第3話.未知の砂漠とエルフと!
「メイちゃん?」
頑張って土管を登ったあと、小走りでメイが駆け寄ってきた。どうやら戦いの気配を察知してずっと隠れていたらしい。
「話はきかせてもらった、砂エルフよ」
「な、何だお前は」
「僕は神だ」
メイは小さな体をできるだけ大きく見せるために腕を広げてそう言った。ちょっと低くつくった声で。
「何を言ってるんだお前は」
砂エルフの冷ややかな表情と声。それでもめげずにメイは続ける。
「砂エルフよ。信じられぬなら、神の力を見せてやろう」
「神の……力?怖くて土管に隠れていた人間が?」
「隠れてはいない、戦略的撤退。我々三人の中で一番強いのは僕」
メイが、んっと咳払いをして続ける。
「では今から時間を止めて、一瞬のうちにお前の手首に手錠をかけます、はい!」
「手錠だと!?……っは!」
次の瞬間、砂エルフの両の手は手錠で繋がれていた。
「なんて、なんて破廉恥な!これから何をするつもりだ!」
「何もしない、これは破廉恥ではない!神のパワーだ。これで理解したか、時間を操るほどの力を」
「い、いや、まだわからん。すごいスピードで動いて手錠をかけただけかもしれない。加速の魔法なら聞いたことがある。さすがに武装解除された上にロープでぐるぐる巻きにされでもしたら信じざるを得ないが……」
メイは、んっと咳払いをしてスイカを見た。彼女は呆れ顔だ。
「ならば今から武装解除をして、その上でロープでぐるぐる巻きにしてみせます」
「なんだと!胸当てを外された上でぐるぐる巻きにされると……はっ!?」
次の瞬間、砂エルフは金属製の胸当てを外された上でロープでぐるぐる巻きに縛られていた。しかも装備を外された胸当ては、きっちり畳んで地面に置かれている。
「っく、バカな!こんなことが!私は一体、今から何をされてしまうんだ」
砂エルフは耳まで真っ赤になりながら言った。
「あなたが神!?まさかこの砂漠の」
「そう!僕は砂漠も含めて、この世界の神さま!信じて貰えたかな?」
「うわあ神さま!せめて、せめて、やさしくして……」
メイは縛っている縄を解き、手錠を外した。これで彼女は自由の身だ。
「えっ?えっ、終わり?」
砂エルフは、自由になった自分の体を見ながらそう言った。真っ赤になって涙目だった表情がもとに戻る。
「こほん。とりあえず、あなたが神さまである。ということは理解しました。それで神さまは一体なにをされて?」
正座しながら問う砂エルフの前に、ナナコがずいっと割り込んできた。
「んー。神さまにも色々事情があるんだよね。質問するのは私たち、答えるのはあなた。オッケー?」
「は、はい」
「名前は」
「古代文明の墓場に住む賢者、深淵なる魔術の使徒、砂エルフのアリサと申します」
「どうして私たちを狙った」
「我々の土地に、見知らぬ人間が侵入したのかと思いましたので攻撃をしました」
「ここはどこだ」
「古代文明の墓場、大地を割る砂漠です」
「年齢は」
「五百年くらい生きていると思います」
「ずっとここに住んでるの?」
「はい。うまれた時から砂と共にあります」
「家族の人も?」
「住処があります。父と母もそこに」
「んー」
ナナコがスイカとメイを見る。
「スイカちゃんどう思う?」
「少なくとも外から見て砂漠化に気がついてから五百年以上は経っていると思います。だからこのアリサさんの言ってることに矛盾はないと思いますけど」
おもむろにメイが砂エルフの耳を触った。
「ひゃっ!な、何を」
「本物の耳」
「あたりまえでしょう!」
長い耳がぴこぴこと上下に揺れる。ナナコがそれを見ながら言う。
「そういうふうに設定したつもりはないんだよね〜。自然発生、進化?それとも誰かがそう作り替えた?」
「はぁ」
砂エルフは長い耳を庇うように手で押さえながら、要領の得ない表情で返事をした。
「んー。でも何かが起こっているのは確かだね。妙な砂漠化、それにエルフ。神さまとしては見逃せないよ」
「アリサさんの住んでいるところはここから近いんですか?」
「私の足で一時間ほどの距離ですが」
「案内して貰っていいかな」
「今から行かれるのですか?今はちょっと時期が……」
言葉を濁しながら砂エルフは続ける。
「その。集落は今、野蛮な人間たちと争いになっていまして。巻き込まれるかもしれません危険です」
「人間?エルフと人間は争っているの?」
「はい。彼奴等は古代文明を狙う愚か者。砂に埋まった遺物を掘り出して、その力を得ようとしているのです。大挙して押し寄せて、我々の土地を穴だらけにする犬どもです」
ナナコは何か考えるような仕草をした後、口を開いた。
「ふぅん、ちょうどいいね。人が多い方が口も多いし」
そう言いながらナナコは虚空からマントを取り出した。頭をすっぽり覆う地味なデザインのものだ。それを二人に渡すと制服の上から羽織らせた。
「行ってみよう!案内して、エルフちゃん」