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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
フレイムハート
75/98

混線整理済み

機械音声をカタカナ表記に変更しました(9/20)

▽▽▽▽

「あ~あ」

 笑いの混じった声を上げながら床の穴ギリギリにしゃがみ込む。縁から僅かにはみ出た爪先が小石を蹴って、コロコロと穴に転がった。膝に頬杖を突きながら穴の中を覗き込む。

 その先は奈落の底。なんてことはなく、5m程下の階層にガラドがぶっ倒れていた。

 一緒に落ちる破片に巻き込まれたのか、頭から落ちたのか。完全に伸びている。巨大な掌がピクピクと動いているし生きてはいるっぽい。頑丈だな。無防備に落ちたのに。

「普通あの程度の衝撃じゃ崩れたりしないしなぁ」

 さて、どうすっかな。飛び降りてとどめを刺すこともできる。あの手のタイプは執着心が強い。ここで殺しといた方が後々面倒はないが……。

 前後に身体を揺らす。ふら、ふら、ふら。最後の一揺れで立ち上がった。崩落によって上がった砂煙を払う。

 ぐっ、と大きく伸びをして踵を返す。丁度脳内で電子音が鳴った。

「おー、ナイスタイミング。丁度終わったとこ」

《知ッテイル。見テイタ》

「だろうな」

 倉庫の隅にあった監視カメラに向かってウインク。

《………》

「……反応してよ」

 沈黙を伴って流れる空気がいつも以上に冷たい。背筋がブルリと震え、鳥肌が立った。ちょっとふざけただけなのに。ヒクリと口角を引き攣らせる。

《閃鬼ガ迎エヲ、ト》

「あー……、了解。場所はさっきのとこだろ?あとせめてツッコんでくれない?」

《嫌ダ》

 取り付く島もねぇなぁ。ハハッ、と空笑いを零す。

 再度数秒の沈黙。

《殺サナイノカ?》

「必須じゃないだろ。殺りたきゃ自分でどーぞ」

 好奇心と刹那主義と破滅嗜好が致命的なマリアージュをしている閃鬼だが、無為な殺しはしない主義だ。他人の命を軽々背負いたくないらしい。エゴイズム満載な理由だな。良い事だ。知らない他人の為よりもよっぽど良い。少なくとも俺のモチベーション的には。

「良い殺し屋とか知らないの?情報通なんだろ?」

《君ガ殺サナイコトガ意外ナダケデ、僕ガ殺シタイ訳ジャナイ。警察ト救急ハコチラデ呼ンデオク》

「警察だけじゃなくて救急も呼ぶんだ」

《呼バズトモ警察ヲ呼ベバ来ル》

「ふぅん。まぁな」

《ナンダ》

 いや、別に。人道的なんだな、と思っただけ。セランが特別なんだと思ったが、人の命を惜しむタイプか。このクソ治安な街では珍しい。観光客ならともかく、”住人”なら人を殺せるくらいでないと、先にこちらがられかねないのに。

 俺の見定める態度に気が付いたのか、咎めるようなライの態度をひらりと手を振って躱した。

《何ハトモアレ、ダ。色々ト礼ヲ言ウ》

「こちらこそ~。閃鬼の我儘聞いてくれてありがとな。アイツも楽しかったと思うぜ」

 詳しく聞いていないが作戦の骨子を立てたのは閃鬼だろう。自分の身を危険に晒してでも浪漫チックな(アガる)シチュエーションを創る。あの刹那主義の愉快犯め。

「またなんかあったら依頼してよ。受けるかどうかは閃鬼が決めるが、あんたからなら話は聞くだろ。あんたの依頼は閃鬼好み(浪漫チック)っぽいしな」

 敵対した機械音声君は一筋縄ではいかなそうだ。そんな人がわざわざ頼ってくるということは、それなり以上の厄介ごとだろう。あの難問ジャンキーには丁度いい。

「ってか今回の打ち上げセランと一緒に来る?お疲れ様会兼懇親会ってことで。一緒にシュラスコ食おうぜ」

《行カナイ。セランハ自分デ誘エ》

 成程?

 セランを誘うのは良いんだ。そして既にセランを”自分の側”に置いているんだ。

「……仕事外での関係を許可してくれるなんて、随分と信頼してくれてんなぁ。何、あんたと閃鬼そんなに仲良いの。それとも頭の中でも見た?」

《ソレガ出来レバ僕トシテモ楽ナンダガ。生憎僕ハ“繋ガルダケ”ノ存在ダ。プログラムナラトモカク、人間相手ニハソコマデノ自由度ハナイ。タダ閃鬼トハソレナリノ付キ合イダカラ》

「あ、ジェラっちゃう」

 うっ、と胸に手を当てて呻いて見せる。機械音声君が電波の向こうで呆れている気がした。

 閃鬼は他人に対して甘い。と、いうか絆され易いと言った方が正しいか。俺にあっさり身を預けた様に、セランに対しても既に大分好意を抱いている。

《ソモソモ閃鬼ハプライベート同士ノ時ニ手ヲ出スヨウナ野暮ハシナイ》

「……ジェラった」

 だってそんなの、面白く(浪漫チックじゃ)ないもんな。

「オーケー認めよう。あんたが正しい。閃鬼に対してはな。俺は?警戒しなくていいの?」

《必要無イ。僕ハ君ヲ信用シテイナイガ、君ハ閃鬼ノコトハ損ネナイ》

 のんびりと進めていた足が固まったように止まる。落ち気味だった瞼を見開き、一点を凝視した。

「きょ、」

《ン》

「狂華みたいなことを言う……」

《誰ダ》

 絞り出すように呟いて口元を掌で覆う。そのまま顔の下半分を撫でた

 多分閃鬼だって――閃架だってまだちゃんと理解してないんだろうな、ってことを今日会ったばかりの第三者に言い当てられてしまった。俺目線からすれば、まともに会ってすらいないのに。

 そういや狂華に言い当てられたのも遭って直ぐだった。あの時はアレが狂鬼(存在)が故に、他人の狂気に敏感なのかと思っていたが。えっ、もしかして俺ってわかりやすい?

 だとしたらマズイ。俺の執着がバレたら閃架に引かれてしまう。隣に居られなくなる。

「えぇ……、っと、因みになんで?勘?」

 頭頂部が痺れる。きっと今、俺の顔は真っ青だ。喉に絡みつかせ、つっかえながら言葉を紡ぐ。

《セランノ銃撃ヲ避ケル時、鬼眼ノ視線ニ従ッテ壁ヲ創ッテイタダロウ》

「あぁ、うん」

《普通、無防備ニ人ノ存在異義レゾンデートルニ自分ノ存在異義レゾンデートルヲ依存サセナイ》

「……ス――――ッ」

 返す言葉が無くて、返事の代わりに歯の隙間から思いっきり酸素を吸いこんだ。次いで片腕で目元を覆う。存在異義レゾンデートルは自分の存在そのもの、という閃架の言葉が頭の中でぐるぐる回る。蚊の鳴くような声で「成程ぉ」と呟いた。

「ご、合理的な指示だったら従わない?」

《否定ハシナイ。ガ、君ハスムーズ過ギル。自身ノ存在殆ドヲ預ケテイナケレバ、アレ程上手ク嚙ミ合ワナイ》

 往生際悪く言ってみたものの、一瞬で切って捨てられてしまった。思わず笑いが込み上げてしまう。

 まぁ……第三者から仲良いね、って言われるのは嫌いじゃない。光栄だ。それはそれとして、なんとか狂華を捕まえられないかな。閃架に俺の執着(狂気)がバレて無いか、確認しなきゃ。機械音声君が気付いたなら、同じく異在者イグジストを見慣れている閃鬼も気付いているかもしれない。

 にしても俺と閃架の関係性について分析されてしまっているの、ちょっとハズいな……。俺にもこんな思春期らしさがあったのかと驚く。あと仕事する上で利用されないか、という懸念が少し。そんときゃそん時で対処するしかないが。

 ガリガリと後頭部を掻く。はぁ、と溜息を吐いた。

「な、やっぱり機械音声君っての呼び辛いんだけど」

《イヤ知ラナイ。君達ガ勝手ニ付ケタ呼ビ名ダロウ。僕ニ言ウナ》

「あんたとは長い付き合いになりそうだからさぁ。なんか無い?コードネームとか、呼んで欲しい名前とか」

《無イ。今マデ通リ勝手ニ呼ベ》

「えぇ……。んじゃ“ライ”な」

 テレパシーのせいで必要なかったスマホを取り出し、虚空に向かって掲げる。真っ暗だったディスプレイが一拍置いて勝手に点いた。

 画面に映った稲妻マークのアイコンが抗議のようにビカビカと光る。

《“稲妻(Lightnin)”ノ“ライ”カ》

「当たりぃ」

《安直ダナ》

「イカすだろ?」

 おどけた言葉に否定は返ってこない。肯定、ということで良いんだろう。良いということにしちゃうけど。

「閃鬼にも紹介しとくな」

《好キニシロ》

 はぁい。勿論。

 言質は取ったぜ好きにする。


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