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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
ショーケース・ショータイム
81/99

突入者

▽▽▽▽

 買って早々壊れたバイクの代わり、俺が以前から気になっていたこの街限定バイクメーカーの”ミーティクス”の最新モデルの待機列に並んでいる間、「暇だから」と離れた閃架からの助けてコールに飛んで来たらこれだ。

 見るからに反社なんだが。やれやれ、なんだってんだ。

 まったく、俺の持ち主(マスター)はモテモテだ。妬いちゃうな。


「っていうか何だこいつ等。鬼眼目的か?」

 体を屈め、閃架の耳元に口を寄せる。潜めた声がくすぐったかったのか、閃架が肩を竦めた。吐息から逃げるように身を捩り、とん、と俺の肩に寄り掛かる。体重を預けられるまま、重心を寄せた。

「そぉれを訊き出したいんだよねぇ」

「成程な……」

「オイテメェ!大人しく攫われろやゴラァ!テメェが怪我すっと商品価値が下がるんだよ!」

 顔を寄せ合ってのこそこそ話にチンピラの怒鳴り声が割り込んだ。それを更に掻き消す勢いのインテリヤクザの叱責をバックに閃架と顔を見合わせる。

 鬼眼狙いの奴は絶対に眼球を潰さない様にはするけれど、他の怪我に対する優先順位は低い。商品価値って言い方にも違和感がある。

 ふむ。と閃架が顎に手を当てた。

「これ、R-18の方かな」

 真面目な顔をして、明らかにふざけてんな。閃架からしたら下ネタ寄りの冗談のつもりなんだろうが、俺からしたら冗談じゃない。溜息を吐いてガシガシと頭を掻いた。

「なんにしろ18禁ではあるだろうよ。最後にGが付くかの違いだけで」

「あたし18行ってないんすけど……。まぁ今更か」

「いっ!今更って……、あぁ……うん。だろうな……」

 殆ど無意識に呟かれた閃架の言葉に混乱して顔が引き攣った。焦ったのは一瞬で、直ぐに閃架の言っている意味がわかって冷静になる。それでもどう声を掛けるか迷って目が泳ぐ。

 閃架が親元に居た時のR18G実体験のことを言っているんだろう。閃架が深く話さないので、俺もこの話題から距離を取っていた。直前に下品な軽口も叩いていたせいで、変な過剰反応をしてしまった。閃架の顔が見れない。

 口元を手で覆う。上から下に撫で下ろす間に表情を作り、真正面から閃架の目を見た。浅く息を吸い込んだ。

「Gが付くにしろ付かないにしろ、だ。どっちにしろ叶わないよ。その為に俺が来た」

 アウイナイトがパチリと瞬く。瞳の中に星屑が散った。

 息を呑んだ閃架がパッ、と飛びついた。俺の腕に組み付きぎゅーぎゅーと抱きしめる。

「んふ。良いね。アガる(浪漫チックな)返しだ。下手な慰めなんかよりもよっぽどね!」

「……そりゃどーも」

 安心と疲労感から息を吐く。擦り付けてくる閃架の頭を押さえ、宥めながらヤクザ共に視線を戻した。

「っていうか鬼眼目的じゃないなら逃げても良いんだよな。どうする?」

「あー、ね」

 ひょいと顎をしゃくって道を塞ぐ檻を指した。このまま閃架を抱え。回れ右して走りゃ良い。地形操作(障害物作成)なら俺の特技だ。

「――いや、倒しちゃって」

「ん」

 トーンの下がった声に視線を向ける。むすっとした閃架の頭を一撫で。俺の掌に擦り寄った閃架が俺の腕に組み付いた両腕を解く。俺の後ろに数歩下がった。

「人身売買の商品にされそうになったなんてムカつく。半年くらいベットの上から起き上がれないようにしちゃって」

「オーケー」

 閃架を隠すように前に出て、コキリ、と首を鳴らす。ぐるりと両腕を回して筋肉を解した。

「手伝う?」

「いや、大丈夫」

 振り返って右眼を指さしながら「バレると面倒だ」と口パクする。そのままべ、と舌を出した。

 にや、と口角を上げる閃架に背を向けてひらりと腕を振る。のっそりと檻の前まで歩み寄った。

 手を伸ばせば格子に届く距離。大刀を持った腕を引き、構える。格子に斬り込む寸前、チンピラの口の軽さにキレてたインテリヤクザが素早く手を構えた。左右の親指と人差し指で作られた四角い枠。カメラを覗き込むような仕草で竜騎にピントを合わせる。

「“禁錮ロック”ッ!」

「うぉっ」

「うわっ、エイリアン!」

 フレームから飛び出た黒色の物体が身体に組み付いた。

 後ろから閃架の驚いた声が聞こえる。今の俺はホラー映画でよく見る、モンスターに飛びつかれて捕食される被害者に見えることだろう。映画の登場キャラならこのまま死ぬところだれど、生憎俺はこんなところで殺される端役じゃない。

 僅かに体勢を崩したものの、ぐっと腹筋に力を入れる。そのまま体を起こした。腕を持ち上げようとして、四肢の間に差し込まれた黒い格子に阻まれる。

 檻のせいで鈍重なロボットの様なシルエットになりながら格子を掴もうとして、バチリと弾かれた。格子の間にバリアーが張っているらしい。指が通せない。壊すことはできたのに。

 眉間に皺を寄せて自分の身体を見下ろしていた顔を上げた。

 インテリヤクザと目を合わせながらにこっと快活に笑う。鉄格子の表面に掌を当てた。

我が欲へ(アルケミア)

「なっ」

 四肢に絡みついていた鉄棒が海流に揺らめくような動きで身体から離れていく。

 インテリヤクザが声を上げ、檻の上から飛び降りた。

 ――おぉ、判断速いな。

 先程の拘束といい、危機感を感じた瞬間のアクションがスムーズだ。素晴らしいね。ただちょっと相手が悪かったけど。

 ぴと、今度は指先で軽く鉄格子を突いた。外皮が内側に裏返るような動きで檻がインテリヤクザに牙を剥く。そのままばくりと、スーツ姿を飲み込んだ。さっきのフレームポーズを取れないように拘束する。

飛躍ホップッ!」

 檻が創り変えられたことによって生じた隙間からチンピラが飛び込んで来る。横っ面目掛けた蹴りを片腕で受け止めた。弾いた足を追いかけ、膝から絡め取る。

「タッ、震脚タップ!」

「いっでっ!」

 バチンッと肉と肉がぶつかる音と共に、腕が弾かれる。完全に固定した筈の腕からの予想外の反撃に眉間に皺が寄る。その隙を狙って、チンピラが顎に向かって爪先を跳ね上げ――ドゴッと鈍い音がした。

 ゆっくりとチンピラの身体が傾く。

 相手の蹴りが届くよりも速く、1歩。強く踏み込んでのストレート。仰向けに倒れるチンピラを見下ろしながら、殴り終わった拳を収めた。



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