再臨のライトニングガン
警察署での出来事から数日後。
午前0時。ヘアピンをつけて前髪で隠された右目を出し、九六式自動拳銃をホルスターに入れ外に飛び出した。
九六式自動拳銃。その外見は古めかしく、長い銃身には消音器、サプレッサーが内蔵されている。発砲音はプシュンという、例えるならば炭酸のペットボトルを開ける程度の音しかしない。
その名前から作られたのは皇紀2596年、つまり西暦1936年と推測される。現代でもありえないほどの消音性能を持つ無音銃だ。
この九六式で金田は俺の父さんを撃った。俺は九六式を金田から奪い取り、父さんの仇を取るため金田が属する犯罪組織と戦ってきた。俺は金田と組織のボス、神崎を殺した。
意識不明となっていた父さんは目を覚まし、俺の復讐は終わったはずだった。
だが、ともに組織と戦ってきた俺のクラスの担任教師、島本さんは殺された。
公園に入った。島本さんにグロックを向けられ、同じクラスの女子、白沢と初めて会話したところだ。
「く、黒木纏!」
俺の名前を呼んだのはタンクトップを身に着けた短髪で筋骨隆々の男、大森武史。組織との最終決戦であろうことか逃げ出したこの組織の男、大森と初めて戦ったのもこの公園だ。
「今さらのこのこ出てきやがって!」
大森は右手を振りかざし俺に向かって突進してくる。俺はそれをかわし、大森の背中に九六式の銃口を向けて引き金を引く。
銃弾が大森の胴体を貫通する。
今の俺ならこいつを殺すのは造作もない。だが島本さんを殺した人間への手がかりをつかまなければ。
「誰が島本さんを殺した!? 言え!」
「お、俺は知らねえ!」
突然の殺気。
気付くのが遅すぎた。避けられねえ。
俺の体を電撃が突き抜ける。
現れたのはタバコをくわえた金髪で190cmほどもある長身の男、大和光流。眉目秀麗な容姿と細身の黒いスーツで、一見ホストのように見える。
組織の中でも随一の実力を持つ男。
右手に握られたのは銀色の銃、ライトニングガン。そこから放たれる電撃はスタンガンのように相手を麻痺させる。絶縁体である空中に電撃を放つなど、オーパーツとしか言いようがない。
「てめえか、島本さんを殺したのは!?」
「島本? ああ、あのおっさんか。島本を殺したのは神崎様だ」
「……神崎だと? 神崎は俺が殺したはずじゃ……」
「お前が殺した男、あれが神崎様のわけがないだろう」
あの男は神崎じゃなかった?
「まあ、自ら機転をきかせて神崎様になりかわったのは誉められてしかるべきだけどな」
あの弁舌を持つ男が本物の神崎ではないだと?
「大森、敵前逃亡など本来ならば殺されても文句は言えない。神崎様の寛大な処置には感謝するほかない」
「し、仕方ないじゃないですか! あのときはああしないと大和さんが殺されてましたよ」
「……ああしないと俺が殺されてた、だと?」
「す、すみません!」
大和は大森をにらんでタバコの煙を吐き出した。
俺の目の前でふざけてんじゃねえぞ。
「大森、神崎様からの緊急召集だ。行くぞ」
「逃がすかよ!」
九六式を大和に向ける前に、大和は筒状のものを地面に叩きつけた。その瞬間白い煙が舞う。
便利なもん使いやがって。
「また会おう、黒木纏!」
煙が薄れるころには、大和と大森は消えていた。
桜井とともに佐藤さんのマンションに来た。
俺の恩師、島本正文は組織のボス、神崎総一に殺された。
俺と島本さんが殺した神崎は影武者だった。
大和から聞いたことを佐藤さんに伝えた。
「……島本からの手紙だ」
佐藤さんから渡された便箋を桜井と読む。
『黒木、桜井
これを読んでいるということは俺はもうこの世にいないのだろう。
何も言わずにこんな結果になり申し訳ない。
復讐を果たせた感慨に水を差したくなかったんだ。
俺が死ぬということは、本当に倒すべき人間はまだ生きている。
おそらく大和やガブリエルよりもさらに強いはずだ。
お前らは復讐を果たそうとするかもしれないが、俺のために死ぬなんてもってのほかだ。
とはいえ、お前らなら俺の仇を取ってくれるんじゃないかと少し期待しちまってるんだ。
お前らがこれからどうしようと、俺は止めることはできない。
俺から言えることは一つだけ。
絶対に死なないでくれ。
島本』
俺たちがすべきことは一つ。神崎を殺すことだ。
桜井と目を合わせ、桜井はうなずいた。思いは同じ。
桜井優人。俺の数少ない友達と呼べる人間。いや、もはや親友と言ってもいいだろう。182cmの長身かつ短髪のさわやかなイケメンで、勉強も運動もできる完璧超人。空手道部に所属し日々鍛錬を積んでいる。
俺は自らの意志で頭脳のリミットを解放して本来の潜在能力を発揮できる人間、オーバークロッカーとして覚醒した。
俺も桜井も銃弾を避けるオーバークロッカー、大和と2mを超える鋼の肉体を持つ邪教の神父、ガブリエルとの戦いを生き延びた。
本物の神崎がいくら強かろうと、俺と桜井なら殺せるはずだ。
「佐藤さん、神崎への手がかりは」
眼鏡をかけた端正な顔立ちの、エリート然とした風貌の男性、佐藤祐一。島本さんと同じく37歳であるならば、それを感じさせない若々しさだ。東大医学部卒業の元医者で、これまで俺たちに力を貸してくれた。
「ああ。本当の本拠地はまだ掴めていないが、大和や大森たちを追い、アジトの目星は付けている」
「本当ですか!? これから作戦を練っていきましょう」
「……君たちはまだ戦うのか? 怖ければここで降りてもかまわない」
「……怖いですよ、そりゃ。それでも」
「当然戦いますよ。俺たちは島本さんの仇を討つ」
この人の情報収集能力は只者じゃない。.32ACPも容易く入手できる。裏社会にも繋がっているとしか思えない。
佐藤さんはパーラメントに火をつけ、静かに煙を吐き出した。
灰皿は吸い殻で山盛りになっていた。
「……島本も鳥谷君ももういない。これまでよりさらに厳しい戦いになるが、私たちは神崎を殺すしかない」




