12座る席を池の中に捨てられたので、王太子殿下の膝の上に座らされました
「おはようリーナ」
「おはようございます。エドさん」
翌日、私はエドに幌付きの馬車で大聖堂まで迎えに来てもらったのだ。
「さあ、リーナ」
私はエドさんに手を差し伸べられてその手を取った。
エドさんが私を御者台に引っ張り上げてくれた。
二人して御者台に座るとエドさんが馬車を出発させた。
何でこんな事になったかというと、入学式の後、クラスで学園の説明があった後、私が歩いて大聖堂に帰るとイライラしていたエドさんが待ち構えていたのだ。
「遅いじゃないか、リーナ!」
エドさんは何故か怒っているんだけど……
「どうかされましたか? 初級ポーションは先日結構な量をお渡し終わっていると思うんですが……」
私が驚いて聞くと、
「午前中に学園は終わると聞いていたから、学園がどうだったか聞こうと思って待っていたんだよ」
「ええええ! それはご免なさい」
「何でこんなに遅かったんだよ?」
「いや、馬車が無いから歩いて帰ってきたからです」
「歩いても1時間もかからないだろう」
「いや、そうなんですけど、途中で少し道を間違えてしまって……」
私は言い訳した。
王都に来てからずっとポーションを作るのに忙しかったから、王都の中をあまり歩いたことがなかったので、迷ってしまったのだ。
「はああ! そうか、リーナは方向音痴なんだな」
「方向音痴だなんて、失礼な! 歩き慣れていなかっただけです」
前世でも方向音痴ではなかったはずだ。友人達からはあそこで迷うなんておかしいんじゃないと笑われたことはあったけれど、断じて方向音痴ではない!
「そうか、だったら歩いての行き帰りは難しいだろう。今日も学園へは荷馬車で行ったみたいだけど……判った! 明日から俺が送り迎えしてやるよ」
エドさんがそう申し出てくれたけれど……
「いや、でも、それは悪いわ! エドさんもお仕事があるでしょう?」
「いや、店長に頼んだら、俺も王立学園に入れることになったんだ」
「えっ、本当に? エドさんも学園に行けるの?」
私はエドさんを見て喜んだ。
「良かった。友達が少なかったからとても嬉しいです。でも、クラスはどこですか?」
同じクラスなら良いのにと一抹の希望を持って聞くと、
「おそらくDクラスかな」
「そうなんですか……」
同じクラスじゃなくて私はがっかりした。
「リーナはAクラスだったよね」
「そうなんです。エドさん、聞いて下さいよ。私いきなり王太子殿下の隣の席になったんですよ」
「そうなんだ。良かったじゃないか」
「良くはないですよ。他の貴族令嬢達の視線がとても怖かったんですから」
私がむっとして抗議すると
「何か言われたのか?」
「いえ、睨まれただけです」
「なんかあったらすぐ俺に言えよ」
「はい」
私はエドさんが心配するから頷いたけれど、あまりエドさんに迷惑かけることは出来ない。何しろエドさんは単なる薬屋の店員に過ぎないんだから。下手な事したらエドさんが薬店を首になるかもしれないし、下手な貴族に睨まれたら今後の就職口にも困ると思うのだ。
まあ、エドガルド様の隣に座っていたら、これからヒロインとエドガルド様が仲良くなっていく様子が特等席で見られるからそれは良いんだけど……エドガルド様の隣だからアレハンドラ様達からはまた色々と言われるんだろうな。
それを思うとどんよりした。
「ところで今日は何故そんな古い昔の制服を着てきたんだ? 平民には制服は支給されただろう?」
「えっ、そうなんですか?」
私は知らなかった。
「制服を買わなければいけないと悩んでいたら、親切な先輩が古いので良ければあるからってくれたんです」
そう言うとエドさんは何故か頭を押さえていた。
「それは親切じゃなくていじめだと思うぞ」
エドさんがそう言ってくれたけれど、そうなんだろうか?
「まあいいや、明日は必ず迎えに来るから待っているんだぞ」
そう念を押すとエドさんは帰っていった。
エドさんは帰りがけに大聖堂の事務所にでも抗議してくれたんだと思う。
夕方に事務所に来いと伝言があったから行くと制服が支給されたのだ。でも、部屋に帰って制服を見ると、背中がざっくりと切られていたんだけど……
誰にやられたんだろう?
まあこんな事は日常茶飯事だ。
その日の夕食の時は他の聖女達から虐められるかなと思ったけれど、私のメニューだけ昨日の残り物だっただけだった。何か、もっと言われると覚悟していたので、身構えたぶん肩透かしを食らった気分だった。
でも、こんなので終わりなんて絶対にあり得なかった。
学園までは行きは馬車で20分くらいだった。
今日は貴族の馬車ではなかったけれど、昨日の荷馬車よりはランクアップしていた。
幌が付いているし横にいるのは制服をきちんと着こなしたエドさんだ。
黒髪黒目のエドさんはエドガルド様に比べるとアレだったけれど、周りの街の人とかに比べるとイケメンだった。
私の隣にいるのはもったいないくらいの美形だ。
すれ違う人は皆こちらの方を羨ましそうに見ているんだけど……
美女と野獣ならぬ美男とちびという感じか……なんか悲しい……
「じゃあ、リーナ、頑張って!」
あっという間に学園に着いて、そこで薬屋の人に馬車を返すとエドさんはさっさと行ってしまった。
もう少し一緒にいてほしかったのに!
まあ、良いわ。
今日も頑張ろうと私は気合いを入れて教室に向かったのだ。
「あれ?」
私は教室に入って戸惑った。
私の机と椅子がなかった。
どうしたんだろう?
「ああら、パウリーナ、どうしたのかしら?」
デボラ子爵令嬢が窓際の席から声をかけてきた。
「さっさと自分の席に座りなさいよ」
エビータ伯爵令嬢が笑って声を出してきた。
「いや、でも」
私は机と椅子を探したが、無かった。
こいつらか、私の机と椅子を隠したのは?
でも、どこに隠してくれたんだろう?
「ああああら、パウリーナ、机と椅子が無いなんて、あなたに座られるのが嫌で家出でもしたのかしら」
アレハンドラ様がにこりと笑って中庭の池を顎でさしてくれた。
そこには私の机と椅子が放り込まれているのが見えた。
ええええ!
こんな原始的な虐めをする?
私は唖然とした。
「どうした?」
そこに氷のような冷たい声のエドガルド様が入ってきたのだ。
「パウリーナちゃん、何故立っているんだって、机と椅子が無いのか」
ダミアン様が私を見てくれた。
「いやあの」
私が中庭の方を見ると
「ええええ! 誰だよ、パウリーナちゃんの机と椅子をあんなところに放り込んだのは?」
「さあ、パウリーナさんが勉強したくないからってご自分で放り込まれたんじゃありませんか?」
アレハンドラ様が勝ち誇ったように言い放ってくれた。
それをエドガルド様が凍てつくような視線で睨み付けていたんだけど。
「そうなのか? パウリーナさん」
「いえ、そんなことは」
私はエドガルド様の声を否定した。
「おいおい、それどころじゃ無いだろう」
慌てて、ダミアン様とカルロス様が外に行こうとされた。
「私も行きま……」
でも、そう言って飛び出そうとした私はエドガルド様に捕まってしまったのだ。
「パウリーナさん。勉強から逃げようとしても無理だよ。椅子が無いのならば俺の上に座れば良いだろう!」
そう言うとエドガルド様が私を自分の膝の上に座らせて椅子に座ってくれたのだ。
その瞬間アレハンドラ様始めみんなが驚愕して私達を見てくれた。
ええええ!
私、私、エドガルド様の上に座らされているんだけど!
私は真っ赤になってしまった。
こんなの……こんなのあり得ない!
そう言えばアニメのシーンでヒロインが悪役令嬢に机と椅子を隠されてエドガルド様の膝の上に座らされて授業を受けさせようとされたシーンがあったけど、私はヒロインじゃないんですけど……
私は目をつり上げて睨んでくる山姥のように怒り狂ったアレハンドラ達の視線にさらされていた。
でも、エドガルド様は私を膝の上に乗せて平然としているんだけど……
私は恥ずかしさで穴がどこかに開いていたら入ってしまいたかった。
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