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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
ショーケース・ショータイム
86/98

鬼が目覚める丑三つ時

▽▽▽▽

 俺の上に寝っ転がっていた閃架が体を起こす。腹の上に跨った。故意なのか動揺しているが故なのかわからないが、ネオンのように碧く光る鬼眼が睥睨してくる。暗くて閃架の顔を見ることは出来ないけれど、鬼眼なら俺の呼吸から血液の流動まで観測できるだろう。

 歪んだラピスラズリがぐらりと上を向いた。閃架が天を仰ぎ、俺の言ったこと咀嚼する。

「そう来るか……」

 呆れた様な溜息混じりの声にククッ、と喉の奥を鳴らした。こて、と閃架に向かって小首を傾げる。俺みたいな図体の奴がやることではないが、閃架が無意識に行うおねだりの動き。

 ややあって、溜息を吐いた閃架が勢いよく倒れ込んできた。顔面同士がぶつかる位置に慌てて半身を起こして避ける。空いたスペースに閃架が寝っ転がった。マットレスがぼふんと揺れる。

 まだ新品と言っても良いマットレスに跳ね返された体が跳ねる。ワンバウンドの後、閃架の身体がベッドに沈み込んだ。

 閃架が深く息を吸い込む。衝撃に伏せられていた瞼がちらりと上がった。何かを言いたそうに唇がもごもごと動いている。

「そんなに……あたしに尽くさなくって良いんだよ……」

「ふっ」

 何を言われるのかと思ったら。

 閃架の言葉に止める間もなく吹き出してしまう。聞いた瞬間、閃架が勢いよくベッドを叩き、跳ね起きた。反対に俺がベッドに寝っ転がる。ケラケラ笑いながら刻印の輝きを頼りに手を伸ばした。

 頬に手を添え、閃架の眼元を親指で擦る。マットレスの傍らをぽんぽんと叩き、閃架に隣に来るよう促した。ベッドに頭突きするような勢いで閃架が倒れ込んでくる。隣に来たことで閃架のぶすくれた顔がぼんやりと見えるようになった。

「俺のことを買ってくれてんのは嬉しいけどさ。実は俺、碌でなしでエゴイストなんだ」

「いや、存じてますけど?あたしの事どんだけ馬鹿だと思ってんだ」

「お、そうか?そりゃ良かった。そんならわかってると思うけどさ、俺は俺がそうしたいからしてんだよ。俺は俺にしか尽くしてない」

「――大人しく甘えてろって?」

 うつ伏せでぱたぱたと足を動かす閃架の眉間には皺が寄っている。不満です、とありありと訴えてくる面。仰向けに寝たまま腕を動かし、その皺を人差し指で伸ばした。

「部下に“守られてやる”のも“我儘言ってやる”ってのもリーダーの甲斐性、って奴だと思わないか?」

「……都合の良い話だな」

「俺にか?」

「あたしにだよ」

 わかって言ってんだろーが、と責める視線を雑に受け流す。抗議の為にイ゛ッと歯を剥いた閃架の後頭部を引き寄せ、額に唇を落とした。

「ギャッ!」

「ひひっ」

 尻尾を踏まれた猫みたいな悲鳴の後、閃架がビャッと退いた。見張った瞳はいつの間にか星屑の様な黄鉄鉱の輝きが落ち着き、アウインへと変わっている。へらへらと軽薄な笑みを向けた。

「ってことで、俺が閃架を嫌いじゃない、ってわかったか?」

「えぇ~」

 両掌で額を抑える閃架を横目に寝返りを打つ。横の落ち着かない気配を感じながら電気の消えた天井を見上げる。

「今大体何時?」

「2時36分11秒」

「ありがと」

 聞いといてなんだが、秒単位でさらっと即答されると引いちゃうな……。何視て時間を測ってんだ。

 何はともあれ夜も更けた。もう寝かせちまおう。元々今日は話し合いはしないつもりだったのだ。これ以上なんかあるにしても明日だな。

 何時ぞやしたように閃架の目元を掌で覆う。瞼を下ろしたのか、睫毛が掌をくすぐった。眼球の水分がじんわりと掌に沁みる。

 ぽんぽん、と閃架のお腹を緩く叩く。んむ。唇の端を動かした閃架がとろとろと溶けていく。

 そろそろ眠るかな、と思った瞬間、閃架が体を跳ね起こした。首を左右に激しく振り、眠気を飛ばすのをぽかんと見上げる。

「おぉ……、どうしたどうした」

「ちょ……、と待ってね。この件片してスッキリしてから寝たいの」

「あん?良いけど、なんか話すことあったっけ」

 閃架が手首の内側で蟀谷をトントンと叩く。先ほどよりも覚めた目で俺を見た。

「取り合えず、今更ながら竜騎のおねだりは叶えるとして、だ」

「おっ、やったね」

「あたしもおねだりしてあげようかな。竜騎の為に」

「――やったね」

 傲岸不遜な物言いを噛み締める。肘を付いてゆっくりと体を起こした俺に、閃架が顔を顰めるのと似た動きで目を眇めた。きっと俺の瞳は興奮でギラギラと光っていることだろう。  

 呆れた様に許容する様に閃架が息を吐く。次いで彼女の口角が、ゆるりと強気に上がった。ゆっくりと開いた口元から「どうせなら、さぁ」と蛇が足元でしゅるしゅるとうねるような声が出る。

 蛇に良い思い出は無いんだけどなぁ。嫌らしく唇を舐めるスプリットタンを思い浮かべる。好戦的な顔に苦笑を混ぜながら、閃架の次の言葉を待つ。

 暗闇の中、ゆらりとラピスラズリが揺らめく。そこだけ満点の星空が浮いているようだった。

「もっと派手に暴れようぜ」

 上段から振り被った閃架の言葉にぱちりと目を瞬かせる。返事の代わりに挑発的に口角を上げた。


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