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プロローグ おかしなことを訊きますが

とあるカラオケの個室。

ドアを閉じた瞬間に、さきほどまで聞こえていた他の客の歌声は完全に聞こえなくなってしまった。廊下中に響いていた大音量の音楽。いきなり耳の奥で遮断されたこの感じが、いつ来ても慣れない。


まるで防音が完璧なのかと錯覚させられるが、先ほどの客の声があんなに外へ聞こえていたんだ。

…嫌すぎる。自分の歌声を晒したくない。


「わ、ラッキーだね伊織くん!ステージあるじゃん〜!存分に歌えるー!」

一緒にやって来た美少女が、簡易的なステージが部屋内にあるのを確認して、きゃっきゃっとはしゃいでいる。

つい2週間前ほどに知り合った女の子だ。

それが2人きりで、こうして遊んでいるとは、俺の人生的に、あまりにも加速度的すぎる出来事。

まあ、全部彼女の方からグイグイ来るのを、訳あって俺が断りきれず。

今日も忌避すべきカラオケとやらに来てしまった。


しかし、どうしても確かめたいことがあったのだ。


「あ、ねえねえ!後でここでデュエットしようよ伊織くん!楽しそうじゃない?」

くるりと振り返って、爛々に輝いた瞳を俺の方へと向ける彼女。

俺の幼馴染は随分控えめなタイプの美少女なんだが、この美少女は青春のど真ん中を謳歌しているタイプなので、慣れない。

いや、何だ、その恐ろしすぎる提案は。

「やだ」

「ええ〜、高校生らしからぬノリの悪さ!何で?いいじゃーん!」

「お前の耳を破壊してもいいなら歌ってやるよ」

「え、まじ?」

「いや。そこまでじゃないと俺は信じてる」

うん、信じてるぞ。

だから、昔、通知表の音楽だけ5段階中2をつけてきたあの担任、許すまじ。


すると、この美少女は何の恐れをなしたか、マイクを片手に一本ずつ持った。両手にマイク。

欲張りすぎだろ、それは。別に俺はわざわざ自分から歌わないんだが。

「あ……、じゃ!今日は私が全部が歌うから、伊織くんは聞き専ね!?はいはい、座って〜!」

「…おー、好きなだけ歌ってくれ」

よし、歌わなくて済みそうだな。

ちょろい奴め。

俺はL字型ソファに腰を下ろして、自分の思惑通りに事が運んだのをしめしめと思いながら、側に立っているこの美少女の横顔を眺めた。

今はタッチパネルで、歌う曲の選定をしているようだ。

鼻歌でも歌い出しそうな、軽やかな楽しさが彼女の全身から伝わってくる。

ほんのりメイクはしているんだろうが、それがなくても群を抜いた美少女ぶりなのは、一目見れば誰もが分かるだろう。

すーっと綺麗に通った鼻筋も、縁取る長い睫毛も、よほど親…いや、母親の遺伝子が良かったのだろうと思う。


俺の視線に気付いたらしい彼女は、マイクを持ったままの手で口元を隠した。

「ええ、もう、何ー?そんなに見られると、私照れちゃうんだけどー!」

「ーーー花音」

俺は、彼女の名前を呼んだ。

下の名前しか教えてくれなかった彼女に、俺はこう呼ぶしかないのだ。


わざとなのか、それとも無意識なのか。

彼女が俺に、そうだと気付かせるためのヒントは、いくつかあった。

だけど、確証はない。

もし、今から彼女に尋ねることが間違っていたなら、俺はただの頭のおかしい奴になってしまうので、どうか本当であって欲しい。


「…おかしなことを訊くんだが」

「ええ?あははー、何、急に……」


「花音はーーー、俺の未来の娘だったり、するか?」



花音は、静かに目を見開いてーーー

それがかなりの驚愕の色を孕んでいて。


うわ、端から見たらやばい奴だな俺。

同い年くらいの女子に、未来の娘か?だなんて。


言うべきじゃなかったか……?

今更不安になってくる。



カラン、とグラスに入った氷が鳴って、緑の中へ溶けていった。小さな泡が上へと昇っていく。


もしかして、俺の推察が全然違っていたらどうしようか……


とか思ったが。


いやはや。


実にそれは、まったくの杞憂だった。


途端に、花音は破顔した。

それと同時にちぇっとつまらなそうな表情を浮かべた。


「え、やだ!もう分かっちゃったのパパ!?ヒント出しすぎたなぁ……くぅ、楽しかったのになあ、高校生のパパを翻弄するのは。……ねえ、伊織くん?」



「………………え、まじで?」


何となく勘付いてはいたが、それが事実と言われた今、俺はさきほどの彼女の何倍も目を見開いた。



ーーーー最近やたらとグイグイ来てたこの美少女、実は俺の未来の娘かもしれない件について。


そもそもの始まりは、2週間前に遡る。


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