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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
フレイムハート
73/98

解け掛け

□□□□

 寝る。おやすみ。あ、風竜に伝言よろしく。

 

 そう宣言するなり、画面の中の閃鬼がぱたんと倒れた。

 周りの敵は全て倒したとはいえ、よくこの状況で眠れるものだと溜息を吐く。先ほどまで閃鬼を俯瞰していた無数の視界(ナザール・ボンジュウ)は閉じ、閃鬼の映像は確認できなくなったとはいえ、位置は把握している。ゴールデンオウルの連中のように、僕達に撃たれると思わないのだろうか。

 宙に浮かぶウインドウを消す。同時にセランの脳への回線を閉じた。違和感が残るのか左右に頭を振ったセランが振り返る。

「寝てしまったんですか?――閃鬼さん」

「そのようだ」

 仔猫が顔を洗うような仕草で目元を擦るセランに先ほどまでの熱気は感じない。この陽だまりの様な少女が爆竹の様に淀みなく引き金を引き、スターマインの様に一方的な銃撃を浴びせていたとは。

「人は見かけによらないものだな……」

「い、今更ですか……?知っているはずでは……?」

「そうだな」

 怪訝そうに首を捻るセランに口元を緩める。腰かけて居た薄汚れた室外機の上から立ち上がった。

「君のおかげで僕も閃鬼も助かった。ありがとう」

「いえ!お役に立ててよかったです」

 焦ったようにパタパタと腕を動かしながらセランが頬を紅く染める。今までの不健康に見える青白さとは違う、健康的な血色。思わずまじまじと見つめてしまう。セラン視線に疑問符が付いて、慌てて視線を反らした。

「念の為近くの監視カメラを介し監視は続ける。必要があれば声を掛けるので助けてやってくれ」

「わかりました」

 ピッ、と向けられた敬礼は慣れてはいないが、元来の丁寧な性格のせいか姿勢が良い。セランがテキパキと拳銃にリロードし始めたのを確認して、僕も新しく数枚のディスプレイを空中に開き直した。空中廊下周辺の監視カメラをクラッキングする為キーボードを叩く。

 ――それにしても、まさか僕達に自分の命を委ねるとは思わなかった。そこまで快楽主義ではないと思っていたんだが。

 ”風竜”の影響だろうか。へらへらとした風竜の顔を思い出す。最近丸くなったとはいえ、あの元人間嫌いが短時間で随分と信頼したものだ。

 

「……セラン。閃鬼の“存在異議レゾンデートル”について気が付いたか?」

「え、鬼眼について、ですか?すみません……。不勉強なもので……詳しくなくて……。希少で高価なものなんですよね?」

「いや……、そうだな……」

 鬼眼だとは気付いているのか。そうだろうな。わかり切ったことを聞いてしまった。能力どころか刻まれた刻印も隠していなかったんだ。

 あっさりとした返答に次は何を言えばいいのかわからなくて言葉に詰まる。”鬼眼”は多くの者が血眼になって探し、莫大な金銭が動くこの街の都市伝説の1つなのに。――セランはどう思っているのだろうか。

 閃鬼と風竜に対し、今回の件は借りである。助けて貰ったせいで彼女達が不利益を被るのは本意では無い。

 言い淀む僕が珍しいと知っているセランが振り返った。深く息を吸い込んで、その視線を正面から見据える。

「欲しいか?」

「?はい?」

「“鬼眼”が」

「?いいえ」

 なんでそんなことを訊くんですか。そう表情にありありと描きながら、きっぱりと言い切られた。拍子抜けして一度大きく目を瞬かせる。鬼眼の価値を知らない、というわけではないのだろう。

「あ、でも閃鬼さんが私を見る視線は好きですよ」

「ああ……」

 人のことをよく”観測する(視る)”からな。

 加えて閃鬼は強い相手にテンションが上がる質らしい。じっ、と見つめる瞳に含まれるのは尊敬、興味、総じて好意だ。好かれたい、自分を見て欲しい、と望んでいるセランにしてみれば、彼女の全てを視通さんとする視線は心地良いものなのだろう。

「それに本当に危険なものでしたら貴方が動くでしょう?それが貴方の――私達の仕事なんですから」

「――ああ。肯定だ」

 詰めていた息を吐き出した。

 成程。自らが好んで勧誘した人物に信頼されるのは気分が良い。閃鬼がはしゃぐわけである。

「もし今後、”鬼眼”が――”情報屋閃鬼”が取り締まりの対称となった場合はどうする」

「そ、れは、うぅん……。少し寂しい気もしますけど……」

 ハの字にセランの柳眉が下がる。困ったように唸る様子は本心ではあるのだろう。だが。それと同時に

「でもちょっと楽しみですね」

 囲炉裏の様に穏やかな微笑みに潜む、烈火の様な好戦性も真実だ。閃鬼もそうだが、彼女も大概脳髄液にアドレナリンが混じっている。

 ……カマキリは雌が雄を食い、ライオンは雌が狩りをするというが、人間は雄の方が筋肉量が多く、狩りもする。故に男性の方が生物学的に好戦的だと思ったのだが。

 まったくもって、

「頼もしいな」

 独り言を呟きながら、先程閃鬼を映していたものとは違うディスプレイを覗き込む。

 窃盗への対策か、倉庫には監視カメラが付いている。クラッキングした画面には戦う風竜が映っていた。

 先ほど無防備で眠たげな声で告げられた閃鬼からの伝言を思い出す。どうやらこの短い間に随分と信用されてしまったらしい。今までの積み重ねよりも遥かに大きく。

 それでは、僕達よりも信用されている風竜はどうだろうか。

 戦闘能力が無い閃鬼は、それでも多勢の敵に対処した。では彼女のサイドキックは。“武力”担当は閃鬼の期待に応えられるか。

 ――可能ならば彼女の信頼に応えて欲しい。折角ならば、ハッピーエンドで終わらせてくれ。

 人が負ける姿さえ愛おしい僕としては柄にもなく、祈るような気持ちで画面を見下ろした。


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