開場準備 地上サイド
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と、言うことで”存在異義の改造”で方針は決定した。したのだが。
「何をどうすりゃ良いんだろーなぁ……!」
”存在異義の改造”と言えば俺の得意分野だが、俺は職人であって発明家ではない。設計図が無ければ俺は無力だ。
再度頭を抱えて呻く俺にセランがぐっ、と両腕を握り締めた。
「はっ、発想の転換とかがおすすめです!」
《ソレ、怪シゲナハウツー本ニ載ッテイタコトダロウ》
「異在者向けのハウツーとかあんの……?」
これ程までに個人差が大きい物も無いと思うけど。
詐欺じゃないのか、それ。いやまぁ絶対とは言い切れないのがこの街だけれど。
ライに突っ込まれたセランが肩を跳ねさせた。図星だったらしく、顔を赤く染め、意味の無い言葉を繰り返している。
「ってかなんで知ってんだよ。セラン秘密にしてたっぽいのに」
わいわい騒ぐ2人に重ったるい声を掛ける。俺の質問にセランが高速で頷いた。機械音声が途絶える。画面のライトのみがピカピカと光った。
俺等が話し始める前に「あー」だの「えー」だの漏らすようにタブレットのモーターが回転速度を上げる。気まずそう。いや、ライの感情がどうだろうが、タブレットに物理的な影響が出る筈無いんだが。
《君、炊飯器ヲ買ッタ時ニ教エタネット通販アカウントヲソノママ使用シタダロウ》
「え、はい。携帯に履歴がそのまま残っていたので」
《アレハ元々僕ガ作ッタアカウントダ。カートノ中身モ注文履歴モ僕ニ共有サレル。トイウカ僕ノアドレスデ登録シタノデ全メールガ僕ニ来ル》
「ヒョッ……」
喉から異音を漏らしたセランがピーンと一瞬で背筋を伸ばして硬直した。あーあ。
「っていうか炊飯器サプライズプレゼントしたんじゃないのか?」
《ソウナンダガ。店頭ニ買イニ行ッテ大丈夫ダッタノカト酷ク心配サレタンダ。勘違イヲ説明スル際ニセランノ端末ニアカウントヲ共有シタ》
「速く教えてやれよ」
《ソレマデ買ッテイタノガ料理道具ヤ日用品ダッタンダ》
「あ?だから何、いや、あー」
ちらりとタブレットを見る。その向こうのライに共感してニヤリと笑った。
「料金の引き落としはライのクレジットか」
「エッ!」
ライの奴、セランの欲しい物を奢る為に故意に黙っていやがったな。
固まっていたセランが再起動した。支払いについて今まで疑問に思っていなかったらしい。ネット通販とかやったことなかったのかな。……やったことなさそうだなぁ。彼女の経歴を考えると。
稲妻マークの点滅が強くなる。
《初期投資ダ。僕ノ都合デセランヲ転居サセタ。満足ニ財産ノ持チ出シモ出来ナカッタ。初任給モマダ。僕ニハセランノ生活ヲ保障スル義務ガアル。如月モ最初科戸辺相手ニソウダッタダロウ》
「あー。セミダブルのベット買って貰ったな」
スマホとか。食器とか私服とかもそうだったな。
「え、ど、支払い。い、今までの分、お金、払います……」
《必要無イ。オイ科戸辺。君ノセイダ》
「あー、はいはい。ゴメンって。セラン、建て替えて貰った金払うのは諦めろ。多分こいつ等受け取らないぞ。閃架だってそうだったし」
だから成果で払うつもりだったのにこの体たらくなんだが。
「うぅ……。取り敢えず、直ぐ自分用の通販アカウントを作ります」
「そうしろ。いや、直ぐって今やんじゃねーぞ」
はぁ、と溜息を吐きながらガリガリと頭を掻いた。悩むのは後だ。今は未来の話をするとしよう。
「取り敢えず今後のご予定が聞きたいな。黄金郷に乗り込むってことで良いんだろ?どうやってだ?ヘリとかなら俺操縦できるけど」
《否定ダ。君ノ操縦技術ガドウアレアノ艦ハ近クニ航空機ガアルトアラートガ鳴ル。寧ロ君達ガドウヤッテ侵入シタノカ知リタイクライダ》
「セランと追いかけっこした時と同じように“鬼眼”で空気固めて駆け上がった」
太ももを平手で叩く。この健脚で10,000㎞駆け上がれたのだ。
《随分ト脳筋ナ方法ダ。体力勝負ノ力ヅクダナ。今回ノ案ト同ジダ》
「は?」
「あの、竜騎さん達あの追跡戦のこと”追いかけっこ”と呼んでいるんですか?」
セランが驚いた顔をしているが俺としてもそれどころではない。タブレットの稲妻マークに向けて身を乗り出した。
「な、何。俺をどうする気だ。あんたスマートでクレバーな方法が好きそうなのに?」
《君ノ僕ニ対スルイメージハ気ニナルガ、今ハ良イ。発案ハセランダ》
追いかけっこという幼稚な言い方が気に障ったのか、むすっとした顔とは対照的な動きでセランが嫋やかに白くほっそりとした手を上げた。
ぎょっとしてセランを見る。不機嫌な表情とは関係なく、彼女の瞳は炎が燻っていた。
その前のめり気味な姿勢にヒヤリとしたが、引き金を引き慣れているとはいえ、セランは穏やかで大人しい質だ。ライも実現性やリスクの高い案なら却下するだろうし、そう酷いことにはならないだろう。
後に俺はこの判断は間違いだったと思い知ることになる。




