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5 友人と未来の娘が出会ったら

美亜と久しぶりに登校して、話をすることができた。

それは多分、花音がこの世界に来なくては起こり得なかったこと。


俺が花音と一緒に居る光景を見て、美亜が気に掛かった…というのは、間違いないだろう。

しかし何故かと言われると、答えに困る。

やっぱり、幼馴染だからか……?

俺が珍しく女子といたから、単純に気になっただけとか?



それとも、ーーーー期待していいのか。

ここから始まる何かの可能性があるって。




「………伊織、お前今日どうした?心ここにあらずって感じだけど」

「え?」


俺が顔を上げると、苦笑している蓮と目が合った。

蓮の串は、バラが消えて既に綺麗になっていた。

俺がぼうっとしている間に、食べ終えたらしい。


蓮は俺の手にある焼き鳥の串を指さして、「食べないなら俺食っていい?」と欲張ってきたので、無視してまだ口をつけていなかった肉を頬張った。

おん、美味い。

コンビニも悪くないけど、注文を受けてから炭火で焼いた焼き鳥屋のとは、また美味しさが違う。


河川敷を歩きながら、俺が残りの肉を食べていると、蓮がこんなことを言い出す。


「そういえば伊織、今日七瀬さんと朝一緒に来てたな?」

「んご、ごほっ、ぐぇ」

「ははっ、何動揺してんだよ」

「うっせ」


耳が少し熱をもつ。

俺はもろに動揺を露わにしてしまった決まり悪さで、悪態をついてしまったが、蓮はそれを笑い流した。


「……"俺のスタンスは変わらない"んじゃなかったけ?」


美亜への不毛な片想いをどうするかと聞かれて、俺がそのうち消えるのを待つ、と言った時のことだ。


それなのに、今日は美亜と登校してきた。

それでは片想いをやめると宣言していたのと、説明がつかない。そういうことを言いたいんだろう。


再び喉を詰まらせて、俺は眉を寄せた。

危うく串が口を刺すとこだったぞ!


「お、ま…っ、…性格悪い……」

「くく。で?」

「で?って何だよ」

「やっとやる気になったのかって、ことだ」


俺は言葉に詰まった。

何と返したらよいのだろう。

この友人は俺が美亜を好きだと察してから、何かと俺をその気にさせようとする。


他人事だと思ってこのモテ男、と恋愛面に関してはかなりやさぐれていた少し前までの俺なら、今の蓮の言葉をすぐに否定していただろう。


でも、今の俺は………


長い息を吐き出す。


「……迷ってる」

「ああ、安定のヘタレね」

「やかましい。恋愛強者」


あのな?お前は、弱者の気持ちを考えたことあるのか。

こっちは好感度上げるので精一杯なのに?お前らはあっちが自分を好きになれよスタンス!余裕すぎる、強すぎる。

顔か、結局顔なのか…!


俺がこの世の理不尽に思いの丈をぶつけていると、蓮はやれやれと両手を上げた。

わざとらしく溜め息を吐いた。


「勝算あると思うけどなー、俺は。…まあ本人がこの調子じゃ一生無理だけど」

「悪かったな、腑抜けで」

「いやほんとに」

「お前」


俺が拳を固めて宙に浮かすフリだけすると、蓮はまた笑い飛ばした。


その時、高めの女子の声が割り込んできた。



「私もねー、蓮おじさんに同意だなー?伊織くんはいい加減腹くくろ?」



にょきっと、俺と蓮の間に顔を出した美少女。

今日も赤い紐で結んだポニーテールと、爛々の大きな瞳がトレードマークだ。


「え?」「お?」


俺と蓮がびっくりしているうちに、にししとその美少女は笑った。

その美少女。………言わずもがな、こちらは神出鬼没の我が未来の娘、花音である。


お前いつの間に?!

全然気づかなかったぞ。


「もーっ!一夜明けて、そろそろ伊織くんの返事が聞けるかな〜と思ったのに、全然駄目じゃん!蓮おじさんもこう言ってるんだから、いい加減素直になろうよ伊織くんはさぁ!」


「……蓮おじさん……?」


震えた声が混じる。

我が友人、斉藤蓮が遠くの一点を見つめて、灰のように消えかける寸前だった。

顔面蒼白である。


何故、突然割り込んできた初対面の美少女が自分の名前を知っているのかということより、ショックが大きかったらしい。


そりゃあ、高校生の身でおじさんとか言われたらな!

しかも同級生っぽい女子に、だ!


俺は花音をちょいちょいと呼び寄せて、蓮に聞こえないようにこっそり話しかけた。


「…おい、花音。蓮おじさんって何だ!」

「え?蓮おじさんは、蓮おじさん……」


花音は不思議そうな顔をして、それから、はっ!と口を押さえた。ようやく気づいたらしい。


「って、ごめん!そうだったそうだったー!ここは過去の世界だから、まだ蓮おじさんもパパと一緒の高校生だよね!()()()って呼ばなきゃ!」

「はい、そうですよ」

「うっかり、うっかりー」


てへ、と舌を出して、間違えちゃったポーズをする花音。反感買うより、可愛いが勝ってしまう。うちの娘の遺伝子は、誰のだろうか?


「……てか、未来でも俺と蓮って友達?花音が知ってるってことは、相当な年数じゃないか?」

「うん、……えっーと、25年来の親友?」

「おおすげえ!今までで一番嬉しい未来のニュースかもしれない」


大人になっても、実の娘が知ってるレベルで交流があるの嬉しいわ。


俺が思わぬ喜びの知らせにニコニコしていると、花音がむむっと頰を膨らませた。


「ちょっと、ちょっとー!めちゃ可愛い花音ちゃんの爆誕がパパの一番嬉しい未来のニュースでしょー!こんなに可愛い娘が居るんだよー!?」


花音から猛抗議が返ってくる。

こ、この揺るぎない自信!是非とも見習いたい。


「違うのー?」

「いや、それも嬉しいぞ?でも、アレだから。いまいち現実感ないっていうか。その点、蓮との関係は"今"と繋がってることだし」


突然未来の娘だと言われても、今の自分は事実として受け入れてはいるが、実感しているわけではない。

今との繋がりがあまりなく、それは"未来"のこと!…といった突然振って湧いた非連続的な印象がある。


でも蓮とは既に友人だし、それが未来でも続いているというのは、イメージしやすい。


「にゃるほどねー?」


自分でもSFすぎる自覚はあったのか、花音はうんうんと納得してくれた。良かった。


ようやくショックから立ち直ったらしい蓮は、あわてて俺の肩を掴んだ。


「……なあ、伊織。その子……」


ああ……何て言おう?未来の娘とは言えないし、知り合いでいいか?


「ああ、この子はーーーー」


「どうもー!花音だよ!初めましてっ!伊織くんからお話は聞いてるので、蓮くんのこと知ってます!」


えへっ、とピースする花音。

上手いじゃないか。ちゃんと蓮の名前を知ってる不自然さに気づいて、それらしい理由をつくってフォローしたぞ。


「……ああ、なるほど…?」


蓮は頷いた。特に疑っている様子はなかった。おじさんショックがよほどダメージ食らったのか、元気がないようにも見えたが。

うちの娘がすまん……。


しかし、さすがイケメン。

蓮が営業スマイルのように、笑顔を自然に固めた。

一方で、突然現れた花音を見定めるごとく、目を細めた。


「……それで、花音さんは伊織とはどういう関係?」


マズいな。それを聞かれると俺たちは非常に困るのですが!

大丈夫だろうな花音!?変なこと言うなよ!?


花音は制服の袖口を手に当てて、にししっと笑った。


「えー?私が誰かって?そうだなぁ……」


もったいぶるように言葉を切って、焦らす花音。

かと思ったら、スカートのポケットからハンカチを取り出して、いきなり目元を押さえた。


「実はワタクシ……伊織くんがキープしてるオンナの1人……っ!」

「……は?」

「えーん、本命居るからって、キープされてます!ひどいよぉ、伊織くん……ウチのこと、遊びだったんだよね……えーん」

「は?は?」


ちょっ、まっ、!?

はぁ!?

お前何言ってんだぁーッ!???

マ・ジ・で・何言ってるんだアッーーーーッ!?


ジトっとした目で、蓮がボソリと呟く。

見たこともない軽蔑の眼差しだった。


「………伊織、お前……。…俺七瀬さんに一途なところを尊敬してたのに…見損なった……」

「はあ!?ち、違う!」


「えーんえーん。伊織くんがウチの心を弄ぶよぅ」

「オイ!か・の・んっ、お前ェーーーー!!!」

「きゃーあはは!?」


ふざけ倒すふざけた娘の頭をぐりぐりの刑に処し、その後俺は必死に弁明する羽目になった。


しかし、蓮の疑いの目は、なかなか晴れなかった。


我が娘よ、覚えておけ?













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