第14話.空飛ぶ魚号でお話し合い!
砂エルフが獣耳たちの発掘場を襲撃する事件があってから三日後。彼らを統率する長老と呼ばれるエルフ達が飛行船(空飛ぶ魚号)に集まった。砂エルフにはいくつかの集落があり、それぞれの村に長老がいるという生活スタイルだ。それら長達が護衛を一人だけ連れて、会議室に座っている。対する獣耳達は、船長を筆頭に何名かの軍人らしい服装の人間が向かい側に並んだ。ミカとアリサの姿もある。同席を許されたので、神さま部の三人も端の席に着席した。話し合いということで、全員非武装の状態ではあるが、緊迫感は無くなっていない。
「さあーどうなるかな?」
「ナナコ先輩。静かにしてください」
「んー?」
「そもそも、なんで出席しようって言ったんですか。場違いですよ、私たち」
「だって。せっかくだから何を話あうのか聞きたいじゃん。旧人類について調べるヒントもあるかもしれないし」
「そうかなぁ……」
「ほら、始まるよ」
ボソボソと話をしていると、腕を組みながら目を閉じて座っていた船長が目を開いた。
「さあ砂エルフの老人会の皆さん、集まって頂いてありがとう。今日は、この間に起こった出来事についていくつか質問させて頂きたい」
船長が続ける。
「なぜ我々の発掘現場を襲撃して、仲間に怪我を負わせ、施設に火を放つ真似をしたのか。貴様らの土地とやらには一歩も踏み入れておらんが、正当な理由があれば是非教えて欲しい」
「砂エルフも一枚岩ではなくてな、中には掟を守らんたわけ者もおるんじゃ。決してこの場に集まった者達の意思ではない。争うこともないだろう」
「ほう」
船長が椅子に深く腰をかけ直した。
「それで、その“たわけ者”はどこにいるんだ?」
「我々も探しておる」
「なるほど。探しているから、この場にはいないと。今一生懸命にやってるからお前たちは家でママとお昼寝して待ってなって?」
はっと吐き捨てるように言って続ける。
「ならば、そのたわけ者に受けた被害に関してはどう考えたら良い?怪我人18名、車両5台、重機2台。こっちはこれだけやられているのだがな」
「下手人を探しておると言っているだろう。早々に見つけ出し、法の裁きを受けさせる」
「だから?」
「待っておれ」
「端的に言うとこうか?跳ねっ返りの人間が単独でやったことだから報復はするなと。捕まえたら自分達の法で裁いてやるからって」
「争う必要はないと言っておる」
「必要は、こちらにはあるように感じるなぁ」
そう言いながら、船長は目つきを鋭くする。
「ッチ。犬が……」
お付きの若いエルフが舌打ちをした。
「ん、おい。今の人間は“たわけ者”か?それとも砂エルフの一族の人間か?」
「おまえ達は黙っておれ。わしが話をつける」
並んでいる人間のなかで最高齢らしいエルフが言った。
「どうぞ。話をつけてくれ」
「地の底は神の領域。黒き世界を覗き込めば神の怒りを呼び、哀れな羊たちは自らの行いを悔いることになるだろう。だが、神は慈悲深い。獣も今此処で立ち止まればお目こぼしもあろう」
「それで?」
「神が掟をはじめに作ったのだ、我々にこうあれと。それに従えぬ人間は、慈悲深き神の鞭によって定めの道を知ることになろう」
「なるほど、何もわからんな。誰だ、こんなお婆ちゃんを連れて来たやつは」
どんっと机を叩いて最長老は言った。
「わかったと言って、あとは口を閉じておれ」
「わかった。……時間の無駄だと思っていたが、やはり無駄だったな。クソエルフの口からたれるクソみたいな言い分を聞くのは終わりだ」
船長が立ち上がる。それに続いて、砂エルフの護衛の人間たちも立ち上がった。
「な、ナナコ先輩どうしよう、一触即発です」
「んー。どうしようっても、何もしないって決めたしね。火の粉が降りかかってこない限りは」
ドォン!!
大きな音が鳴ったと思ったら、会議室全体が大きく揺れた。いや、部屋だけではない飛行船自体が左右に揺れたのだ。チカッチカと天井の明かりが明滅する。
「なんだ!?」
会議室内に動揺が走る。船長の周りを兵隊が囲んで壁を作った。
バン!
会議室の扉が蹴破られると同時に、拳大の何かが室内に投げ込まれた。次の瞬間、それが破裂して爆音と同時に大きな閃光を発した。音響閃光手榴弾だ。同時に真っ黒な戦闘服の一団が突入してきた。顔にはそれぞれ動物を模した面を被っている。中にいる者達が対応する前に、発砲する音と何かが割れる音。
パパパッ!!ガシャン!
「動くんじゃないよ!」
仮面の人間達のうち一人が叫んだ。突入してきたのは全部で四人。目が眩んだ獣耳と砂エルフ達に視力と聴力が戻った時には大勢は決していた。会議室は出入り口が一つしかない。ここを抑えられた場合、逃げ出す事すらできない。いつのまにか砂エルフの最長老が地面に倒れている。
「長老様!貴様ァッ!!」
パァン!パァン!!
護衛のエルフが身を乗り出そうとした瞬間、仮面の人間が手にした小銃を発砲した。目と目の間に5.56mmライフル弾が直撃して、エルフが二人大きく後ろに倒れる。
「動くなって!」
「ほらその場で両手を上げろ!エルフはそっちだ!犬は反対側に集まりな!」
仮面の人間達は大声で指示をする。小銃を持ったのが三人。剣のような刃物を持っているのが一人。その剣を持った一人がヅカヅカと大きな靴音を立てて、船長の前まで歩いていく。小柄な船長と比べると、仮面の人間は頭ひとつ分は背が高い。おもむろに大きく剣を振りかぶり、そのまま振り下ろした。
「やめろ!」
隣にいたミカが船長を突き飛ばす。船長の帽子がふわりと宙に浮いて落ちた。ミカの右腕に剣が直撃して鈍い音を立てた。たまらずその場にしゃがみ込む。船長の周りの兵隊が剣を持った仮面に飛びかかろうとする。しかし、うまく身を翻してかわされると逆に剣の柄でこめかみを打たれて倒されてしまった。
「群れるなって犬っころ!」
仮面は言う。うめきながら倒れた仲間に一瞬目をやると船長は向き直り、真っ直ぐに仮面の奥の目を見据えて言った。
「貴様は何者だ、砂エルフの手の者か?それにしてはお婆ちゃんへの敬意が無いようだが」
「俺たちの正体なんて、どうでも良いじゃん?」




