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1 幼馴染は負けモブだと思う

幼馴染は、負けヒロインと言われているらしい。

主人公は、長年過ごしてきた気心知れた幼馴染の女子ではなく、突然現れたヒロインと恋に落ちてしまうんだとか。


だったら、男の場合は?

幼馴染の女子に片想いをしている俺の場合は、どうだろうか。


答えは明白だ。

男も幼馴染である時点で、負けヒーロー。

いや、俺はヒーローですらない。

そう、負けモブだ。

勝手にそう思ってるとかじゃない、俺は知っている。この片想いは、決して実ることはない。


俺の脈なし確定は、中学2年生の時だった。

確か忘れ物を取りに行こうと、部活を抜けて放課後に自分の教室へ向かった時。

廊下から覗くと、俺の幼馴染にして片想い相手、七瀬美亜が教室に残ってグループの女子たちで話に花を咲かせていた。よく見かける光景だ。

ちょっとした日常の笑い話から、恋バナまで。

気になるが聞く勇気が出ない、小さな女子会。


何だか教室に入るのが躊躇われて、引き返そうとした時ーーー


『ええ〜?美亜ちゃん、本当に如月くんと付き合ってないの??』

俺の名前が出たので、ドキリとした。

ちらりと見ると、グループの1人がニヤニヤとした顔で、美亜に詰め寄っている。

『ふふーん。そんなこと言って本当は……?』

『ええ!っ、な、ないよ!ほ、本当に違うから!私、伊織くんのこと、そういう目で見たこと、全然ないから…!伊織くんは恋愛対象とかじゃなくて、あの、すごく素敵な友達!恋愛対象じゃないから!』

席を立って、慌てたように手を顔の前で振る美亜。

その必死ぶりは、よほど俺とそういう仲だと思われたくないのだと感じさせて、俺は心臓が凍りついた。


ーーー恋愛対象じゃない。

その一言で、自分のこの片想いの行き着く結末を、俺は知ってしまった。

別に、期待はしていなかった。

大人しくてやや引っ込み思案な彼女が、俺にだけ向けてくれるふとした笑顔が、ただの幼馴染としての好意だなんて、知っていた。

『もぉー、美亜ちゃん、本当かなぁー?』

『ほ、本当だよ!伊織くんとは、一生、と、友達!友達でしかないから…!』

ーーー友達。一生、友達。

最後のとどめを食らって、俺は、静かにその場を離れた。もう、それ以上聞けるはずがなかった。

ただ、苦しいと。

その後の記憶はあまりない。上手く呼吸が出来なかったのだけは、今でも覚えている。


あんな素敵な美少女が、俺と一生友達でいてくれると言ったのだ。喜ぶべきだ。

だけど俺は、彼女への恋心を多分、しばらくは捨てられない。

もし、その俺の感情に美亜が気付いてしまったら、どうなる?

友達でしかない、好きでもない男から寄せられる好意を、彼女に気持ち悪く思われてしまったら。

それは、何よりも嫌だった。


だから、距離を置いた。いつか友達としてもぎこちなくなり、拒絶される日が来るくらいなら、それなりに良かった幼馴染の印象だけ彼女に残ってくれればいい。

高校は地元から離れたところを選んだ。美亜には志望校を尋ねられたが、はぐらかした。

なのに、何の因果だろうかーーーー彼女も、美亜も、俺と同じ高校に進学していた。

俺と彼女の学力は同じくらいなので、その点で言えば必然だったのかもしれないが。


おかげで、俺は相変わらずモテる幼馴染を、毎日眺める羽目になってしまった。

その美亜の隣にいる、ハンド部イケメン。現在、美亜といい感じだと噂の男である。

その甘いマスクを見ていると、俺の顔と正反対なので、どうして自分が恋愛対象に入らなかったのか自然と分かってしまった。

ああ、俺も美亜好みのあんな甘いマスクになってみたい…


「おい伊織。まーた、七瀬さん見てんの?」


自分の席でぼーっとしている俺の前の席に、友人の斉藤(れん)が座った。コイツもコイツで隠れファンの多いイケメンである。羨ましい。


「いいだろ…。美亜には迷惑かけないから。せめて、これくらい許してくれ…」

「いや、別にいいけど。何で告らないの?」


正気かよ、コイツ。お前の目は、あのいい感じのお二人が見えてないの?


「俺が告っても、フラれるに決まってんだろ…」

「いや、別にフラれたことはないんでしょ」

「いや!何で、お前はあたかもワンチャンある感じで勧めてくるんだよ!?」


これは目が節穴どころの話じゃないぞ!意識を司りし間脳視床下部が怪しい!


「……何となく?七瀬さんが一番心開いてるのは、伊織じゃない?」


頬杖を付いていた俺の肘帝国が、崩壊した。

期待した俺が馬鹿だった。

そりゃあ、幼馴染だからな…気心知れてるだろ。

生まれた時から一緒なんだぞ。

俺は、はあと溜め息を吐いた。


「いいか、蓮。恋ってのはな、相手を前にするとドキドキしてままならない感情の昂り。俺は気心知れてる幼馴染の時点でそもそも負けてるんだよ」

「ええ……」


蓮は微妙に納得のいかない表情をしていたが、俺はそれより美亜の方へと視線をやった。

確かに美亜はハンド部イケメンにぎこちないように見えるが、恋しているが故の緊張だろう。

ハンド部イケメンの方は、一目でどんな感情を抱いているか分かるけど。幸せそうだ。

彼の友人らしき男女も、会話の応援に回っている。


付き合うのも、時間の問題、か……


俺は、一体いつまでこの不毛な片想いを続ければいいのだろう。

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