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復讐を決意した俺は、無音銃で犯罪組織と戦う  作者: 一条イチ
第一章

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22/30

日常への帰還

 神崎を撃ったあとのことは覚えていない。気が付くと佐藤さんの家にいた。


「鳥谷君は、亡くなったのか……」


 パーラメントの煙を吐き出して佐藤さんが言った。


「守れなかった」


 島本さんの頬を滴が伝う。それは初めて見る、恩師の涙だった。俺たちは組織に勝った。しかしそれは鳥谷さんの命を代償として。島本さんのことを先生と呼び慕っていた鳥谷さん。島本さんの胸中を推し量ることなどできなかった。


「それでも、君たちは帰ってきてくれた」


 佐藤さんはタバコをくわえ少し悲しそうに、しかし優しく微笑んで島本さんを抱きしめた。そのあと俺と桜井を両手で抱いた。


「こんなにぼろぼろになってしまって。あとは私に任せてくれ」


 俺が一番重傷だということで、最初に佐藤さんに治療してもらうことになった。別室に移り、佐藤さんは帽子とマスクをして水色の服に着替えた。

 その部屋にはベッドと医療キットがあり、簡素だが必要十分な手術室だった。


「ちょっと我慢してくれよ」


 佐藤さんは俺の右腕に麻酔を注射した。

 意識が朦朧とする。

 気付いたころには、俺の体には包帯とサポーターが巻かれていた。




 週が明けて、教室。白沢と目が合った。


「約束通り、来てくれたわね」

「俺が約束を破る男に見えるかよ」

「いえ、とんでもない。おかえりなさい、黒木君」

「ああ、ただいま」


 白沢はかすかに口角を上げた。


「なんだか体格がよくなったみたいだけれど」


 白沢は包帯とサポーターのせいで膨らんだカッターシャツに目線を移した。そんな冗談言うのかよ。


 授業が終わり、昼休み。桜井が白沢に声をかけた。


「白沢さん、今日は俺たちと昼飯食べない?」


 何を言っている、桜井。まさか監視のもと俺に告白させるつもりか。


「ええ、構わないわよ」


 俺たちは3人で購買に向かった。


「纏先輩、桜井先輩。……と、白沢先輩も!?」

「黒木君と桜井君と昼食をとるの。外村さんもいかがかしら」

「ぜひご一緒させてください!」


 パンを買っていつもの屋上に来た。


「夏休みに入ることだし、みんなで半道橋のラウワンでも行こうぜ」

「ラウワン、とは」

「ラウワンといったらラウンドワンしかないでしょうよ!」

「そのラウンドワンがわからないのだけれど」


 ラウンドワン知らないってお前は箱入り娘か、白沢。


「ボウリングとかゲーセンとかいろいろ入ってるとこですよ。スポッチャっていう、バッティングとかバスケとかサッカーとかもできるとこもありますよ」

「へえ、そんなバラエティに富んだ施設があるのね。一度行ってみたいわ」

「俺もラウンドワンってゲーセンくらいしか行ったことないんだよな」

「みんなで行ったら絶対楽しいですよ!」

「それじゃ決まりな!」


 桜井、これが狙いだったのか。これはもしや、ダブルデートというやつなのでは。




 そして終業式の日。駅から出ている無料シャトルバスでラウンドワンに来た。

 まずはバスケをやることにした。俺と白沢、桜井と外村のペアとなった。


 白沢にボールを渡した。なんだかたどたどしいドリブルを見ていると、ボールが足に当たり転がっていった。

 まさか容姿と頭脳に極振りで、他はからっきしだというのか。その二つがあれば十二分だけどさ。


「ぶっ」

「……笑ったわね」

「ち、ちげーよ。笑ったのは外村だ」

「いやいや、あたしは笑ってないですよ!?」


 俺と外村を睨みつける白沢は怖かった。


「おらあっ!」


 桜井がボールを持ったまま高くジャンプする。そしてそのままダンクを決めた。


「いってー! レイアップにしとけばよかった」


 組織との最終決戦からまだ10日ほどしか経っていない。佐藤さんに治療してもらったものの、完全に傷が癒えたわけではない。体が痛むのも当然だ。


「一人だけ180越えとかずりーんだよ」

「桜井君、大人げないわ」

「子供の中に混じって大人が無双して喜んでるようなもんですよねー」

「何この言われよう!?」


 このままじゃ悔しい。これを打破するにはオーバークロックしかない。それこそ大人げないが。

 しかし集中にはほど遠い。やはり生死がかかった状況でなければオーバークロックなんてできないのか?


「そんな遅いドリブル、取ってくださいって言ってるようなもんだぜ!」


 重心を読め、俺ならできるはずだ。緩急をつけ右から左に一気に切り返した。

 それにつられバランスを崩した桜井はその場に尻餅をついた。


「アンクルブレイク!?」

「行かせませんよ、纏先輩!」

「お前じゃ止めらんねえよ」

「きゃあっ!?」


 ふたたびアンクルブレイクを決め、外村も転んだ。そのままレイアップを決めた。


「すごい纏先輩、こんなの黒子のバスケでしか見たことないですよ!?」

「やってくれるじゃねえか」


 ドリブルをする桜井。急激な緩急、これはさっきの俺の動き。今度は俺が尻餅をついた。


「コピーだと!?」

「俺だってそれくらいできんだよ」

「いやーほんと桜井先輩って大人げないですよねー」


 やめてやれ外村。桜井がマジで涙目になってるから。


 終わってみると俺と白沢のチームの完敗だった。




「ギータのフルスイング!!」


 バッティングで、桜井は柳田を彷彿とさせる左の豪快なスイングでホームランを飛ばした。


「いてて……ちょっと張り切りすぎたな。脇腹がいてえ」

「本調子じゃないんだからほどほどにしとけよ。つーかお前右打ちじゃないのか?」

「最近左打ち練習してんだよ。遊びレベルだけどな」

「両打ちのショートストップって、松井稼頭央かよ。福岡の坂本勇人と呼ばれた男が次は松井稼頭央か」


 俺と外村はミートはできるが、ヒット性の打球はほぼなし。白沢は一球も当てられず不機嫌になっていた。




「ちょっとトイレ行ってくるわ」


 そう言って桜井が場を離れ、俺は自販機でポカリを買った。


「纏先輩、一口もらってもいいですか?」


 外村が俺のポカリを指して言った。


「あ、ああ」


 さっきまで俺が飲んでいたポカリを外村が飲むのを見て、心臓の鼓動が速くなってしまう。


「すみません、飲みすぎちゃいました?」


 外村は少し頬を赤らめ、申し訳なさそうに笑った。

 邪念を捨てろ、黒木纏。俺は返されたペットボトルを開けて口をつけた。

 ファースト間接キス。いや、桜井とはしたことあるけどな。男との間接キスなんてノーカンに決まっているだろう。

 桜井がこの場にいなくてよかった。


「それ、私にも少しいただけるかしら。小銭を切らしてしまっていてね」

「ええっ!?」


 顔を赤くして驚く外村。なんでお前がそんな表情するんだよ。


「で、でも……」

「外村さんにはわけてあげて、私にはわけてくれないと言うの?」

「い、いや。構わないさ」


 ペットボトルに白沢の唇が接する。たぶん、今の俺の顔はめちゃくちゃ赤い。


「ありがとう、黒木君」


 これはもう間接3Pと言っても過言では……あるが。めっちゃ過言だが。


「纏くーん、両手に花で楽しそうじゃないか、おい」


 桜井が邪悪な笑みを浮かべて戻ってきた。


「ぎゃっ般若!?」


 だから外村、お前のその一言が桜井を傷つけてんだぞ。


「今度は何にする?」

「ビリヤードやりましょうよ!」


 ナインボールをやることになった。今度は俺と外村、桜井と白沢がペアだ。最初の番は白沢。キューを構えるその姿はなかなか様になっている。白沢の胸が台に押し当てられているのに気付いた。私は台になりたい。

 だが最初のショット、手球はひし形に並べられた的球に当たらず、そのまま穴に落ちた。


「嘘……だろ……」

「黒木君、私がミスしたのがそんなに面白いのかしら?」

「……すみません」


 次は俺の番。快音が響き、3個の的球が穴に入った。


「うまい纏先輩!」

「私のショットを笑うだけのことはあるようね」

「さすがブラドレさん!」

「ブラドレって言うな」


 順番が回り、俺が最後の球を入れ、外村とハイタッチした。俺と外村のペアの勝利だ。

 桜井はわりとうまかったが、いかんせん白沢が下手すぎた。


 そのあとはサッカー、ダーツ、卓球など。こんなに一日中運動したのは久しぶりだ。

 特に楽しかったのはポケバイだ。しかしここでも桜井が大人げなく一位をかっさらっていった。

 最後には全員へとへとになっていた。


 帰りのバスの中。


「俺らのライングループ作ろうよ! 夏休みの間またどっか遊びに行きたいじゃん?」

「いいですね、ぜひ作りましょうよ」

「私、ラインやっていなくて」

「この機に始めましょうよ! それで友だちになりましょう!」


 グループに招待され、参加した。『知り合いかも?』の欄に白沢の名前が出ていたので、友だちに追加した。そうだ、俺と白沢は『友だち』だ。


 博多駅に着いた。桜井は香椎、白沢は天神だ。二人と別れ、俺と外村は歩いて帰ることにした。


「纏先輩、家まで送ってってくださいよ。なんか最近治安悪いらしいですし」

「ああ、わかったよ」


 二人並んで歩く。はたから見れば、恋人同士に見えるのだろうか。

 俺も外村も疲れて口数は少なく、ほどなくして外村の住むマンションに着いた。


「ありがとうございました。今日はほんと楽しかったです」

「俺もだよ。それじゃ」


 外村は満面の笑顔で手を振った。


 桜井には感謝の二文字しかない。今度抹茶ラテおごってやるよ。ミラノサンドも。なんならミルクレープもつけてもいいぞ。


 最近治安が悪いらしいと外村は言った。神崎の言葉を、そして組織との戦いを思い出して、罪悪感が俺を襲った。

 ……なんで俺はふつうに楽しんでいる。


 ガブリエル、金田、神崎。やつらは死ぬべき人間だった。これは間違いない。だがそれでも、人間だったんだ。


 忘れようとしても、忘れられるはずもない。俺はこの気持ちを心の片隅にしまって生きていくんだ。

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