第4話.砂エルフのすみかはどこか!
風で巻き上げられた砂が視界を奪う中、彼女らは砂エルフの集落を目指した。深々と砂色のフードをかぶり吹きつける風に逆らうように歩いた。しばらく無心で歩いた後、ついにアリサが口を開いた。
「見えました。あそこが我々の集落です」
「見えましたって……どこですか?」
スイカが疑問を口にした。見えるのは砂、そしてなんらかの建物が倒壊したような廃墟ばかりだ。どこをどう見ても、こんなところに人が住んでいるようには思えない。
「あそこが、長老の屋敷。そこが私の親戚の家です」
倒れた高速道路のような一角や、崩れたビルの残骸を指を指してアリサは言う。
「こんなところに住んでいるんですね」
「砂エルフは自然を大切にする。遺跡を壊すようなことはしない、ありのまま使うんです」
「そうなんですね」
よく見れば、コンクリートの隙間から視線を感じる。そこかしこに誰かが潜んでいるようだ。しかし一人も姿を現してはこない。
「んー?なんか歓迎されてないっぽい?なんか狙われてる感じがしちゃうんだけど」
「警戒してると思います。今は人間たちと抗争状態にありますから」
「やっぱり?」
にへっとナナコが笑いながら言った。
「でも、このまま狙われるのも困るんだよね。私たちは敵じゃ無いんだよって伝えて欲しいんだけど、できるかな?エルフちゃん」
「やってみます。長老であればわかってくれるでしょう」
緊張した表情でアリサはそう答えた。彼女は一人、長老の屋敷だという建物に入っていった。空は高く、青々とした空に一つの太陽が輝いている。
「それにしてもさみしいところだね。住むにしてももう少し綺麗にすればいいのにね」
「できないのかも」
「できない?」
ナナコの言葉にメイが返事を返した。近くの廃墟から飛び出た鉄筋を指差した。
「鉄筋が削れてる、砂嵐のせいか」
「んー。砂で削られたってこと?」
「さあ?ちゃんと調べるなら、機材を出して時間をかけないとわからないけど」
「そっか、落ち着いたら調べてみよう」
しばらくすると、アリサが背の低いお婆さんをともなって姿を現した。おそらく長老なのだろう。長寿と思われる砂エルフにも、やはり老化というものはあるらしい。
「あ。エルフちゃん出てきたよ」
長老らしき老婆が、ゆっくりとした足取りで三人の前に歩いてきた。アリサがメイの方に向き直った。
「お待たせしました。我らが砂エルフの長老です。そして長老、こちらが神さまの……」
「神さまのメイだよ」
間髪入れずにメイがフードを脱いで自己紹介をする。遅れて二人もフードをとる。やさしく微笑む長老。
「メイ様。なれば、こちらの方々はお供の方ですかな」
「そう。私たちがそのおともです!私はナナコと呼んでくれたら良いよ」
「うえぇ!?は、はい。おともです。私はスイカと言います」
笑顔でそう言ったナナコに、スイカが話を合わせる。
「それで長老さま。話は聞いてもらったかもだけれど、私たちはあなた方の敵じゃないんだ。それを理解して貰いたくて」
「はい。大丈夫です、承知しました。皆にもよく言っておきますから」
「ありがとうございます」
「それで、神さま方は一体なんの為にこちらへ?」
どこから説明すべきなのだろう。彼女らの頭の中にそんな言葉が浮かんだとき、メイが答えた。
「砂」
「砂ですか」
「そう、この砂はおかしい。なんとかしないと」
足元の砂を手のひらですくってみせる。
「世界がだめになる」
「なんと。それは大変ですね」
「そう、大変。だから……」
続けようとしたとき、ドンっと大きな破裂音が一つ鳴った。西の空に赤い煙が、まるで菊の花のように咲いていた。
「花火?」
スイカがそう呟く。にわかに人の声が、そこかしこから上がった。どこに潜んでいたのか相当数の砂エルフたちが剣や弓を携えて姿を現した。
「敵だ!犬が出たぞ!いけ!」
次々と戦士らしきエルフたちが、煙の上がった方向へ走り去っていく。
「敵!?アリサちゃん、どうなっているんですか?」
「すみません、敵が来たようです。私も行かなければ!神さまたちはここに、長老と安全なところへ」
「んー。エルフちゃん、私たちもついて行くよ。メイちゃんは長老さまと一緒にいて」
「わかった」
メイはうなずいた。アリサが自分自身の装備を確認しながら言う。
「構いませんが、お守りすることはできませんよ。ついて来るならばご自由に!」
慌てた様子で準備を整えると、アリサも皆が向かった方向へ走り出した。それをナナコとスイカが追いかける。
「わかってる!行こう、スイカちゃん!」
「はい!」