6 何故か何故かの大集合
前回のあらすじ。
未来の娘と友人が出会った。娘がとんでもない嘘をついて、友人軽蔑。
人生ハードモード!
「冗談だよ。伊織がそんなことするヤツじゃないって知ってる」
「良かったです……」
女子を転がしてるなどというあらぬ疑いが晴れたことで、俺はほっと息を吐いた。最初から蓮は俺の反応が面白くてノッただけなんだろうが。
やめてくれ焦ったぞ……。
そして、慌てふためいている俺を見て笑い転げてる娘の花音。
そういえば忘れていたが、生粋の揶揄い好きなのだったコイツ。過去の父親相手にタチが悪い!
俺がちょっと睨むと、あはは、と笑って手を合わせる花音。
「いやー、ごめんごめん。いつもの、つい癖で」
「………いつも?」
「うん!私は向こうでは、常に伊織くんを揶揄って生きてるからねー!」
………。
よし。聞かなかったことにしておこう。
俺が娘に、未来で遊ばれているなどという事実は抹消しておく。
俺は威厳ある父親である。
俺が未来で娘のオモチャにはならないぞ宣言をしていると、突然花音はあたりをキョロキョロし出した。
何か探しているような素振りだ。
「どうかしたのか」
「んー?ううん、面白いもの見ちゃったなって♬」
「……面白いもの?」
俺は首を傾げた。花音の視線の先には、最近枯れ始めた茶色の土手があるだけで、別に何もないように見える。
まさかうちの娘、霊能力者とか言わないよな?
母方の家系が神力とか何とか不思議な力を持っている一族らしいけど、いやまさか。
俺も、俺の母親も何もそういうのはないし。
神力持ってるのは、俺のはとこの姉妹だ。
俺の疑問などつゆ知らず、にへらーっと笑って、花音は俺の腕を絡め取った。
えっ、と蓮からは驚きの声が上がった。
俺は2回目なので、そこまでリアクションには出なかった。……娘だしな。
胸を押し付けるようにめちゃくちゃ密着されてるが……娘だしな。
ていうか思ったんだが、花音ってこの年にしては父親と仲良すぎないか?
それとも高校生の俺だからこんな距離が近いのであって、未来の四十路の俺には違うのだろうか?
うわ、それは悲しい……
どうしたらいいんだ、俺は引き剥がさず娘からの密着を喜んで受け入れた方がいいのだろうか。いずれ来たる未来での娘からの反抗期を乗り切る糧にするために…!「昔はうちの娘はあんなに抱きついてくれてたのに…」と思い出す材料にするべきなのか!
……だんだん思考回路がおかしくなってきた。
花音が俺の腕を両腕でガッチリと絡めて、肩口にその小さい顔を近づける。ニコニコ笑う。まあ可愛いっすね。
「さっ、伊織くん。帰ろー?」
「はいはい」
「伊織が受け入れてる!?」
蓮がぎょっとした顔をした。普段まったく女子と話さない上に、明らかに免疫のない俺が動揺ひとつしてないのだから、そりゃあ蓮も仰天するだろう。
ま、娘なんだからな(以下略)。
「ねぇ蓮くんー?私も一緒に帰っていいよねー?」
無邪気さ100の笑顔で、花音が甘えるような声を出した。本当は計算された無邪気が80くらい入ってそうな成分表示だ。
蓮の頰がピクピクと跳ねていた。
「い、いいけど、その体勢である必要はないんじゃ、ないかな〜……?」
「えー?ありありだよぉ!私と伊織くんの仲・だ・し♬」
「え、え…?」
蓮が明らかに困惑した声を出す。珍しくこの男が相手のペースに押されていた。花音強し。
しかしよ、匂わすな娘。ノリノリで過去の父親と意味深のムーブすな。仲は仲でも、俺とお前は血で繋がってる仲なのよ。
蓮を転がして、俺に相変わらずくっつきながら、花音は意味深に笑った。親にバレないようにこっそり夜中に起きてお菓子を食べでもしそうな、悪企みの笑み。
「…ふふっ、にしし、そろそろ釣れる頃かなぁ〜?」
「…何が?」
「んー?伊織くんの好きな人」
「えっ?」
俺が聞き返すより早く、少し遠くの土手の茂みがカサカサと鳴った。俺の場所からは角度的に土手の斜面までは見渡せないのだが、何か生き物でも居る如く、草木が動いた。
それからその茂みのわきから女子の声が聞こえてきた。
「こういうのは、もう聞いちゃうのが手っ取り早いのよ!」
「待って紗月ちゃっ、まだ心の準備がーーーっ!」
「ん?」「あれ?」
俺と、蓮の声が重なった。
花音だけは予めこの事態を予測していたかのように、「にしし、来た来た来たー!」と興奮していた。
俺たちの前に飛び出してきたのは、体育会系のボーイッシュなボブの美女。
と、それを引き留めるふんわりとした正統派美少女。
土手の斜面でこんがらがっていたその2人と、俺たち3人の目がバチリと合う。
ボブの美女は俺を指差し、ふわふわ美少女は羞恥ゆえか手で顔を覆っていた。
唐沢と、美亜である。
唐沢は眉根を寄せて、キリッと俺を睨みつけた。
彼女に宿るのは、多分正義の目だった。裁きの鉄槌を下す役人の如くである。
「ちょっと!見てたよ如月くん!一体その子誰なの!美亜が如月のこと心配してたから後つけてみたら、とんでもないとこ見てしまったわ!ねえ、美亜すごく気にしてたんだからね!?」
「紗月ちゃーーーーっん!!!!!」
「んもがっ、もがっ……!」
美亜が慌てて唐沢の口に両手を乗せて、塞いだ。美亜は顔を真っ赤にしている。
小声で唐沢に「何で言っちゃうの紗月ちゃん…!どうしようどうしよう」とお説教し、オロオロしていた。
美亜はあちこちと視線を彷徨わせ、ニコニコしている花音と、かたわらの俺を交互に眺めると、ぱっと目を伏せた。
かぁぁ…と耳を赤く染め上げていく。
「蓮、目塞いでくれ」
「別にいいけど、断るわ」
「断るな」
こんな可愛いとこ見たら、お前が美亜に惚れてしまうじゃないか。俺は親友と恋敵にはなりたくないぞ。
美亜の焦りパートは続く。もはや必死すぎるほど、焦っていた。唐沢の言い分が正解だと口にしているようなものだ。
「ち、違うの、違うの。伊織くんたちの後をつけてたわけじゃなくってね……!そ、そう、冬の土手で寝っ転がって日向ぼっこしようと思って……」
「えへへ美亜ちゃん、今日は曇りだよ〜ぉ」
花音がかつてないほどニッコニコで、曇天の空を指差した。確かに日光浴には向かない天気である。
言ってしまったな、花音め。
「はわわわわわ……!」
たやすく花音に嘘を看破されてしまった美亜は、さらに挙動不審になった。
視線でメリーゴーランドをつくった。
「…………ごっ、ごめんなさい………」
消え入るような声とともに、花音は再び顔を覆って、唐沢は同時に口の自由を取り戻した。




