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島本さんとグロック

「こちらを向け」


 俺は言われたとおりに後ろを向いた。目の前にいたのは、俺のクラスの担任、島本正文(まさふみ)に違いなかった。

 右手に握られていたのはグロック19。現在世界で最も使用されている拳銃だ。その拳銃は俺に向けられ、左手には俺が持っていた拳銃、九六式自動拳銃が握られていた。


「この銃は本物か?」


 島本さんは左手の九六式自動拳銃を見ながら言った。


「ええ、本物です」


 俺の方を見る島本さんの眼光が厳しくなった。目の前の男が島本さんであるという自信が少し薄れてしまった。


「……あの、とりあえずその銃下ろしてもらえませんか? 俺、丸腰ですし」

「あーすまんすまん。かわいい教え子に銃向けるってのは教師のすることじゃないよなあ」


 島本さんは少し笑いながら右手のグロックをスーツの裏にしまった。それでようやく緊張がとけた。


「で、なんでお前が本物の銃なんて持ってるんだ?」

「島本さんこそなんで銃なんて持ってるんですか?」

「大人には秘密があるのさ」


 島本さんはそう言って、人差し指を口に当ててウインクした。いや、37歳のおっさんがやっていいポーズじゃないだろ。

 俺は本当のことを話すべきかどうか迷った。だが俺にはこの人以上に信頼できる大人なんていない。たぶん誰かに話さないと耐えられないから。


「俺の家にチンピラが上がりこんで、その銃で父さんを撃ったんです」

「撃った、だと? この近くで銃声なんて聞こえなかったが」

「その銃、九六式自動拳銃にはサプレッサーが内蔵されてるんです。それも銃声をほぼ無音にする。チンピラは九六式があれば完全犯罪なんて余裕なんて言ってたし」

「無音とは少々信じがたいが……。それで、この銃は奪ったのか?」


 ここまで言ったら言うしかないだろう。


「はい。このままじゃ殺されると思って、死にもの狂いで銃を奪ったんです。それで、そのチンピラを撃ちました」


 島本さんは眉をひそめた。


「でも、その男には逃げられた」

「黒木。その話本当か」

「こんなこと嘘で言いませんよ」


 島本さんは頭をかきながら少し考えているようだった。


「黒木、逃げるぞ」

「え?」

「警察が来る前にできるだけ早く遠くに逃げるんだよ! 話は車の中でだ!!」


 島本さんは俺の手を引っ張って走り出した。近くに停めてあった島本さんの車、黒のランサーエボリューションXに一緒に乗り込み、島本さんはすぐにシフトレバーを1速に入れて走りだした。そして九六式自動拳銃をダッシュボードの小物入れに入れた。


「まーとりあえず逃げたが、そのチンピラもカタギじゃなさそうだし、警察に駆け込んだりなんてしないだろ」


 確かに被害者が警察に駆け込まなければ、傷害も殺人未遂もチャラだ。


 島本さんから渡されたタオルで頭を拭いていると、携帯が鳴った。すぐに出ると、それは病院からの電話だった。俺は島本さんの車でそのまま病院に向かった。

 俺は島本さんとともに、父さんのいる集中治療室の前に立った。


「黒木さんのご家族の方ですか」


 そこから出てきた医者に話しかけられた。


「はい、息子です」

「わかりました。お父様の様態ですが、なんとか一命は取り留めました」


 よかった、生きてた……。


「ですが、予断を許さない状況です。出血が多くまだ意識を取り戻していません。……このまま意識が戻らない可能性もあります」


 それって、要するに死ぬかもしれないってことか?


「あの、顔は見れますか」

「はい。ただ、体を触ったりはしないでください」


 医者が扉を開け、部屋に入った。

 そこには酸素マスクや点滴のチューブを付けられて横になった父さんの姿があった。目を閉じた父さんの顔には普段の厳しい表情はなかった。


「ちくしょう、なんでこんなことに……」

「我々も最大限の努力は尽くします。ですが、覚悟はしておいてください」


 親が死んでも大丈夫だって覚悟なんて、高校生の俺にそんなの無理に決まってるだろ。


 俺と島本さんは病院を出て、黒いランエボの中に戻った。雨が強く、どしゃ降りになってきた。


「父さんはなんで撃たれたんだ。あんなやつに目をつけられるようなことなんて」

「黒木、最近続けて起きてる、警察関係者が襲撃されてる事件って知ってるか」

「いえ、そんな事件が」


 テレビでもネットでも、そんなの聞いたことないぞ。


「なぜだか報道はされないがな。その一連の事件は一つの犯罪組織によるものだと俺は推測している。お前のお父さんを襲った男もおそらくその組織の構成員だ。何が目的かは知らないが、警察が憎くてしょうがないみたいだな」


 なんだよ組織って。なんで警察を襲うんだ。自分たちにとって邪魔だからか? そんな理由で人を撃っていいわけがないだろ。


「……島本さん、銃、九六式自動拳銃を返してください」

「何言ってんだ」

「あの野郎が、そしてその組織の連中がほくそ笑んでるなんて耐えられない。自分の手で、父さんの仇を取る」


 俺は父さんのことが好きじゃなかった。嫌いだったと言ってもいい。だが父さんが撃たれて気付いた。父さんは俺のたった一人の家族なんだ。


「いや、そいつはできない」

「なんでですか! わかるでしょ俺の気持ち。父親を撃たれた俺の気持ちが……」

「お前、また犯人と対峙したら、撃つのか? 殺すのか?」


 父さんの仇を取りたい。だが、それはやつを殺すということ。やつを殺してしまったら、俺の方が悪人なんじゃないのか?

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