ヒロイン視点 下っ端聖女を薬屋の店員と密室に閉じ込めたのに、何故か王太子に抱き抱えられて出てきました
「本当にあのちびむかつく!」
私は完全に切れていた。
せっかくオリエンテーションでフェンリルを連れ出したのに、フェンリルは一撃で倒されたのだ。
何の役にも立たなかった。
むかついたのでサラとか言う下っ端聖女に、ちび聖女の机に落書きするように示唆したら、やってくれた。赤いインクで書かれた『ちび、死ね』は最高だった。
まあ、でも、それは、エドガルド様に反射魔術で戻されていたけれど……
男爵令嬢の聖女なんて掃いて捨てるほどいるからこの子もこれで退学ね。
私は一緒に連座する気は全くないし……
そう思っていたのだが、これが良くなかった。
怒ったエドガルド様は王妃様から長机を借りてきてチビ聖女と一緒に2人で並んで授業を受けるようにしてくれたんだけど……
ちょっと待って!
その長机は私とエドガルド様の席のはずだ。
何でちびが座っているのよ!
本来ヒロインは私で、その席は私とエドガルド様の席なのよ!
しかし、私はその旨をエドガルド様に主張したのに、全く通用しなかった。
小説の世界ならそうなのに!
本当に許せない。
このままでは私がこの国の筆頭聖女になる話がなくなってしまう。
私達は魔物学のレムスの所に集まってどうするか相談していた。
「セシリア様。あなた様がいながら何故あんな貧相で地味なちびの聖女なんかに負けているんですか?」
信じられないことにレムスが喧嘩を売ってきた。
「何言っているのよ! そもそもあなたのフェンリルが全然役に立たなかったからでしょ! あそこでチビ聖女を亡き者に出来たら良かったのに! 本当に役に立たないわね!」
「な、何を言われるのですか? 儂は偉大な魔物学者ですぞ。魔物を活性化する薬を現在開発していまして、その最終治験を間もなくやろうとしているのですぞ」
「えっ、本当なの?」
私はポルトの大使に聞いていた。
「さようでございます。この国の騎士団の魔物退治演習に合わせてやろうとしておりまして着々と準備しております」
大使が教えてくれた。
「見てみなさい。ポルト王国の陛下からも期待するとの言葉を頂いておるのです」
「そうなんだ」
私は頷いた。
「でも、魔物討伐訓練でいきなり魔物が凶暴化したら、演習は大変なことになるわね」
私がほくそ笑むと、
「多くの負傷者が出るのは確実ですな」
レムスも笑って言ってくれた。
「とすると私の真価を発揮できるかもしれないわね。出動要請が出て、私が活躍する場面なのね」
そう言えば魔物のスタンピードが起きて、私がエドガルド様と現地に向かう場面があったわ。それはレムスが原因だったのね。そんなの全然アニメには出ていなかったけれど、ポルト王国が噛んでいたんだ。
治療魔術はまだ学園では習っていないが、私はポルト王国で習得済みだから習っていないこの国の聖女達と比べたら独断場のはずだ。
これで初級ポーションしか作れないちび聖女を叩き落としてやれるわ。
私は喜々とした。
「しかし、その前に、ちび聖女を王太子殿下から引き離す話はどうなっているのです」
大使が聞いてきた。
「ちび聖女と薬屋の店員が親しいそうだからそれについて色々と噂は流しているんだけど、中々上手くはいかないのよね」
「それで大丈夫なのですか?」
大使が不安そうに聞いてきた。
「大丈夫よ。今アレハンドラが着々と良からぬ事を計画しているわ。私は後はそれに乗れば良いだけよ。エドガルド様の不満は全てアレハンドラが引き受けてもらって、後は私がエドガルド様の無聊をお慰めすれば終わりよ。何しろ私はヒロインなんだから」
「今度こそ上手くいけば良いですな」
大使が不穏なことを言ってくれたが、私は自信満々だった。大使もその時になれば私の偉大さが判るという物だ。チビ聖女さえ排除できればヒロインの私の魅力に、必ずエドガルド様が落ちるはずだ。
いくらエドガルド様がちび聖女に執心していても、さすがに真っ暗な個室で男と二人きりで過ごした女を見限るだろう。
貴族の子女なら密室で若い男女が一緒になるなどあり得ないことだった。
そんなことしたら良からぬ噂が駆け巡るのは時間の問題だ。
その点あのちび聖女はあり得ないほど、薬屋の店員と仲良かった。聖女としてのたしなみが無いと言われても仕方がなかった。
私は何故かまだ止めさせられていないサラからチビ聖女と薬屋の店員を2人で密室に閉じ込めたと報告を受けた。
私は階段の物陰から2人が出てくるのを待ち受けていた。
扉の鍵を外から閉めたから簡単には出てこれないかもしれない。
その時は大聖堂のアレハンドラら聖女達が探しに来て2人を助け出すストーリーだった。
あの抜けている聖女なら感謝するかもしれないが、アレハンドラ達は悪役令嬢なだけに悪意の塊だった。あっという間に面白おかしく噂を広めてくれるだろう。
私は楽しみだった。
外は雷が鳴って大雨が降ってきた。
今後のちび聖女の運命のようだった。
不純異性行為をしたという事で学園を退学させて、後は責任を取らせて薬屋の店員と結婚すれば良いのだ。まあ、初級ポーションをあれだけ作れるのだから店が潰れることはないだろう。店が繁盛するかもしれない。そもそも初級ポーションを作るしか能のない平民チビ聖女がこの学園にいるのが間違いだったのだ。
お前がいなくなった後のエドガルド様の事は私が引き取ってあげるわ!
私は階段の陰からほくそ笑んだのだ。
ダン!
扉が粉々に吹っ飛んでいた。
薬屋の店員も魔術が使えたんだ。
私は驚いたけど、でも、遅かったわ。
入ってから30分以上経っているはずだ。不純異性行為が行われたと疑われるに十分な時間だった。
早速引導を渡してあげようと私は階段を登りだした時だ。
「「「えっ?」」」
喜んで扉の前に揃っていたアレハンドラ達が驚きの声を上げていた。
何事かと私も首を伸ばしてみると、ちび聖女を抱き上げて扉から出てきたのがなんと銀髪緑眼のエドガルド様だったのだ。黒髪黒目の薬屋の店員はどこに行ったんだ?
「王太子殿下!」
はやし立てようとしていたアレハンドラも目が点になっていた。
ええええ!
どういう事?
薬屋の店員と一緒に入ったはずなのに、何でエドガルド様が中から出てきたの?
私は訳が判らなかった。
「王太子殿下とパウリーナが二人きり……」
「何を言っているの!」
余計な事を言おうとしたエビータをアレハンドラは叩いて黙らせていた。
エドガルド様と二人っきりの既成事実を作ったなんて事になったら、エドガルド様とこのちび聖女の婚姻が決まってしまうではないか!
言葉には気をつけろ!
私は叫びたかった。
「お前らか、この扉を閉めてくれたのは」
氷のように冷たいエドガルド様の言葉がアレハンドラ達に浴びせられた。
「いえ、パウリーナが帰ってこないから心配して探していたんです」
必死にアレハンドラが言い訳した。
「ほおお、お前らがパウリーナのことを心配するとはな!」
全然エドガルド様は信じていないようだった。
「そう言えば俺はパウリーナと二人きりで密室に一緒にいたという事になるのかな」
「はい、何のことなのか全然判りません」
エドガルド様の言葉にアレハンドラは必死に知らない振りをした。
そんな噂が流れたら、エドガルド様の婚約者にチビ聖女が決定してしまう! それだけは何としても避けなければならなかった。
「ああら、エドガルド様。いかがされたんですか?」
私は誤魔化すためにエドガルド様に近付いた。
「白々しいな。何を期待していたんだ? 隣国の聖女殿は?」
エドガルド様の声は氷のように冷たかった。
「何をってよく判りませんわ。皆様が集まっておられたから何事かと思って来たのです。腕の中の方はどうされたのですか?」
「ふんっ、お前らにとじ込められたと言って泣いていたところを助けたのだ」
「まあ、アレハンドラ様たちがそんな酷い事をされたんですか?」
私は平然と言い逃れしようとした。
「ふんっ、白々しいな。別に俺とパウリーナ嬢が二人きりで密室にいたと皆に言いふらしてくれても良いぞ」
そう言うとエドガルド様は階段を降りて行かれたんだけど……
な、何を言っているのよ。そんなことになったらチビ聖女がエドガルド様のお相手に決定してしまうじゃない。
「サラ、どういう事なの?」
「どういう事と言われましても」
「何故、パウリーナとエドガルド様が一緒に出てきたのよ!」
「でも、私は薬屋の店員が中に入るのを確かに確認しました」
「それは私も見ました」
エビータが頷いていた。
「でも、エドなんてどこにもいないじゃない」
「それはそうなんですけど……」
サラは狐につままれたような顔をしていた。
まあ、それはどうでも良い。こうなったらレムスに早急に行動を起こさせよう。そこで何としても私の存在をエドガルド様に知らしめて、お側においてもらうようにしないと。
チビ聖女を蹴落とすのはそれからだわ。
私はすぐにレムスに連絡を取るべくその場を離れたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました
エドとエドガルドとの関係は?
続きは明日です。
お楽しみに!








