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復讐を決意した俺は、無音銃で犯罪組織と戦う  作者: 一条イチ
第一章

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覚醒のオーバークロッカー

 目の前で人が死ぬ。そんなのはもちろん初めて目にする光景。喉元を猛烈な吐き気が襲うが、なんとかそれをこらえた。


「邪魔だなあ、これ」


 そう吐き捨ててガブリエルは鳥谷さんの体を蹴りとばした。鳥谷さんの頭から流れる血が地面に塗りたくられた。


「ガブリエル、そんなにぶっ殺されてえか」


 島本さんは憤怒の表情で、しかし静かに言い放った。

 そしてグロック19を取り出す。


「……まだだ、島本さん。ここでグロックを使えばすべてが終わる」

「……ああ。俺たちの最終目標は神崎だからな」


 島本さんは一度は取り出したグロックを納めた。

 島本さんは目の前で鳥谷さんを殺されても、冷静さは失っていなかった。ガブリエルへの激昂は内に秘めて。

 グロックを使えば、ここには警察が来る――神崎への道は断たれる。

 2人の超人――大和とガブリエルを打倒するにはグロックは必要だ。グロックを使えなければ力の差は歴然。だがそれでも、ここは俺の九六式に託すしかない。


 島本さんはガブリエルの喉元にナイフを突き出す。だがガブリエルはそれをかわし、島本さんのみぞおちを殴った。

 後ろにバランスを崩した島本さんをモーニングスターが襲う。しかし島本さんは柄の部分を左腕で受け止めた。

 いったんは防いだ、けれども大和も島本さんを狙っていた。ライトニングガンの閃光が島本さんに直撃する。


 俺は大和に向けて九六式の引き金を引いた。銃弾は当たらなかったが、大和が島本さんに向かうのを阻止することは成功した。

 島本さんが殺されたら終わりだ。それはもちろん桜井も承知の上。桜井はガブリエルに跳び蹴りをかます。それを受けてもガブリエルの体は微動だにしない。


「桜井クン、そもそも武器も持たず素手で戦おうってのが甘っちょろいんだよ。君は俺を殺す気があるのか? 俺はモーニングスターがなくても君を殴り殺すことはできる。だが君は俺を殴り殺せるのか?」


 桜井も島本さんに武器を使ったほうがいいか相談はしていた。だが付け焼き刃のナイフよりは素手で、引きつけ役になったほうがいいと判断したのだ。それは地味でありながら、あまりに危険な役目。


「……殺してやるさ」


 桜井はガブリエルにローキックからの連続中段突きを放った。そこからのハイキック。

 こんな生死がかかった状況であっても、思わず見とれてしまいそうになるほどに洗練された動きだ。


「おいおい、空手の試合をやってんじゃないんだよ」


 この連続攻撃でもガブリエルにはまったくダメージを与えられない。

 後ろからガブリエルにナイフを突き刺そうとする島本さん。ガブリエルは邪悪な笑みを浮かべ、モーニングスターを振り回す。島本さんも桜井も鉄球の部分をもろに受け、地面に倒れ込んだ。

 俺たちをあざ笑うかのような、圧倒的な力の差。


「いいかげん終わりだ」


 大和のライトニングガンの電撃が俺の体を襲う。そして目の前にはモーニングスターを振りかざすガブリエル。

 島本さんも桜井も間に合わない。


 今度こそ、終わり。俺を待ち受けているのは、死のみ。




 いや、俺はこんなところで死なねえよ。




 ガブリエルが鎚を振り下ろした瞬間、俺は頭を後ろにのけぞらせた。鼻の先1cmもない距離を鉄球の棘が通過する。

 視界の端に大和がライトニングガンを俺に向けるのが見える。二段構えか、まったく甘くねえな。

 だが俺は放たれた電撃を回避し、その閃光は脇を通り抜けた。


「俺のライトニングガンを避けた……だと……!?」


 初めて大和の顔に汗が浮かんだ。いいぜ、その表情。


 俺は桜井や島本さんのように体格に恵まれていない。ガブリエルや大和の攻撃を受ければ、そのひとつひとつが致命傷になりうる。

 ならば避ければいい。

 そしてこの九六式自動拳銃でやつらの息の根を止める。それが俺の責務だ。


「この、クソガキがあっ!!」


 苛立ちを隠せない表情のガブリエルは、また俺に向かって槌を振りかざした。

 それはさすがに不用意だろうが。


「ガブリエル、お前の弱点は構えるときに必ず隙ができることだ」


 しかし生半可な打撃やナイフじゃ止められやしない。そんなことはお構いなしにモーニングスターが振り回される。

 九六式も当たりどころがよければさほどダメージはない。とはいえ人間である以上、頭に当たれば死ぬ。だから大和がライトニングガンで俺を止める。


 なら俺がライトニングガンを避けられればいい。


 また放たれる電撃。九六式をガブリエルに向けて構えながら横に動き、閃光を避けた。

 なぜこれまで避けられなかったライトニングガンの閃光を避けられたのか。それは大和の動きが見えていたからだ。


 俺は銃を撃つとき、ずっと胴体を狙っていた。金田も米沢も大森も、そしてガブリエルも。頭は的としては小さすぎる。胴体を狙っていれば少々ぶれても当たる確率は高い。だから胴体を狙うことは理にかなっている。

 ……だが俺は無意識に避けていたんだ。頭に当たれば確実に殺してしまうから。


 俺はガブリエルの頭をめがけ九六式の引き金を引いた。


 放たれた.32ACPがガブリエルの眉間を貫く。

 巨体が音を立てて地面に倒れ込んだ。


 ガブリエルは絶命した。


 俺がガブリエルを殺した。


 島本さんは殺すなと言った。父さんは金田に銃で撃たれた。金田への憎しみは本物だ。でも父さんは意識不明とはいえまだ生きている。俺は島本さんの言葉に心の奥底で納得していたんだ。

 でも島本さんの恋人は神崎に殺された。鳥谷さんはガブリエルに殺された。こいつらは死ななきゃならない人間なんだ。

 島本さんは自分はまともな人間じゃないと言った。島本さん、あなたは人間を殺したことがあるんですか?


 俺はもう、まともな人間じゃなくていい。


「……あとはてめえだけだ」


 大和は俺の動きを読み銃弾を避けることができる。なら俺はさらにその動きを読めばいい。

 さすがにこいつは狙って頭に当てるのは難しそうだな。銃口を大和の胴体に向け引き金を引く。

 もちろん大和は回避態勢をとったが、銃弾は大和の右腕を貫いた。そして大和の体は後ろにのけぞる。そう、それが正常な反応だ。


「……貴様、オーバークロッカーか!?」


 パソコンのCPUの動作クロックを通常より意図的に上げて高性能化を図ることをオーバークロックという。オーバークロッカーとはその愛好家のことだ。

 だがこれは当然比喩的な意味だろう。


「オーバークロッカーだかなんだか知らねえが、俺はてめえを殺すだけだ」


 つまり、頭脳をCPUに見立てているんだろう? 人間は自らの潜在能力をすべて発揮することはできない。頭脳はもちろん、自分の体が耐えきれず、壊れてしまうからだ。無意識に十分な安全マージンをとっている。

 それを解放してやれるのがオーバークロッカーか。なかなか面白い言葉じゃないか。

 大和、お前もオーバークロッカーなのか? だからこれまで俺の九六式を避けてこられたんだな。ガブリエルのようにはいかないだろう。


 だが、こっちには桜井と島本さんがいる。

 桜井が左から大和の顔面を殴る。島本さんが右から大和のわき腹にナイフを突き刺す。

 お前がいくら避けようとしたって、逃げ場がなければ無意味だ。


 九六式から放たれた.32ACPが大和の胸を貫く。

 薬莢が排出され、スライドが戻る。

 今度は大和の顔面に向けて引き金を引く。これで終わりだ。


「大和さん!!」


 その言葉とともに、桜井ごと大和の体が押し退けられた。銃弾は空を切る。

 桜井と大和を突き飛ばしたのは、タンクトップを身に着けた筋骨隆々の男、大森。


「黒木纏! 俺はこの人を殺させねえ!!」

「今さらお前なんざが来たところで、俺は止められねえよ」


 大森、初めて戦ったときはお前には苦戦させられた。だが今の俺にとってはただの的でしかない。

 俺はまた九六式で撃ったが、大森は大和をかばい右肩で銃弾を受けた。大森は顔をゆがめる。

 そして大森は崩れ落ちる大和の体を抱き上げた。……何をしている。お前は俺たちを止めに来たんだろう?


「……ふざけんな、大森。神崎様のためにここは絶対に死守しなきゃならねえんだよ……」

「すみません、大和さん。……でもあなたを助けるには、もうこうするしか」


 大和がくわえていたタバコが地面に落ちた。

 大森はかすかに笑みを浮かべた。そして筒状のものを地面に叩きつけた。

 その瞬間、白い煙が舞った。かつて島本さんが使ったものと同じ――煙幕。


「まさか、逃げるのか!?」

「なんとでも言え! 俺が忠誠を誓うのは大和さんただ一人だ!! 俺はこの人さえ生きていればいい!!」


 煙が薄れるころ、大和と大森の姿は消えていた。


「……あいつら、本当に」

「ほっとけ。あいつらは命惜しさに逃げ出したんだ。そんなやつらに構ってる暇はねえ。ようやく神崎への道が開けたんだ」


 島本さんは冷淡な表情で言った。

 そうだ。鳥谷さんは自分の命と引き換えに俺を守ってくれた。そのおかげで道を切り開くことができた。俺たちは前に進むしかない。金田を、そして神崎を殺すために。

 ……だが。


「い……痛い」

「大丈夫か、纏!?」


 ガブリエルのモーニングスターや大和のナイフを受けたんだ。体中が痛むのは当たり前だ。だがそれとは種類が違う激痛が走った。頭が割れそうに痛い。俺は自分の頭を抱えずにはいられなかった。

 これがオーバークロックの代償とでも言うのか。

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