第2話.神さま活動!はじめよう!
「じゃあ準備はいい?」
「いけます!」
ナナコの問いに、スイカとメイが同時に頷いた。「ダイブ」の掛け声と共に、三人の身体が光に包まれる。ぱっと大きく輝いたと思うと、彼女達の精神は創造した世界の中へと取り込まれていった。
乾いた風、ほおを叩く砂埃。半分砂に埋まったビル群の中に、三人はいた。
「んーまぁこんなもんかなぁ。スイカちゃん、メイちゃん、大丈夫?」
「はい」
「あい」
三者三様、上下左右、ぐるぐると身体を回しながら周囲を確認していく。コンクリートで作られた建物がいくつかあるものの、地上階は全て砂で埋まり、真っ直ぐ立っているものすら少ない。
「うわあ……ひどいですね」
スイカはそう言いながら、スカートについた砂を手で払い落とした。メイは飛んできた砂粒を少しつまみあげると、ジッと見つめる。
「これ、普通の砂じゃないね」
「え?」
「砂粒が全部同じ形、規則正しく。普通こうはならないよ」
「人工的に誰かが作ったってこと?」
「さあ、どうだろ」
その時、ぶわっと一つ大きな風が吹いた、視界が砂嵐で覆われた。各々が顔を覆って、被害を最小限にとどめる。風が収まったと思った時、何かが太陽の光を受けて白くキラリと輝いた。
「ストップ!!」
スイカが右手をあげてそう叫ぶ。その瞬間、世界の時間が止まった。光の帯になって彼女らに向かう矢も、その形のまま空中に静止している。この状況で動けるのは管理者権限を持つ者だけだ。
「うわっスイカちゃん、ナイス!」
「あ、危なかった……間に合って良かったです」
三人は矢の斜線から外れるように移動すると射手を探す。
「んーあと、どれくらい止めていられる?」
「じゅ、10秒くらいです。あんまり長時間止めちゃうと、バグがでるかもしれないので」
「オッケー。ちょっと遠いな、あそこだ」
そう言ってナナコが指を指した方向、壊れた建物の影に、弓を持った人間が立っていた。
「解除しても大丈夫ですか?」
「良いよ、やって!」
声と同時に世界の時間が再び動き始めた。彼女らを狙って放たれた矢は、空を切って飛び去る。命中を確信していた射手は、標的が消えたことに驚きの表情をみせた。同時にいつのまにか短機関銃を構えたナナコがそちらに発砲。火花を散らして9mm弾が飛び回り、堪らず射手は遮蔽物に隠れる。
「作製」
ナナコがそう呟くと、光でできた箱が空中に現れる。おもむろにそこに手を入れて引き出すと、彼女の手には、缶ジュースのような形の金属の塊があった。同時にそれを弓の射手の隠れた遮蔽物の中へ投げつける。
ドン!!
手榴弾だ。一瞬の強い光と爆発音とともに白い煙がふきあがった。ぱらぱらと何かしらの破片が散乱する音。しばらく経って様子を見るが、もはや動くものはいなそうだ。警戒しながらもスイカとナナコはそこへ近づいて行った。
「もしもーし!誰かいますかー?」
ナナコがそう言って、瓦礫を足で退けていく。手にはしっかりと先程の短機関銃が構えられたままだ。
「あっ!ナナコ先輩、ここに」
「いた?」
スイカの視線の先には、目を回した若い女が倒れていた。金属製の胸当てをつけているが、服は焼け焦げてところどころがボロボロだ。仰向けになって気を失っている。耳は長く、まるでファンタジーの世界に出てくるエルフのようだった。
「綺麗な顔だね〜大丈夫かな?もしもーし」
ナナコが声をかけながら、倒れている女のほおをペシペシと叩く。
「ナナコ先輩、あんまり無茶しないほうが」
「んー?でもこの子から先にうってきたんだよね」
「そうですけど、死んじゃいますよ!」
「え、手榴弾いっぱつくらいじゃなんともないでしょ〜?」
マジかという表情でナナコを見るスイカを尻目に、ナナコはペシペシを続ける。
「ううーん」
小さなうめき声と共に、倒れていた女が目を開けた。女は自分のボロボロになった服を見て、そのあとナナコとスイカの顔を見た、そしてもう一度自分の服を見る。身体を隠すように小さくしながら女は叫んだ。
「っく、乱暴したんだな!野蛮人め!」
「しないよ!」
「乱暴といえば、乱暴かも」
「やっぱりか!不潔!野蛮人!これだから耳の短い人間は!」
「どっちが、いきなり弓で狙ってくる方が野蛮人じゃないか!?」
「……」
女がプイッと横を向いた。キラキラした長い金髪がふわっと宙を舞う。
「ま、まぁまぁ。ナナコ先輩も落ち着いて。ところでさっき人間って言いましたけど。あなたは人間じゃないんですか?」
スイカの言葉に、ぱっと女は向き直って自分の胸当てに手を当てた。
「私は誇り高い砂エルフ!火薬をつかう野蛮人と一緒にしないでくれ」
長い耳をぺこぺこ動かしながら女は言った。
「砂エルフ?」
「知らないのか。古代文明の墓場に住む賢者、深淵なる魔術の使徒、砂エルフとは我々のことだ!」
ナナコとスイカは顔を見合わせた。魔術、エルフ、そのように世界は創っていないはずだ。その時、予期せぬ方向から声が上がった。
「話は聞かせてもらった」
ぬっと近くの土管の中から、メイが顔だけ出してそう言った。