちゃんとのすれ違いが長すぎたの。おかげで未来のパパは青春ヘイト気味になってる。たまに制服デートしてる男女見てると微妙な顔してる」

「おおう………」


なってそう。自分で言ってて悲しい。


「何か……すまんな」

「いいのいいの。パパは渋ってたけど私がゴリ押しただけだから!たまには学校サボって遊びたいよね〜」


花音は鼻歌を鳴らして、ロビーのソファに座った。黒いキャップとマスクを外した。

そういや制服以外の姿を見たのは初めてだが、俺の娘とは思えない美貌ぶりだ。

黒タンクトップにジャケット、ジーンズはスラリと長い。


きゅっと引き締まったお腹を出してるのは、ひとこと注意申し上げたかったが、娘のファッションにうるさい父親の役は未来に押し付けることにした。

未来ではそれが主流なのかもしれないしな。


「あ、だから予約はどうやって」

「んー、千代ちゃんに頼んだー」

「千代姉に?」


俺は予想だにしなかった人物に、目を丸くする。


千代姉、というのは水馬千代(みずま ちよ)

俺のはとこの上だ。

彼女の妹とは同級生にあたる。


最近は親戚の集まり以外ではめっきり交流がないが、幼い頃はよく千代姉とその妹の実家にはよく行っていた。

神社の娘たちで、なんか…神力とやらが使えたはずだ。お袋も、俺もそんな兆候はないので、本当かどうかは知らない。


「この世界の千代ちゃんはとっくに成人してるでしょー。だから、身分証貸してもらった。あと予約もしてもらった。顔はマスクつけとけば、バレなかったねー」


フロントの本人確認ごまかせたよとVサインしてくる花音。

そういえば、メイクの雰囲気がいつもと違う。

千代姉も結構目が大きいから、確かに少しメイクで寄せれば顔写真くらいはごまかせそうだけど。


少し遠いけど親戚だから、似たのか?


「って、千代姉にお前なんて説明したんだよ。未来から来たとかいきなり言われたら腰抜かすだろ。向こうはお前のこと知らないだろうし」


俺は逆ナンもどきから始まったからそこまで抵抗なかったが、いきなり『私は、貴方のはとこの如月伊織の未来の娘です〜』とか言われたら、ビビるだろ。


花音はあははっと笑った。

ナイナイと手を振った。



「大丈夫だよー。だって千代ちゃんは未来でーーーー」



その時、「ゴラっ!!」と怒鳴り声が聞こえてきた。

俺がビクッと振り向くと、すぐ後ろに般若の顔をした生徒指導部の鬼瓦先生が立っていた。


「如月ぃ〜!!!お前何やっとんじゃぁ!!!もうとっくにお前以外の生徒は部屋に行って待機しとるぞ!!」


「あっ」


あたりを見渡すと………居ない。

一般客以外、誰も居ない。

あんなに居たジャージの同級生たちが、消えていた!!


「一般客に絡んでお前は何をしとんだ!!!これは学校行事だぞ!!羽目を外して何女性客に軽薄に話しかけてんだ!!!」


「あっ、いや!ち、違うんです!」


コイツは未来の娘で!

俺は父親としてサボった我が子を叱ってぇ……!


「如月ぃぃぃぃ!!!いくら普段真面目なお前でも許さんぞ!!!集団行動の輪を乱すやつは、出ていけ!!」


「すみませんんん!!!」


その後、俺は鬼瓦先生に引きずられ、別室でたっぷりとお説教をくらった。

最悪の林間学校のスタートとなったが、外野から見たら俺が軽率な行いをしてしまっていたので甘んじて受け入れた。



しかし、鬼瓦先生に連れて行かれる俺を見て爆笑していた花音のことは、絶対に許さない。





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