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アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
フレイムハート
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交戦混線③ Side閃鬼

◆◆◆◆

 パタパタと駆ける足音が長い渡り廊下に響く。相手の動きを予測する為、深度を上げている”鬼眼”を反響する音が刺激する。

 事象の数値化程度じゃ存在に干渉した時の様にオーバーヒートをすることをない。が、此処まで過稼働した後だと全ての刺激が過剰だ。眼球の奥が焼き石を押し付けたように痛む。視神経の発熱で脳がゆだる。ぎゅっ、と強く眼を瞑り、眉間の皺を押さえた。

 視覚が消え、鋭敏になった耳に付いたのはエネルギー弾特有の、静電気が爆ぜる様な銃声音。慌てて顔を上げて目を凝らす。”鬼眼”で観測した熱源の発生に身を翻した。


「あっ――」

 

 熱中症の様に平衡感覚がおかしくなっている中、急に動き出したせいだろう。右足が自分の左足に引っかかった。


 ――あ、ヤベ。


 顔面から床に向かって倒れていく中、頭から血の気が引く。白く強烈な光源が近づいて来るのを感じ、つんのめる体を硬直させた。

 着弾。

 背中がスパークする。背骨が通電し、脳まで届いた電流が眼球で弾ける。

 体の内側から爆発するような衝撃に体が前に吹っ飛んだ。受け身も取れず、全身を床に強打する。そのまま何度かバウンドしながら数mリノリウムの上を滑った。

「ゲホ、ゴホ、うッ、エ゛」

 脇腹が焼けつくように痺れる。指先を動かそうとし、引き攣るように痙攣した。

 ヤバい、まともに喰らっちまった。

 足元の床が弾け飛び、浅く息を呑む。荒い呼吸が更に乱れた。

 四肢に可能な限り力を込める。這うように目前の曲がり角に逃げ込んだ。

 力加減の失った手を叩きつける勢いで壁に付き、指先に力を込める。腕に全体重を預け、半ば壁に寄り掛かるように上半身を持ち上げた。

 立たせかけた足がガクガクと大きく震える。膝が笑う。力が入らない。っていうか感覚が無い。熱いことしかわからない。

 これは立てそうにないな……。

 崩れ落ちるように上半身を壁に預け、足を投げ出す。頭を壁に付け、天を仰いだ。荒れる呼吸を必死に落ち着け、肺の膨張収縮を意識し、深い呼吸を繰り返す。

 距離は離れているし、敵はあたしを舐めている。息を整えるくらいの時間はあるだろう。っていうかそれしか出来ることがない。

「いや……キッツ……」

 風竜が居れば全員倒すのに5分も掛からないんだけどなぁ~。何なら一撃で終わる可能性さえある。アイツ、あたしが予測していた以上に影響規模が広大だったからな……。驚いた。

 再開した狂鬼、新参の風竜と組織としての戦力(半分は暴力)は格段に向上したが、相変わらず個人としての戦力は底辺だ。あたしを舐める判断は正しい。育ちのせいで苦痛耐性がやたら高い為、エネルギー弾が直撃しても動けているが、このままだと囲まれてリンチされてしまう。

 やれやれ、大ピンチだ。大ピンチなんだけど……。


 う~ん……、アガらんなぁ……。

 確かに絶体絶命の状況に陥ってはいるけれど、有象無象による多対一は強者である“狙撃手ちゃん”の後だとアガらない。強者の鮮烈(浪漫チック)さが無いもんで。

 いやまぁテンションが上がったからと言って、あたしのパフォーマンスが上がるかと言えばそんなことは無いんだけれど。

 不幸中の幸い、というか。実体が無いエネルギー弾で良かった。弾丸だと体に穴が開くのでそっちの方がダメージがデカい。いや、実弾の方が難しいし、小さいのでそもそも当たらないかもしれないけど。当たったのだって多分偶然だ。

 ツラツラと思考を空転させながら掌の開閉を繰り返す。骨が火傷した様なヒリつく痛みはともかく、痺れは取れて来た。眼の痛みの方か煩わしい。

 スプーンでほじられるように痛む右眼球を、グッ、と掌で抑える。べちょりとした感覚。久しぶりではあるが、慣れたものだ。うんざり半分、苦笑半分。気分の重さを表すようにド低音で、間延びした意味のない声を上げた。

 はぁ、と吐いた溜息に熱が籠る。のろのろと眼から離した掌を見下ろした。べっとりと付いた紅黒い血に顔を顰め、壁に手を擦り付ける。眼球関係の能力として、副作用がベッタベタ過ぎてちょっと恥ずかしい。


 脱力した手足を投げ出し、ぼうっと空中を見つめる。

 ……成否に関わらず、そろそろ片が付いても良い頃だと思うんだけど。

 コントロールを失いかけた鬼眼に幾重もの振動を観測する。これは大人数が近づいてくる足音だ。此処で生き延びる気なら、いい加減立ち上がらなきゃ。

「――ん」

 支えを外されたように、ことりと小さく首を傾げる。霞む目を閉じ、耳を澄ました。

 ああ、えぇ。マジか。ヤバいな。まぁ……。うん……。頑張ります。いや、大変だけど、死ぬかもだけど。だってホラ、浪漫チックじゃん。

 

 どいつもこいつも無茶を言う。

 口元だけ笑いながら、四肢に力を込める。未だ痛みは残るけれど、痺れは取れて来た。よろよろと立ち上がり、一歩踏み出した。無事に歩けて胸を撫で下ろす。


 ――さて、それで?あたしは何処へ行けば良い? 


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