表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザーズ・レコード  作者: 紙葉衣
welcome to the――
3/74

ボーイ・ミーツ・ガール

▽▽▽▽

「う、あ……」

 どこからか聞こえてきた呻き声に釣られてゆっくりと意識が浮上する。数拍置いて瞼の裏に突き刺す光に完全に覚醒した。……は?今どういう状況だ?っていうか今寝てるここはどこだっけ?

 見たことのない天井にギョッと瞼を下ろした。覚醒したことがバレないように目を閉じたまま慌てて記憶を辿る。最後の記憶は――路地裏で倒れたところだ。

 警戒と緊張で身体が硬直する。その強ばりだけで身体の節々が軋んだ。浅く呼吸をするだけで内蔵がじくじくと痛む。癖で噛み殺した呻き声に、起きる時に聞こえたのは自分の口から出ていたものだと気が付いた。

 この痛み方、内蔵がイカれたか。まぁそれはそうだ。“蛇”に巻き付かれたんだから。いつの間にか居なく無っているが。死んだと思われたか?

 痛みを意識の外に追いやり、視覚以外の感覚に集中する。周りの状況を浅く吸い込んだ息を詰めた。

 空気の流れる音から判断するに、この空間はそう広くはない。一般的なワンルーム。扉は――開かれているな。置かれているいくつかの、おそらく家具。周囲に生命活動音は無し。監視カメラや盗聴器――まではわからない。一応機械音やモーター音はしないけれど。

 室温は適温の範囲内。匂いなども特にない。先ほどちら、と見た天井にも特徴はなかった。……駄目だ。平凡過ぎて、何もわからない。


 と、なれば、だ。


 細く息を吐いて、静かに目を開いた。

 視界に映るのは先ほどと変わらず知らない天井、知らない壁。――知らない部屋。

 ……マジでどこだ。ここ。

 このまま寝たふりをしておくべきか……。いやでも誰も居ないし……。このまま動かないのも……。埒が開かないんだよなぁ。この状況が悪化する事は早々無いか。

 よっ、こらしょっ、と身体を起こす。一斉に響いた節々の痛みに呻き声を上げながらマットレスの上に蹲った。

 掛けられていた薄い布団が上半身から滑り落ちる。

 寝かされていたのは一人用のベッドだった。シーツに皺が寄り、端もずズレ、日常的に使われている痕跡が強く残る。

 身体を見下ろすと簡単でどことなく雑な手当がされている。よれているガーゼ、キツかったり緩かったりする包帯。慣れてないのか不器用なのか。拘束は無し。

 学習机の前にある椅子の背に掛けられた自身の上着に感謝よりも不気味さの方が先立った。つか俺こんなに好き勝手されても気付かなかったのか……。どんだけダメージ溜まってたんだ。

 荷物は、と室内に視線を巡らせた。じくじくと痛む頭に顔を顰めながら室内を見回す。

 一人暮らし用の変哲もない居室。そこそこごちゃついていて、俺の見立ては大凡あっている。が、想像の数倍生活感がある。絶対人住んでんだろ。

 サイドテーブルには日本の少年漫画が何冊か積まれている。有名なタイトルではあるが、英訳されていないとは珍しい。

 ベッドの棚には甘い匂いのアロマの小瓶。隅にぽつんと置かれた、どっかの土産物屋で買ったような硝子の置物は薄らと埃を被っている。

 サイドテーブルを挟み、部屋のど真ん中にドンと寝そべるビーズソファ。所謂“人をダメにするクッション”の長い奴。その上に無造作に放り投げられた猫が描かれたクッションが2つ。

 そこまで観察して、舌打ちした。

 ――バックパックが無い。

 いや、当然ではあるのだが。押収されたか。倒れる迄は持っていた筈なんだが。あれが無いのはちょっとマズい。……マズいか?あったとして、今更どうする気だ?痛む頭を手で押さえた。

 内装から察するに住んでいるのは女性。それも若い。……俺女の子に拉致られたのか?いや、この街で性別で人を判断するのなんざ遠回しな自殺みたいなもんか。年齢だって相手の能力を軽んじて良い理由にならない。そもそも外見の年齢と実年齢が合っている保証もない。

 なんにしても女性が自室のベッドの上に野郎を寝かせるな。砂どころか血でも汚れてんだぞ。

 枕カバーに引っかかる、黒く長い髪を摘まんで溜息を吐く。好き勝手されたのは俺の筈なのになんだか悪いことをした気分になってくる。義理でも柄でもないのに心配してしまう。

 やれやれ。こんな調子で、もし戦闘になったとして、俺は勝つことが出来るだろうか。というか勝つ意味があんのかな。

 バックパックのことを忘れたくて回した思考の筈なのに、結局同じところに戻ってきてしまった。

 溜息を吐きながらベッドから下ろした足を床に付けた。


「起きたんだ」


 突如聞こえた声はある意味予想通り。若い、というよりも幼い女の子の声だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ