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2 既に種は蒔いている

幼馴染の美亜との関係の進展を手伝ってくれるという、俺の…未来の娘である花音の提案。


しかしそれは、彼女曰く、「最終的な結婚相手は変わらない」。


つまり。

花音はあくまで、未来で俺が「高校時代に美亜に想いを伝えておけば良かった」という後悔を抱えていたことに対して、その解消をしにタイムトラベルしてきただけであって、()()()()()()()()()()()()()()は変えるつもりがない。


ただ本当に、俺が美亜に想いを伝える手助けをしたいだけらしい。


それはまだ分かるが……


奇妙なのが、俺と美亜を恋人関係にさせる手伝いまでも、花音が視野に入れていることだった。


いわば花音はーーー仮に、過去で父親である俺の恋路が変わっても、未来では絶対に俺と自分の母親と結ばれるという自信があるのだ。


彼女はそれを(えにし)だと称していた。

その縁で結ばれた相手こそ、運命の相手だと。

俺にとっては、それが花音の母親だとも。


だから花音は、青春限定の恋愛を提案してきたのだ。



その提案に対して、俺は「考えさせて欲しい」と言った。

諦めたはずの美亜への恋愛感情に、自分の中で彼女に想いをどうしても伝えたいという積極的な情熱がまだ残っているのか、自信が無かったからだ。



「まあ、でも……伊織くんはそんなことを言いながら、きっと私の提案を受けると思うよ?」


花音はグラスの氷をストローでかき回しながら、自信たっぷりに笑って、そう言った。

俺は誤魔化すように、グラスに口をつける。


「まだ分かんないだろ」

「ううん、分かるよ。伊織くんは、やっぱり美亜ちゃんの恋人になりたいって、私に泣きついてくるはず!『神様仏様花音様お願いします』ってね〜!」

「いやそれはない」

「あはは、それは伊織くんのキャラじゃないか〜」


勝手にキャラ変させられていることに眉をひそめて静かに抗議すると、花音はくすくすと笑った。


「ていうか。…俺花音に言ったか?幼馴染の美亜が好きって」

「あー、未来のパパに事前に聞いてたから」

「未来の俺って、何かキャラ違くない…?ふつー、そんなあけっぴろげに娘に話す…?」

「あははー」


花音は特に答えずに、笑った。


まともに取り合ってもらえなかった気苦労に肩を落としていると、花音は足を組み替えた。

形のいい太腿が、制服のスカートからちらりと覗いた。


美亜なんて膝下まであるのに、この娘はスカートが短いけど大丈夫かなんて思っていると、ぬししと花音が笑った。

わざとらしく足を組み替えて、ぷらんと揺らした。


「興奮しちゃ駄目よー、パパー?」

「娘に欲情する父親がどこに居るんだよ」

「あはは、ジョーダンジョーダン〜」


花音からすると、自分と同い年くらいの見た目をした、この時代の俺に対してだから出来る軽口が楽しいらしい。

ひとしきり肩を揺らした後、うっとりと目を細めた。


「でもねー、どちらにしろ既に種は蒔いてあるの」

「種?」

「そ。この前、おじいちゃんおばあちゃん家…パパの実家に私、遊びに行ったじゃない?」


花音が我が家にジャージを取りに来たときの話だろう。

あの時は分からなかったが…そうか、俺の娘である花音からしたら、俺の両親は祖父母にあたるのか。

どうりで「おじいちゃんおばあちゃん」などと口にしていたわけだ。


「その時、美亜ちゃんに会ったでしょ?」

「ああ。…それがどうかしたか?」

「やだパパー。まさか自分の父親が鈍感主人公してるなんて、思わなかった〜」


鈍感…?


美亜はカチッとマイクを入れ直して、俺に差し出す。

またインタビュアーみたいな構図だ。


「私とパパが一緒に居る姿を見て、美亜ちゃんはどう思ったと思う?」

「どうって………別に何とも」


俺からしたら美亜は好きな人だが、美亜からしたら俺はただの幼馴染だ。

異性と居たから、どうということはないだろう。


「はい、そういうところー。良くない良くない。駄目だよパパ。だからモテないのー」

「今、関係なくない!?」

「ありまーす。女心の分からない男はモテないのです。つまりパパはモテませーん」

「ひ…酷い」


俺はショックに打ちひしがれながら、膝の上の拳を震わす。別にモテたい願望があるわけではないが、好きな人に恋愛対象外と言われた悲しき過去を持っている以上、「モテない」などというワードはダメージがデカい。

男としての威厳が……。


いや、待て。考えてみろ。

未来で俺、結婚出来てるんだぞ?

話聞く限り、ラブラブだぞ?


つまり、悲しい必要なんてないーッ!


俺は勝手に自己回復して、涙を拭う。

俺は負けない……JKの娘の悪言にも屈しない…!


「断言してあげる。自分以外の女の子と居るところを見た美亜ちゃんは、確実に伊織くんを意識する」

「そんな馬鹿な」


俺、昔恋愛対象外って言われたんだぞ。

意識されるわけがない。


「いいーえ、あり得ます。だってね、美亜ちゃんは未来で………」

「え?」


花音の口からポロッと漏れ出た言葉に、俺が訊き返すと、花音は首を振った。

何でもない、と笑って誤魔化す。


「とにかくねー、美亜ちゃんに私の存在を匂わしてみたらいいよ〜?ただし、決定的な言葉は駄目。あくまで匂わせ。それで美亜ちゃんは伊織くんのこと意識するしかなくなる」


「本当かよ……」


「ほんとーほんとー。頑張って伊織くん!それで可愛い幼馴染の彼女をゲットするんだぜー」


「ああ、頑張るーーーー」


頷きかけて、俺ははっとした。


「って、勝手にその流れになってる!?俺さっき美亜との関係は『考えさせて』って、言ったばっかりだよな!?」


「にゃはは〜、それこそ花音ちゃんの成せるわざぞよ〜。見誤ったな、()い奴め〜」


「危なぁ……!?」


危うくうっかり口車に乗るところだった。

恐るべし、我が娘。












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