美術館に行こう(再)
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「美術館に行きたい」
「えっ。何また盗みの仕事ってこと?」
「ちっがう!あと盗みの仕事って言うな。ウチは情報屋だ」
「そう思うんならあんま変な仕事受けんなよ……」
言いながら畳んでいた洗濯物を放り出し、閃架に向き直る。身を乗り出している閃架の前に畳み終えた洗濯物をぽすんと置いた。
「ありがと」
「いえいえ。それよか仕事は?終わったのか?」
ここ数日パソコンに向かってぶつぶつ呟き、かと思えばギラギラした目でノートに向かって猛烈に何かを書きつけ、突如キーボードをバチバチ叩き出す、と忙しそうだったのに。
端から見ればマッドサイエンティストのお手本だが、奇声は上げてないので軽い方だ。好みの難問だったのだろう。因みに今回の依頼主は機械音声君(仮名)改めライ(仮名)。流石だ。
無言で向けられたピースサインに「おつかれ」と小さく頷く。
「また他に頼めよ情報屋に依頼すんじゃねー、みたいな仕事かと思ってたんだけど」
「や、ライ君からの依頼は“盗品美術館”についての後処理だからまた別」
「あぁ……あれ、摘発されたんだって?」
「全て丸っと、とまではいかなかったみたいだけどね。あたしから見たら合格点だよ。ライは歯噛みしてたけど。にしても……いやはや、まさか内部の強盗犯とカチ会うなんてな……」
「ニュースになってたな」
ゴールデンオウルが何故ゼロ敷地に侵入出来たのか。なんてことはない。美術館のスタッフに手引きしていた奴がいたらしい。悪党共の喰い合いだ。
あくまでニュースからの知識だが、増えた収蔵品管理の為に新しく雇った奴が駄目だったとか。結構デカい組織の犯行だが、美術館のガサ入れから仕掛けた詐欺グループ側も暴かれて一大捕り物になったとか。今朝のトップニュースになっていた。
「っていうか”後処理”ってもしかしてそれか!?」
再度無言のまま向けられたピースサインにヒクリと口角が引き攣った。体の力が抜け、背を丸める。
「言ってよ……」
「事務仕事オンリーだからな~。その分家事丸投げしたし」
「あぁ。あんた集中すると生活が破綻するよな。今までどうやって生きてたんだ?」
只管データに向き合っていた姿を思い出す。閃架の首が回り、露骨に視線が逸らされた。俺が世話を焼いても不眠不休で動けばボロボロになったんだ。独り暮らしでは最低限度の生活さえも下回っていたんだろうな……。
「もっと休みなよ……」
「楽しくて……」
そんならもう、俺に言うことはないが。あんま不健康だと早死にす――いや、この愉快犯は健康問題が出るよりも速く、無茶して死ぬか。俺よりは後の予定だが。
「ライはその騒ぎのドサクサで彼岸花事件の犯人を自分の部下に捻じ込もうとしてるみたいだけど」
「そりゃ……図太いな」
「あたしを利用していることからわかる通り、強かなんだよ」
ゴタゴタのせいで、情報屋”閃鬼”が大っぴらにならず、ありがたいのは俺等もだが。隠す程ではないとはいえ、閃架が名を売りたいわけではないのなら俺としては目立たず居たい。名が売れ過ぎても面倒だ。
「あっちはまだまだ忙しいんだけどね。雇われのあたし達には関係が無いから。というわけで休日のお出かけしたいな」
そう言って差し出されたスマホの画面にはこの箱内唯一の公立美術館のホームページが写っていた。
へー、デカいな。世界異在機関が創ったんだ。国立ならぬ世界立。嫌いじゃないな。
スマホから視線を上げる。ニコニコと笑う碧眼の下、ドス黒い隈に視線を止めた。
「取り敢えず寝な」
そんで飯食ってからだな。
と、言うのが昨日の昼頃の話である。そして遅めの朝ご飯を食べて、美術館に向かって家を出たのが11時頃。現在はビルの屋上を追いかけ回されている。この街に来て3カ月未満で既に3回目。中々驚異の記録である。未だ美術館には行けていない。




