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復讐を決意した俺は、無音銃で犯罪組織と戦う  作者: 一条イチ
第一章

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これからの青春

 夏休みに入ったが、FPSだけで日々は過ぎていった。black_dresserは今日も銃を握る。

 夏休みとはいえゲームだけしていればいいわけではない。問題は宿題だ。数学の問題集、ⅠAとⅡBの4STEP全問だなんて頭が沸いてるとしか思えない。しかしどうせ終盤になって答えを書き写す作業になるのは目に見えている。


 机に積まれた速読英単語必修編とネクステージを見て、白沢にこの二冊を全部覚えろと言われたことを思い出した。この二冊には毎週の小テストで苦汁を飲まされてきた。


 会いてえな、ちくしょう。


 不意に携帯が鳴った。その電話は病院からだった。


 父さんが目を覚ました。


 俺は急いで病院に向かった。病室に入るとそこには上半身を起こした父さんと、椅子に腰かけた母さんがいた。親子三人が一堂に会するのは何年ぶりだろう。

 その光景に目頭が熱くなってしまう。


「……父さん」

「纏、心配かけたな。一人で辛かっただろう」

「何言ってるの、僕は大丈夫だったよ」

「そうよ、この子はあなたが思っている以上に強い子なのよ」


 いや、違う。帰っても俺しかいない家。寂しかった。怖かった。その気持ちをずっと押し殺していた。


「僕、勉強がんばるからさ……」


 父さんは俺の頭を撫でた。俺の頬を滴が流れ落ちる。それは島本さんのタバコを吸ったとき以来の涙だった。




 今日は父さんの退院の日。


 母さんは一緒に住んではくれないらしい。このマンションには今まで通り俺と父さんの二人だ。病院に来てくれたんだから少しは期待したのだが、それとこれとは話が別らしい。


 退院祝いの料理だ。病院で質素な食事だけだっただろう。今日は腕を振るおう。とはいえ、それなりに消化にいいものにしておこう。アジの塩焼きに決めた。魚をさばくのはどうにも苦手なのだが。


「いただきます」


 口数は少なかった。だがそんなのはわかりきったことだ。これまでの17年間、父さんから言葉で教えられたことは少ない。唯一口うるさく言われたのは勉強しろってことくらいだ。箸の使い方も焼き魚の食べ方も、小さいころに父さんの作法を見て覚えたんだ。

 父さんも俺もきれいに完食した。




 携帯が鳴って目を覚ました。グループラインだ。もう昼の12時だった。

 話の流れで海に行くことになった。桜井の有能ぶりには驚嘆させられる。

 外村と白沢は一緒に水着を買いに行くようだ。

 俺も水着なんて持っていない。桜井と買いに行くか。


 当日、海に行く前に駅ビルで桜井と水着を買った。買い物が済んでドトールに行き、アイス抹茶ラテとミラノサンド、それとミルクレープをおごった。


「こんにちは」


 改札前で待っていると、白沢と外村が来た。

 白沢の服装は、上は猫の絵がプリントされたTシャツ、下はリーバイスの501。靴はグレーのニューバランスの996。胸でTシャツがぱつんぱつんに張り、なんとも言えない猫の絵がさらに変になっている。


「白沢さん、意外と私服は……シンプルなんだね」


 桜井は慎重に言葉を選んだ。言葉を誤れば冷酷な目線が突き刺さるからだ。


「この靴はU996といって、Made in USAのモデルなのよ。店でよく売られている996はアジア製なのだけれど……」


 白沢は得意げに語り始めた。

 猫のTシャツに触れると、そっちも語り始めるかもしれないからやめておいた方がいいだろう。


 電車で海水浴場に向かった。

 雲一つない快晴。絶好の海水浴日和だ。


 桜井の体はすっかり傷口もふさがり、6つに割れた腹筋はさながらアスリートのようだ。

 傷跡は残ってはいるが、さほど目立たない。

 それに比べて俺は贅肉はないが筋肉もない。なんとも貧相なんだ。ちなみに俺も腹筋は6つに割れている。腹筋はもともと割れているから、脂肪がなければ腹筋が見えるのは当たり前だ。

 まあ水着の下には.44マグナムが隠されているけどな。


「お待たせしました!」


 外村は赤いビキニを着ていた。絶世の美少女と言っても言い過ぎではないだろう。その水着は赤茶色の髪とマッチし、起伏の少ない体と相まって健康的なかわいらしさを演出していた。

 対して白沢はフリルの付いた白いビキニ。それに包まれたのは、あふれんばかりの巨乳。黒いロングヘアはうしろで結ばれポニーテールとなっていた。

 尋常じゃない破壊力。目線が胸元へ行くのを止められない。俺も桜井も鼻の下が伸びきる。

 だが外村が両手を伸ばして立ちはだかった。


「あたしの許可なく見ちゃだめですっ!」

「お前は白沢のなんなんだよ」


 まずは浅瀬でビーチボールで遊ぶことにした。

 これが青春なのか。このあいだのラウンドワンといい、俺は急速に青春を取り戻している。

 白沢がトスをするたびに胸が揺れる。だがたまに顔にぶつけていた。


 次はすいか割りをすることになった。

 最初は白沢の番だ。


 合法的に視姦するチャンスだ。胸にしか注目していなかったが、出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる。くびれも尻も足も完璧。その白い肌に目を奪われない男なんていないはずだ。だが外村にばれないようにしないとな。

 棒を振りかざすためにあらわになった脇もつるつるだ。白沢でもむだ毛処理なんてするのかと、下世話な想像をしてしまった。


 だが足はすいかとはまったく明後日の方向に、こっちに向かってきた。


「く、来るな!」


 棒を振りかざしたまま白沢は俺に近づいてきた。


「うわあっ!?」


 白沢の体を抱き止める。手に背中の、すべすべした素肌の感触。俺の胸板には白沢のビキニごしの巨乳が押し当てられる。

 やばいやばいやばい。静まれ俺の愚息。気付かれないように腰をのけぞらせる。

 だがそのせいでバランスを崩し、白沢とともに後ろに倒れ込んだ。

 白沢が俺を押し倒した格好となった。

 目隠しを外した白沢と目線が合う。横に流れた俺の前髪、そのせいで両目で見つめ合う。その人形のように整った顔は少し驚いたような表情で、かすかに赤みを帯びていた。


「……なんでそんなところにいるのよ」

「こっちのセリフなんだが?」

「……ご、ごめんなさい、黒木君」


 今の体勢に気付いてか、白沢は立ち上がり背中を向けた。


 すいかは外村が見事に割り、みんなで食べることにした。


「俺らジュース買ってくるよ」


 桜井と二人で四人分のジュースを買った。


「しかし白沢さんすごいな。やっぱGってのは本当だったのか」

「まさか白沢の水着姿を拝めるとは。お前には感謝してもしきれないよ」

「俺も外村さんの水着姿を見れたからな!」


 歩いていると、桜井が急に静かになった。桜井の顔を見上げると、青ざめていた。


「……めちゃくちゃ腹いてえ。ちょっとこれ持ってて」


 ジュースを持って戻ってくると、外村がチャラい二人組の男に話かけられている。


「連れはいないの?」

「俺たちと遊ぼうよ」


 急いで外村に駆け寄った。


「外村!」

「この人、あたしの彼氏なんですよー」


 外村はそう言って俺と腕を組んだ。

 どうすればいいのかわからない。ジュースを持った両手を動かせなかった。


「ちぇっ男いんのかよ。行こうぜ」


 二人組は意外とすんなり去っていった。


「ごめんなさい、彼氏って言っちゃって」


 外村は上目遣いで、小悪魔のような笑顔を俺に向けた。


「やっぱり纏先輩とあたしってお似合いに見えるんですかねー、島本先生にも言われたし」

「ど、どうだろうな」


 あのときは軽口を叩けたのに今は何も言えない。

 外村と桜井が並んでいると、非常に申し訳ないがそこはかとなく犯罪臭がする。だが外村と俺なら微笑ましい中学生カップルのように見えることだろう。


 ほどなくして冷めた目をした白沢が来た。


「へえ、あなたたち、交際していたの」

「ちっ違いますよ!」

「そうだ、その場しのぎの方便だ」


 外村も俺も必死に否定する。


「私も少しはモテるのよ」


 そりゃ知ってるが、どういう意味だ。


「なんだか泳ぎたくなってきたわ」


 そう言って白沢は歩きだし、俺たちから離れていく。


「ヘイヘイ彼女、俺らと遊ばない?」


 さっきの二人組が今度は白沢に声をかけた。どんだけ暇なんだよ。

 とはいえ外村も白沢もこの海水浴場でもひときわ目を引く存在だ。納得もできる。


「黒木君」


 そう言って白沢は俺を見る。

 やれやれと思いつつ白沢のそばに駆け寄った。すると白沢は俺の腰に手を回した。俺の左腕に胸が押し当てられる。だから俺はおっぱい星人じゃないって言ってるだろ。でもこれはさすがにやばい。


「私、この人と交際しているんです。だから、すみません」

「なっ、こいつさっきのガキじゃねえか!? 茶髪の女の子と付き合ってるって言ってたのに!」

「二股かけてんぞこの鬼太郎! いいのか彼女!?」

「ええ、私はそれを承知の上で黒木君と付き合っているので」


 白沢は俺の目を見て不敵な笑みを浮かべた。おいおい、俺が美少女二人をたぶらかすクソ野郎になってるんだが。

 だが白沢の言葉どおり、俺が外村と付き合っていて、それを知っている白沢とも付き合っている状況を想像してしまった。俺は君と付き合えれば十分だ。それ以上は望まない。君を第二の女にして、悲しませるなんてありえない。

 まあそんな状況こそありえないんだけどよ。


「お、お邪魔しました……」


 有無を言わさない白沢の圧力に屈して、二人組はとぼとぼと歩いていった。


「ねえ、言ったとおりでしょう」


 なぜこんなことを。意外と負けず嫌いなのか?


「ちょっとお! 離れて離れて!」

「あら、これは失礼」


 顔を真っ赤にした外村を見て、白沢は俺の体からするりと手を離した。


「白沢先輩、強いですね」

「私に言わせればあなたも十分強いわよ」


 強いってなんだよ。




 帰りの電車の中。桜井は俺の肩、外村は白沢の肩に寄りかかり寝ていた。そして俺と白沢はその真ん中に。


「ちょっと聞きたいのだけれど」


 白沢は俺の耳元で小声で言った。

 顔が近い。


「桜井君って、もしかして外村さんのことが好きなのかしら」

「ああ、そうだよ。まー見てりゃわかるよな」


 他人の色恋に興味を示すなんて。まさか、白沢が好きなのは桜井?


「つかぬことをお伺いしてもよろしいですか」


 どう考えても悪手だ。だが問いたださずにはいられない。


「お前、桜井のことが好きなのか?」

「何を言っているのよ。ただ少し不憫に思うだけよ」


 白沢は俺の隣に座る桜井に憐憫のまなざしを向けた。

 哀れむ気持ちもわかる。桜井なら引く手あまた、よりどりみどりだ。ただ恋に落ちてしまった相手が悪かっただけだ。


 白沢が好きなのは桜井ではない。それならば好きな男はいるのか? 白沢が誰かに恋をするなんて想像もしていなかったが、思春期の女子なんだ。おかしくはない。願わくばその相手が俺であることを期待して。

 けれど俺は白沢と付き合えなくたってもういいんだ。外村、桜井、白沢。みんなとこうして遊べるだけで幸せだ。こんなこと気恥ずかしくて口には出せないけど。




 帰ってくると、父さんが夕食を作っていた。


「いただきます」


 父さんの野菜炒めは普通にうまかった。母さんが出ていって最初のころはめちゃくちゃまずかったことをふと思い出した。結婚する前は自炊していただろうに。


「今日は友達と海に行ってきたんだ」

「羽を伸ばすのもいいが、勉強も忘れるなよ」

「うん、わかってるよ」

「……海に連れていってやったことなんて一度もなかったな。すまなかったな、纏」

「いいよ、そんなこと」


 父さんが俺に謝るなんて。退院してからなんだか丸くなったみたいだ。


 丸くなったのは俺も同じかもしれない。以前の俺なら海に行ったなんてわざわざ話題にしてないだろうし、勉強しろと言われただけで苛立っていただろう。


 もうこの世界に隕石なんて落ちてこなくていい。

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