お前の話を聞かせろよ
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好きなものはハンバーガー。本人曰く、それなりの頻度でファーストフード店に行くらしい。
無趣味。じゃ暇な時に何してんだって聞いたら筋トレか読書。機械音痴でゲームとかはしない。コントローラーの操作がチマチマしているように感じてしゃらくさいんだって。好きな色は黒で好きな動物は迷いながら熊。嫌いな動物は即答で狼。嫌いな食べ物はミント、ハッカとかのスースーするやつ。昼型だけど低血圧で寝起きは悪い。
独り暮らしで“プラス・ボックス”に来たのは3年前。家族に関してはなんの思い入れもないように振る舞っているが、父親に関しては嘘だ。薄暗い感情を抱いているっぽいけれど、あたしでは詳細までわからない。なんで風竜を倒せる程強いのかと思ったら、幼い頃から父親に鍛えられたらしい。これも明確には語らなかった。けど、ちょっとシンパシーを感じる過去だった。
妹に対しても重い感情があるらしく、父親に対するものよりもわかり易い。母親に関してはマジで興味ないっぽい。ひょっとしたら会ったことすら無いのかも。これもあたしと同じだな。
あたしみたいに裏表選ばず遊び歩いているわけでも、“竜騎士”みたいに荒事を生業としているわけでも、ライみたいに悪党と敵対しているわけでも、狙撃手ちゃんみたいに悪党側に居るわけでもない。
自己評価は低め。根強いコンプレックスがあるらしい。この街に住んでいるだけあって順法意識が高いって程でもないようだが、かといって特別倫理観が低い人格破綻者って感じでもない。あたしからの質問を適当に答えない。一度ちゃんと考えてくれるし、答えたくない質問の時はわかり易いくせに無視をしない。なんかこう――普通だ。それも “箱内”の普通ではなく、“箱外”の普通である。まともと言い換えても良い。どうしてこんなところに居るのやら。少なくとも無辜の民を売り捌く様な悪党には見えなかった。
ってのが1時間ほど顔を突き合わせて話した結果、あたしのオーガに対する見解である。個人的な感想としては好ましい。
「オーガは?あたしのことどう思った?」
「……自分の愉悦がなにより優先の愉快犯」
「んふっ」
否めんな。
立てた片膝に腕を引っ掛けたオーガが身を乗り出す。凄むようにあたしを睨んだ。
「これが最後の質問なんだが、面白そうって理由でわざわざ闇オークションに乗り込んだってことか」
「う~ん。そうかもね」
オーガの表情が険しいことは変わらないけれど、含まれる感情が変わった。この部屋に来た時は厄介と面倒。あとは感心が混ざっていた。けれど今は期待が外れた落胆を感じる。
「じゃああたしからも最後のクエスチョン・今更ながらなんであたしに話しかけたの?風竜の上司だから?えっ、アイツ強くて印象に残ったとかそういう感じ!?」
「いやそういうわけじゃねぇんだが……」
「えぇ……。あってよ。嬉しいから」
「テメェなぁ」
オーガがスーツの内ポケットからソフトケースを取り出した。1本抜き出したそれを唇の端にひっかけるように咥え、100円ライターのレバーを押し込む。1,2,3度目。気持ちの良い音と共に漸く点火した火を煙草の先に近づけた。深々と肺に紫煙をを吸い込む。
「いやもう、良いわ。別に。満足した」
大して美味くなさそうにオーガが煙を吐き出した。流れて来た煙を掌でぱたぱたと散らす。首を傾げ、下からオーガを覗き込んだ。
「ふぅん。――あたしがヒーローにでも見えてた?」
口に向かって煙草を運んでいた腕が止まる。ややあって再び動き出した腕は時間を稼ぐような緩慢さだ。ゆっくり咥えた煙草を一気に根本まで灰にした。
吸い終わった煙草を地面に捨てて、足を上げた。
「まぁ……聖人だとは思ってたかもな」
「ブッ、アッハハッ!なんで!?無茶して死にそうだから!?」
「無茶かどうかは重要じゃねぇし、死ぬかどうかも重要じゃねぇだろ」
「そう?殉教者って言葉があるくらいだから、聖人にとって教えに従って死ぬことは重要なんじゃないの?知らんけど」
「……相互理解のついでで聞くが、因みにテメェ。宗教は?」
「無神論者だよ。だってほら、もしも神様が居たら殺したくなっちゃうじゃん」
向けた笑顔がどう見えたのか。オーガが三白眼を見開いた。ゆらりと不安定に瞳孔が揺らぐ。燻された喉が渇いたのか、けほり、と小さく空咳した。
「煙草、マズそうだね」
「……オレは戻る。テメェも大人しくしてろよ」
体に悪そうな臭いを纏わせたオーガがゆっくりと腰を上げる。歩き出したその背中に向かって声を張る。
「あたしはヒーローでもないし聖人でもない。なれないし、なりたいとも思わない。色々と面倒臭そうだしね。でも、だからこそ、期待しててよ」
視線は向けられないが、オーガがあたしに注意を向けていることはわかる。興味ないふりして耳だけ向けている野生動物みたいだ。猛犬みたいな背中に声を張った。
「きっと面白いことになる!」
予想していた注意は無く、代わりに一度だけ、操り人形の様な意志の無さで腕が上げられた。




