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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
フレイムハート
69/98

交戦混線④ Side風竜

▽▽▽▽▽

 工事現場から聞こえるような音と共に分厚い壁が砕かれる。掌男、改めガラドの身長と同じくらいの石壁が異常な力で野球ボール大に丸められた。野球選手ほど洗練されてはいないけど、単純な運動スペックで球速を確保した球がブッ飛んでくる。避けたそれが壁にぶつかり、ぽっかりと穴を開けた。

「フハハハハッ!ナーイスピッチングッ!」

「野球だったらボールだろ。当たってないんだから」

 繰り返されるハイテンションな自画自賛と砲撃に舌を打つ。実に楽し気で何よりだよクソッタレ。こっちは急いでるっつーのに。

 自身の苛立ちをガラドにも押し付けようと、ラックだの段ボールだの障害物の間を駆け回りながら煽っとく。

 風切り音と共に振り下ろされた巨大な掌を紙一重で躱し、バックステップで大きく距離を取る。

「オイオイ、さっきから逃げてばっかりじゃねぇか。怖気づいたんならとっとと降参しちまえよ!」

「んー……、因みに降参するとどうなんだ?」

「決まってんだろ!全身の骨を砕きながら丸めてやるよ!このボール見てぇになぁ!」

「こわっ……」

 思った以上にバイオレンスな返答だった。これが俺の末路だと言われると投げられた石球にも哀れみを覚えちまうな。

 大刀で弾いた球の威力に駆けていた足が緩む。その隙に一気に距離を詰めて来た巨躯の、芭蕉扇みたいな掌が振って来た。顔を叩く風圧に目を細めながら背後に体を反らし、扇の下を潜り抜ける。開いたガラドの胴体を蹴り飛ばして遠ざけた。


 ――まぁ確かにガラドが煽ってくるのもわかる。我ながらつまんねぇ戦いしてやがる。

 壁や床を創り変えてはガラドに届く前にただただ握り潰される。向こうから近寄られたら直ぐに下がり、徹底的に一定の距離を取る。何度もその繰り返しばかりだ。消極的と言うかジリ貧というか。腰抜けと思われても仕方がない。

 ガラドの巨大な掌を飛び退いて避ける。着地した足が散乱していた段ボールの中身を踏み砕いた。

 割れた工芸品か何かだったのか、碧色のガラスが砕け、砂へと変わる。勢いを殺す為滑った靴底と床の間で擦れ、ザリザリと音を立てた。灰色だったコンクリートが青い線に彩られる。

 再度繰り返された生産性の無いワンパターンにヂッ、とガラドが爆音で舌を打つ。キレてんなぁ、と思いながら態とシラッとした表情を返した。

 ――なまじ敏捷性は俺の方が高いせいで、さぞムカつくことだろう。いやぁ俺としても閃鬼のことが心配なもんで、とっとと離脱したいんだが。

 ……そろそろだと思うんだけれど。


 とっ、とっ、と軽いステップで距離を取りつつ、床に手を付く。”我が欲へ(アルケミア)”。隆起した床がガラドを襲い、掌にガリガリと削り取られる。幾度めかもわからない繰り返し。あーあーあー。

 額に青筋を浮かべながら近づいて来るガラドに再度距離を取ろうと体を起こしかけ、動きを止めた。

 目を細め、耳を澄ます。いや、耳から聞こえる訳じゃないんだっけ。

 うろうろと虚空に視線を泳がせ、何処に集中すればいいのかわからなくて結局聴覚に集中する。

 ――なんだ……随分と……。うん。良いな。取り敢えず、生きてるようで何よりだ。元気とはちょっと言い難いようだけど。俺も役目を果たせたようで良かったよ。

 

 ぐ、と伸びをするように立ち上がる。大きくゆっくりと両腕を開き、閉じた。両掌が打ち合わされる。パァンッ、と乾いた音が部屋に響いた。

「さて、というわけで、だ。いやぁ、今まで悪かったな。スーパースター」

「あん?」

 急に態度の変わった俺に、ガラドが足を止め、眉を顰める。表情に浮かぶのは警戒と、不快と、あとはそわつくような喜色。どうやら戯れに呼んだ“スーパースター”呼びがお気に召したらしい。飢えてんねぇ。

 ガラドに殺されかけながら、助けようとする俺を撃ってきたセランを思い出した。なんつーか、こういった”飢餓感”が似ているような気がする。根拠はないけどチラと思った。機械音声君には言えないが。

 ――どういった経緯でセランがガラドの一味に加わったのか知らないけれど、案外同族であるが故に仲間にしたのかもしれない。そして自分の手から逃げ出すのを感じ、先んじて自ら手放したのかも。彼女の方から離れることが許せなくて。

我が手に栄光をハンド・オブ・グローリー”。それがガラドの存在意義レゾンデートルだ。自分の手から抜け出すセラン(栄光)はガラドの根底を否定する。

 

 ま、そんな事俺には関係無いけどな。

 打ち付けた両掌をガラドに見せつけるようにゆっくりと床に付ける。鎖骨の刻印から腕、掌へと繋がる神経を意識した。

「お待たせしました。漸く俺も本腰だ」

 クッ、と喉奥を鳴らす。


 鎖骨の刻印に火を灯す。溢れる力を掌からビルへと流し込んだ。

「“我が欲へ(アルケミア)”」

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