表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
ショーケース・ショータイム
82/98

突入者と突入者

▽▽▽▽

「ひゃー、やばっ」

 後ろから聞こえる感嘆と呆れが混じった声に振り返る。

単純シンプルな身体能力のゴリ押しで存在異義レゾンデートル相手に勝ちやがった……」

「元々暴走する異在者イグジストを無能力で制圧していたからな」

「相手、存在異義レゾンデートルで加速してたよね?良く早打ちで勝てるな……」

 あのチンピラ、明確に不自然な加速をしていたからなぁ。最後の爪先蹴りもおかしな動きで跳ね上がっていた。

 ただ、チンピラの動きは直線的だ。

 腕が払われた瞬間に動き出し、蹴り難い位置に移動する。

 チンピラの蹴りは途中で軌道を変えることが出来ない。蹴り出す前に足の位置を調整する必要があった。その遅れの隙に動き出し、爪先が届く前に思いっきりぶん殴る。

 爪先が掠めた顎先を撫でる。火傷したようにヒリ付く痛み。クリーンヒットしてたら危なかったかも。とはいえ結果は完勝だ。

「終わったぞ」

 ガチャガチャとインテリヤクザが檻を揺らす音だけが響く中、悠々と振り返った。

「お疲れ。――態と檻出させたよね?」

「まぁな」

 インテリヤクザとチンピラ、どっちの存在異義レゾンデートルかわからなかったからな。檻がどうやって現れるのかも知りたかった。その為に態とゆっくり檻に向かって大刀を構えた。

 ぶっちゃけ、俺が大刀を一振りしただけじゃこの格子をぶった切れない。普通の鉄よりも頑丈だし。 最初の一撃は地面を勢いよく隆起させ(創り変え)、自分の体を押し出すことでスピードを上げて威力を足した。

「それで?どうすんだこいつ等」

「ん……。取り敢えず回収しよっか。じっくり視ればわかる情報もあるでしょ。なんもなかったらライ達に身柄を渡せば良い」

「あいよぉ」

 チンピラに向かって無造作に手を伸ばす。その腕先を何となく見つめていた閃架の視線がふとブレた。俺の頭上を見つめ、眼を眇める。

 ”空気”が重くなったと錯覚する。伝わる”眼力”に頭上に手を翳した。

「”竜のクレイモア”ッ!」

 焦りで引き吊った声と共に空気が実像を得る。透明な壁が固まったのと同時に上から拳が叩きつけられた。

 背を反らす。

 ”竜のクレイモア”が耐えたのは一瞬。硝子よりも澄んだ音を立てて鱗が割れた。眼前、今頭があったばかりの場所に拳が殴っていく。

「ちょっ、なっ!?」

 息を飲んで咄嗟に跳び退る。それよりも、突入者が踏み込む方が速かった。指貫のグローブに包まれた右腕が腹に減り込む。そのまま後ろにぶっ飛んだ。

「グッ、ェア」

「は、はぁ!?竜騎っ!?」

 気道と内臓が潰され、息と呻き語が絞り出される。

 膜を張ったように遠くなった聴覚の中、悲鳴と驚愕の混ざった閃架の声がした。

 俺は筋骨隆々って程ではないが、背は高くガタイも良い。対する突入者は俺以上の長身だが痩身だった。”ひょろりとした”という表現がよく似合う。なのに5m近く殴り飛ばされた。

 身体が地面にバウンドする。ゴロゴロと転がる中無理矢理体を起こした。突っ張っても止まり切れないまま四肢がガリガリと地面を削る。――つまりは地面に触れている。

「――我が欲へ(アルケミア)

 俺の足元の地面が隆起し、滑る足を固定する。深く吸った息を詰め、止まった腕で再度地面に力を流し込んだ。

 俺を殴り飛ばした相手の足元が勢いよく隆起する。小柄な人間くらいの質量が突入者の腹をぶん殴った。

「ガッ――」

 突入者の両足が宙に浮く。

 俺自身の口元を手の甲で拭い、突入者の体を追いかけて片手を翳した。地面に触れる腕に集中しながらもう片方の手で宙を握る。連動するように開いた地面が突入者を握り込もうと動き出す。

「チッ」

 空気を切り裂く鋭い舌打ちと共に、突入者が身を捩る。

 包み込まれる前に隆起した地面を蹴り、近くのビルの2階に。勢いを殺さず再度跳躍。隣に並ぶビルの壁を蹴り、上へ。

 腕を伸ばし、非常階段の柵を掴む。逆の手にはぐったりと力の抜けたままのチンピラの身体を抱え、インテリヤクザが入った檻の格子を握っている。そのまま成人男性3人分の体重を腕力だけで引き上げた。

 そうして屋上のビルに降り立った突入者が振り返り、俺達を見下ろす。三白眼の視線が刺し貫いた。

 フッ、と突入者が踵を返す。項の後ろで括った、短い尻尾みたいな髪が合わせて揺れた。ビルの屋上を走り、遠ざかっていく。攻撃的なプレッシャーが消えて数秒、はぁ、と大きく息を吐いた。

「悪い、逃がした」

「や、良いよ。……お腹大丈夫?」

「大丈夫」

 ゆっくりと体を起こし、汚れた両掌を叩く。擦れて赤くなっているし所々血も滲んでいる。眉をハの字にしながら近づいて来た閃架がぱたぱたと服についた汚れを叩いた。

「ミーティクスの整理券ってもう間に合わないよね……。ごめんね……」

「あー、まぁ別に良いって。折角の機会だから、ってだけで元々そこまで興味が有るわけじゃなかったし」

 寧ろ頼ってくれたことの方が何倍も嬉しい。

 刻印が刻まれた右眼の眼元を撫でる。閃架がゆるりと目を細めた。

 ちらりと左目に視線を向ける。今は碧いこの義眼が一度も紅く染まることがないなんて、最高だな。限定モデルのバイクをいくら手に入れてもこの高揚は得られない。

 いきなり嵐に巻き込まれたような疲労感に体が気だるい。けれどもこのまま帰る気も起きないんだよなぁ。

「あ――、」と声を漏らしながら逡巡し、親指で道の奥を指した。

「……取り敢えず、飯でも食いに行く?――ちょっとまだ早いかな」

「いや……、良いね。そうしよっか」

 俺の閃架、2人同時に溜息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ