怒涛の一日目(前半)
校門をくぐり少し桜並木を歩くと、この学校の新入生らしい私服の人達が並んでいる列あった
そこに並び徐々に前へ進むと荷物を預かってもらえる場所があり預けると各自の寮へ運んでくれるらしい
その後は身体検査(健康診断みたいなもの)と制服の採寸の為男女で別々の建物へ行くよう案内された
「じゃあ、またあとでね」
とイルマと別れ男が並ぶ列の最後尾へ移動する
周りに知った顔はいないため一人黙々と列が消化されるのを待ちながら周囲に目を配る
友人と一緒に来たのか談笑しているもの、一人で心細いのか顔を青くしているものなど本当に様々な人たちがいた
僕も青い顔してるのかな?なんて思っていると、列は消化され小さい病院のような建物の中へ入る
30分も経たないうちに検査や制服の調整も終わり、次の指示があるまで自由にしていいとのことで建物を出てイルマを探すことにした
「おーい キセロ こっちこっち」
イルマも探してくれていたみたいで無事に合流する
「私身長が2cm伸びてたの! もうちょっと成長するかな?」
「俺はあんまり身長を気にしないかな」
「私は気にするんです! モデルさんみたいなスタイルになってやるんだから」
なんていいつつ一生懸命つま先立ちでスタイルを良く見せようとしているが相変わらず小さい
そんな緊張感のないやり取りをしていると学校全域に聞こえるように放送が入る
『新入生の皆さんに連絡です 祝福の儀の準備が出来ましたので近くの案内人の指示に従ってください』
「祝福の儀が始まるね 絶対にいい職業ひいてやるんだから!」
”祝福の儀”はゲームの中でも重要な”職業”に就くためのイベントである
ゲームの1周目はこの段階でなれる職業は5個だけだが、2週目以降は過去の周回で主人公が就いた職業も追加されるという仕様になっている
このゲームRTAと最強だと進むルートが全然違うんだよな……
しかも周回ボーナスの有無も全然分からないからとりあえず祝福の儀を受けてみるしかない
「イルマは何を目指してるの?」
「私はね、前人未到の最終ダンジョン制覇を目指してるの!」
そうこのサクリファイス学園にはダンジョンがある ダンジョンの詳細はおいおいとして……
最終ダンジョン(ラスダン)はまだ攻略されてないとのことだ 話を合わせよう
ゲームではラスダンを制覇したら卒業までスキップ出来るのでRTAと最強はアプローチが違うんだけど……
リアルにスキップはないから最強を目指すとしますか!
「それは凄い! 希望の職業は?」
「私は双剣使い!ずっと練習してきたからなれると思う!」
双剣使い!?ゲテモノRTAでもするかのような回答に頭が痛くなる
このゲームの設定として才能もしくは能力がないとその職業に就けないという設定がある
ずっと練習してきたって言ってたからこれは素直に応援するべきか?
「なれるといいね!応援してる」
「ありがとう そろそろ行かないと!案内人さーん」
イルマは大きな声で案内人を呼び連れてきてくれる
それから案内人の指示に従い二人で歩き出した
ただ1時間程度の時間ではあるがこの世界にはイルマしか知っている人はいない
最強になる方法を伝えて仲間になってもらおうか
でも応援してると言った手前、本人が頑張って目指している物を否定するのも気持ち的によろしくない
「何か考え事してるの?」
「いや特に……」
「うっそだー! いい職業に就けるか心配なんでしょ?」
「ま、まあそんなとこ……」
色々誤魔化しというか勘違いされながら考えてはみたが、伝えることが出来ないまま、祝福の儀の会場に着いた
祝福の儀は西洋の教会のような場所で祈りを捧げまるで神託を告げられるように自分がなれる職業を一通り伝えられた後自分で選択するというものになっている
これは最近のラノベから影響を受けているそうだ そっちの方が大事なイベントみたいだからという安直な発想らしい
まあ実際大事なイベントではあるんだけど……保留には出来ないし
最強になる”職業”へ就きに行きますか
考え事をしていると祝福の儀を終えた人が出てきた
喜んでいる人、落ち込んでいる人など様々な人がいる
希望の職業に就けたかどうかで表情が違うのだろう。今までの人生の評価をつけられたのと一緒だからだ
「君まで建物の中に入ってください」
案内人に促され教会のような建物に入っていく
芸術的なステンドグラスが壁一面に輝いており、中央にはこの世界で信仰されている女神様の像が鎮座している
その元には司祭のような人がおり、僕たちは教会の長椅子の前に並び座る イルマの隣である
「皆さん手を胸の前で組み、目を閉じて祈りをささげてください」
指示通り祈りをささげる
「我が主よここにいる者へ祝福を」
目を瞑り暗かった視界に光が差す
光は段々と広がり白い翼の女性が姿を見せる
『あなたの就ける職業をお伝えします あなたの就ける職業は……』
就ける職業は全部で6個だった
戦士・魔法使い・僧侶・盗賊・生産者・シードの6個である
本来ゲームでは生産系の職業には就けないのだがリアルだから就けるのか……
しかし、就く職業は決まっている
「俺の就く職業は”シード”でお願いします」
『”シード”ですね あなたの人生に幸あれ』
その言葉の後、視界の光は無くなっていき暗い視界に戻る
「私は双剣使い」
隣から独り言が聞こえる
イルマはなりたい職業になれたようだ
「祝福を得ることが出来た方から目を開け顔を上げてください」
顔を上げるとまだ顔を上げてない人がチラホラいた
恐らく自分の職業について悩んでいるんだろう
しかし数分も経たないうちに全員が顔を上げる
「全員の祝福を確認しました 左右の個室で職業を担当者に伝え退出ください」
司祭に近い方から個室に入っていき報告していっているみたいだが防音がしっかりとしているのだろう
全く話声などは聞こえない 自分の番になり個室へ入る
「あなたの職業を教えてください。」
「僕は”シード”です」
そう伝えるとかなり怪訝な顔をされ、白いカードを渡される
「このカードを出口の職員にお渡しください」
個室を出ると笑顔のイルマが待っていてくれた
「なりたかった職業になれたみたいだね」
「そうなんだよー! 小さいころから頑張った甲斐があったよ」
「良かったじゃん!おめでとう」
なんて言ってると出口に着いた
イルマに少し待ってもらい、職員にカードを手渡す
「あなたはこちらに来てください」
そう言われイルマと別れさせられる
イルマは驚いた顔をして固まってしまった
俺はどこに連れていかれるのだろう……