娘にミュージカルを見せる。
後日、篠織は久しぶりに昔の劇団仲間と会って食事をし、
この間のエリーが出演した『ローズマリーの森の小さな家で』の話をした。
「ああ。あの、大炎上した舞台か。確か……ニュースになったよな?
観劇した子供がヒステリー起こしちゃったっつって。篠織観に行ったの?」
「行った。衝撃的だった」
「俺も行きたかったんだけどさ。2日しかやってないから厳しくて。
でもそこまで有名になるんだったら行けばよかったよ。どうだった?エリーは」
「まあ……俺が知ってるエリーじゃなかったな……」
「あー。篠織は劇団一筋だったからな。でもそんなもんだぜ実際。
劇団員が違う座組で客演すると、なんか雰囲気変わるの。割とあるあるだったりするぜ。
考えてみりゃ当たり前だよな。豪にいらばなんとやらで……第一演出だって向こうの演出家が付けてるわけだし」
『あるある』なんだ。
「そうか。前回が特殊すぎただけか」
「そうだよきっと。まあ、エリーも結果的に人気になったわけだし。……炎上でだけど。
元専属作家としては鼻が高くていいんじゃねえの?」
篠織は、なんだか救われた気分になった。そうか。エリーが変わってしまったわけじゃないんだ。
それからエリーから手紙が届いたのは、半年後の事だった。
「dear 篠織くん。
こんにちは! 噂の血みどろ女優(笑)のエリーです。
前回の公演で共演した、とあるお笑い芸人さんに気に入られちゃって、
その芸人さんが主催の団体に出演させていただくことになりました!
はちゃめちゃハイテンションなコメディーミュージカルです!
あ、安心してね! もう血は出てこないから(笑)
吉木カンパニー 第二回公演
『楠ママの、おバカな奮闘記!?』
9月14日~20日。
楠一家は大家族で今日も賑やか! そこに色々なハプニングが!
抱腹絶倒のエンタメミュージカルです!
是非、家族で見にきてね!!」
その手紙を読んで、篠織は思わず「おかえり」と微笑んだ。
これはきっと、篠織の知っているエリーだ。
「なあ」
篠織は妻に声をかけた。
「なあに?」
「来月の14から12、空けられないか?
由美香も連れて。ミュージカル観に行かない?」
すると妻は、
「またエリーさん? 最近頑張ってるんだね。
えっと……子供と見に行って大丈夫なやつだよね?」
「ああ。今回は大丈夫だろう」
「わかった。いこっか。
久しぶりのエリーさん楽しみ!」