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復讐を決意した俺は、無音銃で犯罪組織と戦う  作者: 一条イチ
第一章

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18/30

決戦前夜の猥談

 夜8時ごろ、島本さんはいつものように黒いランエボで迎えに来てくれた。桜井はすでに後部座席に乗っている。俺も桜井の隣に乗り、島本さんのアパートに向かった。


「お邪魔します」


 殺風景な四畳半の部屋。そこには灰皿が乗ったちゃぶ台のみが置かれていた。佐藤さんのモデルルームのような部屋とは比ぶべくもない。


「……これは想像以上だ」

「島本さん、風俗の行きすぎで……」

「うるせえよ」


 ほどなくして部屋のチャイムが鳴った。佐藤さんか?


「お疲れ様でーす」


 そう言って部屋に入ってきたのは、ひげを生やした痩身の男性。年齢は30代中盤だろうか。島本さんとさほど変わらないように見える。


「どもっす、島本先生。この子たちが例の」

「ああ。黒木、桜井。こいつは鳥谷(とりたに)。明日一緒に戦う仲間だ」

「俺は鳥谷(あつし)。よろしくな」

「僕は黒木纏です。よろしくお願いします」

「桜井優人です。よろしくお願いします」

「んじゃ俺はちょっと酒とつまみ買ってくる。その間に親交深めといてくれ」


 酒とつまみって。作戦会議じゃなかったのかよ。


「ちょいと失礼」


 鳥谷さんは白地に薄緑の箱のタバコ、ピアニッシモに火を付けた。


「佐藤さんは来ないんですかね?」

「来ないだろうね。自分は戦わないから、遠慮してんじゃないかな」


 佐藤さんは自分に戦闘能力はないから戦わないと言っていた。眼鏡をかけたエリート然とした見た目は、確かに武器を持って戦うのは似合わないが。


「まあいいけどね。……俺あの人ちょっと苦手だし。全部自分の手のひらの上って感じで」


 全部自分の手のひらの上――なんて思っているかはわからないが、佐藤さんのおかげでここまで組織を追ってこられたと島本さんは言っていた。

 .32ACPも佐藤さんがくれたものだ。東大医学部出のエリート、佐藤さんは何を思って、なんのために俺たちに力を貸すんだ?


「ああ、申し訳ない。ここにいない人の悪口言うなんて、男がすたるってもんだな」


 苦笑いして頭をかきながら、鳥谷さんはタバコを吸った。


「しかし高校生の君たちが組織と戦うなんて、のっぴきならない事情があるんだな」

「ええ、まあいろいろと」

「まあ聞きはしないさ。聞いたところで止めることなんてできやしないしな」


 その言葉は一聞すると無関心、無責任のようにも思える。だが俺たちの戦いを否定しない、鳥谷さんのその配慮がありがたかった。


「気を遣っていただいて恐縮なんですが、鳥谷さんはどうして戦うんですか?」

「俺が戦うのは島本先生のためだ。昔借金で首が回らなくなってたときに助けてもらったんだ。大げさに言えば俺が今こうして生きていられるのは島本先生のおかげだからね」

「……じゃあその島本さんが戦うのは」

「島本先生の恋人は組織の神崎に殺されたんだ。佐藤さんが調べてわかったんだけど。だから島本先生はここまで組織を追ってきたんだ」


 愛する人を殺された。島本さんにそんな過去があったなんて。父さんが撃たれた日からずっと島本さんに助けてもらってたのに、島本さん自身がなぜ戦うかは今まで知らなかった。

 島本さんがこれまで組織を追ってきたのは神崎を殺すため。島本さんのためにも神崎は絶対に殺さなきゃならない。


「おい鳥谷、何ばらしてんだよ。謎の37歳素人童貞で通しておきたかったのによ」


 スーパーの袋を両手に持って島本さんが帰ってきた。

 そんなキャラ作りしてなんのメリットがあるんだよ。


「へへ、すいません」

「まー今日は無礼講だ!」


 島本さんはスーパーの袋からビールや缶チューハイを出して、ちゃぶ台の上に並べた。


「あの、俺たちって……」

「よく見ろよ、これはジュースだぞ。ちょっと苦いジュースだ」

「ええ、そうですね」


 つっこむのはやめておいた。


「んじゃ、とりあえず乾杯!」


 おのおの持った缶をこつんと当てた。島本さんと鳥谷さんはぐびぐびと勢いよく飲む。俺と桜井も口をつけたが、苦かった。

 男4人が座った四畳半の部屋は、ちゃぶ台しかないこともあり意外と広かった。


「島本先生、中洲のソープ連れてってくださいよ。あいちゃんと会わないままに死ぬなんて、死んでも死にきれないっすよ」

「いくらだ」

「6万っす」


 島本さんはタバコに火をつけ黙ってしまった。いや、そこは気前よく払えよ。


「島本さん、俺もソープ連れていってくださいよ」

「おいおい君たちは高校生だろ? 悪い遊び覚えないで甘酸っぱい恋愛してりゃいいんだよ」

「でも童貞のまま死ぬなんて嫌ですよ」

「ああ、死んじゃったら童貞のまま生涯を終えることになるのか! それは絶対に嫌だな!」

「君たちイケメンボーイズが童貞だなんて、意外だね」

「あはは、何言ってんです鳥谷さん。纏ならまだしも俺ただの雰囲気イケメンですから」


 桜井の顔が赤くなってきた気がする。こいつ、酒弱いのか?


「いやー俺も高校生のときは誰とセックスしたいとか、どんな体位でやりたいとかそんなことばっか考えてたな」

「僕はやっぱり騎乗位ですかね」

「おっ黒木君、気が合うねえ。風俗だとまず基本は騎乗位だからな。桜井君は?」

「お、俺は……正常位……」

「おいおい桜井、何カマトトぶってんだあ~? 本当はバックでおもいっきり突いてみたいんだろ?」


 島本さんは桜井の肩を抱いてゆさぶった。


「いやいやいや! 正常位って普通すぎって思ってるかもしれないですけど、最高だと思うんですよ。原点にして至高というか。やっぱり密着できるのがいいですよね。ラブラブかと思いきや、上から覆いかぶさると征服感がやばい」

「征服感とか引くわ、お前に惚れてる女の前で言ってこいよ」

「勝手に引いてろ。それにな、正常位には最後の必殺技があるんだぜ」

「必殺技?」

「だいしゅきホールドだ。やばいと思いつつも腰ロックされて中出しさせられるんだぜ? 凄くない? もう人生終わってもよくない?」

「なんだよだいしゅきホールドって。気持ちわりいよ」

「なんだよ纏! 俺ばっか言わせてんじゃねえよ。さ、お前も晒して楽になれよ」


 桜井は俺の肩を抱いて、諭すような目で見てきた。


「だから俺は騎乗位がしたいって言ったじゃねーか。下から見上げるおっぱいは正常位みたいに潰れないし揺れるし、やっぱり視覚的に最高だな」

「わかってるね黒木君。正常位だと巨乳でも意外とそう見えないんだよな」

「そして騎乗位は女が積極的に腰を振らなきゃならない。マグロじゃ無理だ、相当エロい女じゃないとな。死んだカエルみたいにひっくり返ってりゃいいわけじゃない」

「どんだけ正常位ディスんだよ! 殺すぞ!」

「そして騎乗位のまま両乳首責められるとやばい、一瞬で昇天だ。ああ、逆に授乳手コキ――膝枕でおっぱい吸いながら手コキされるのも最高だな」

「キモッ! 何乳首責めって? 何それ赤ちゃんプレイ!? ドMですかあなた」

「Mじゃねえよ。だが愛すより愛されたい、責めるより責められたい、当たり前の感情だろう」

「いーや絶対逆だね。お前とは一生わかり合えねえよ」


 俺も酔ってんのかな。いや、俺はビール一本程度で酔うほど弱くはない。


「よし決めた! この戦いが終わったら外村さんに告白する!」

「桜井ー、お前外村のことが好きだったのかよ」


 タバコをくわえながら島本さんは桜井の頭をぐりぐりと撫でた。完全に部下に絡むめんどくさい上司だ。


「お前、まさかさっきの妄想外村で……」

「してねえよ!? いや外村さんで抜いたこと一回もないから! 俺好きな子おかずにできないタイプだから……頼む! マジで信じてくれ!」

「オーケーオーケーわかったよ。だが桜井、なんか不吉な予感がするぞ」

「いやいや、死亡フラグじゃないぞ!? 俺は絶対死なないから! つーかお前も白沢さんに告白しろよな!」

「なんで俺も……。いや、わかったよ。戦いが終わったら俺も白沢に告白するよ」


 俺は缶を一気に飲み干した。島本さんと鳥谷さんはタバコを吸いながら、俺と桜井を見て笑った。


「いいぞお前ら、告れ告れ。そんで玉砕するのもまた一興」

「いいっすね、青春っすね」

「鳥谷、汚れきった我々はいっちょ夜の街に繰り出すとするか!」

「まじすか島本先生! 6万すよ6万」

「どうしてもあいちゃんに会いたいんだろ? こういうときは先生に任せときな!」

「あのー、俺たちは……」

「お前らは留守番だ」


 島本さんと鳥谷さんは本当に出ていってしまった。酒が入っているから電車で行くようだ。

 明日は決戦だってのに。でも俺はこの人たちと生きて帰りたい、そう思った。

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