第5話.鉄と火とあとは魔法!
風のように走る砂エルフ達。一歩ごとに砂に足を取られるこの環境で、全く足場の悪さを感じさせない疾走は見事と言うほかない。沈みゆく太陽と同じ方向に一つ砂丘を越える。その先に戦場があった。
「犬は何匹だ!そちらにもいる!」
「逃げたぞ、追え!射かけろ!」
砂エルフたちの怒号が響く、風を切って矢が放たれる。狙いはナワバリに入った人間たちだ。砂色のヘルメットにボディアーマーを装備した人間の何名かに矢が命中した。侵入者たちはそれぞれに小銃を構え、お返しとばかりにエルフたちに発砲する。
パパッ!パパパッ!!
5.56mmのライフル弾はエルフの矢よりも遥かに初速が速い。あっというまに先頭に立っていたエルフ達を薙ぎ倒した。
「ぼうっと立つな!身を隠せよ!」
アリサが叫ぶ。火器の火力に一瞬怯んでいたエルフたちは気を取り直して、各々が手近にある遮蔽物に身を隠した。
「おおー。エルフちゃん指示がすご……」
パアンッ!!
ナナコがそう言いかけたところ、彼女の眉間にライフル弾が直撃した。オレンジ色の火花が飛び大きくのけぞる。
「痛っ〜〜!」
「うわぁ!ナナコ先輩!?大丈夫ですか!」
「撃たれちゃったよ!痛いよ!」
ナナコはおでこを指で抑えながら、ぺろっと舌を出して上唇を舐めた。乱れた赤髪がふわっと舞う。
「お返しさせてもらうからね!」
そう言うがはやいか、彼女は最前線のエルフすら飛び越えて、火線の交差するど真ん中へ飛び出していった。右手には短機関銃が握られている。踊るように乱射。マズルフラッシュが連続し、それが途切れたと同時に弾倉を捨てる。同時に空中に出現した新しい弾倉を装填した。排莢された薬莢が、地面に落ちて音を立てる。撃ち返そうと乗り出した人間の胴体に9mm弾が吸い込まれるように直撃した。もんどり打って慌てて伏せる。
「からだ出しちゃうからそうなる!」
パパパッ!
閃光と火花。止むことのないフルオートの弾幕が降り注ぐ。人間たちは遮蔽物から身を出すこともできずに釘付けになった。
「火の神よ、我が弓に加護を!そして我らに仇なす者に鉄槌を!」
明瞭でよく通る声。アリサがそう叫んで、彼女が持つ矢の矢尻を砂の地面に擦りつけた。細工が施された美しい矢の先端が発火し、真っ赤に輝いた。
「行けっ!!」
掛け声とともにアリサが放った矢は、敵の隠れる掩体に直撃した。コンクリに人差し指一本分ほど突き刺さり、次の瞬間爆発した。大きな音を立ててコンクリ片が吹き飛んで弾ける。
「矢が爆発した!?」
「火の魔法です。もう一撃行きます、スイカ様は下がってください」
「魔法?魔法って、あの魔法!?」
「どの魔法かわかりませんが!危ないので、あまり乗り出して見ないでください!爆発しますから!」
アリサはもう一度同じように唱えると、再び魔法の矢を放った。敵の隠れ家がもう一つ吹っ飛んだ。敵も伏せるのに忙しいようで、反撃の手が止まる。
「やるじゃん、エルフちゃん!ナイス火力支援!」
ナナコはそう言いながら、倒壊した敵の掩体壕に突入した。飛び出てきた敵に弾倉の中身を全部吐き出すと、手に持った短機関銃を捨てた。
「ボディアーマーでしょ!9mmじゃ火力が足りないよね、そう思わない?」
ナナコが言うと空中に拳銃が二挺出現した。黒と銀の大柄なそれらは10.9mmマグナム弾を装填する回転式拳銃である。それを右手と左手にそれぞれ握る。
「ちょっと痛いよ、我慢してね!」
掛け声一つ、銃口から出た火は二つ。胸に直撃をうけて一番近くにいた人間が吹き飛んで倒れた。ボディアーマーは銃弾の貫通を防いだとしても、衝撃がなくなるわけではない。当然ながら当たれば痛い。
ドン!ドン!!
大口径のマグナム弾が火を吹く。突入してきたナナコによって、混乱のうちに次々とヘルメットの人間たちが撃ち倒されていく。他の場所でもまた爆発音。アリサが魔法で大暴れしているようだ。
「撤退だ!撤退!!」
「聞いてないぞ!」
「逃げろ!退け!」
大きな声で叫びながら侵入者が逃げていく。倒れた者は引き摺られながら、散り散りになって逃げていく。砂エルフと侵入者の声がどんどん遠く小さくなっていった。
「終わりかな〜」
ナナコは両手に持っていた拳銃を空中に投げると、それらは光になって消えていった。