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第六話 彼らの対処法(2)

 部屋の中は簡素だった。窓際の仕事用らしいデスクにパソコン。中央には来客用テーブル、その上に二つのグラスとお酒のボトル、氷入れが置いてある。そのテーブルには廊下に倒れているのと同じ型の椅子が一脚。本来向かい合う形で設置されていたのだろう。部屋の右手にはカーテンの仕切りがあり、奥の壁には一面の本棚と、隅にベッドが置かれていた。一通り確認したが、人が隠れられそうな場所は見当たらない。

「相変わらず味気ない部屋だねぇ」

 凶悪な暴力犯が部屋に居ないと分かって安心したのか、後ろから続いて入ってきた音楽家さんがのんびりと呟く。どうやらボクは体良く盾として使われたようだ。

「グラスを見るに、誰かとお酒を飲んでいたようですね」

「こんな時間に来客ねぇ、それこそ夜通し俳優さんと打ち合わせすることはよくあるだろうけど……氷が溶けてるからさっき来たってわけでも無さそうだ。あと隠れられる場所があるとすればサニタリーかな?」

「あぁ、そういえば見忘れてましたね」

 リビングから引き返すと廊下で一人、写真家が倒れた椅子と格闘していた。

「この椅子がつっかえてサニタリーが開かないんだよね」

 リビングとサニタリーのドアは両方、廊下に向かって時計回りに開く設計となっていた。開いたリビングのドアとその間に倒れた椅子がちょうど、サニタリールームのドアに対してつっかえ棒の様になってしまっているらしい。

「もとからサニタリーのドア開ける時、いっつもリビングのドアが引っ掛かかると思ってたんだよね」

「きっちりリビングのドアを閉めればそんな風にならないと思うけどねぇ」

「いや、絶対設計ミスだね」

 そんな文句を言いながらやっとのことで椅子を退かすと、彼女はドアを開いた。

「むー、ここにも誰もいない……」

 開かずの間となっていたサニタリールームでは、静かに洗濯機が回っていた。年代は分からないが年季の入った縦型の洗濯機である。稼働を止めて一応中を確認したが、当然そんな所に人が隠れているはずもなく、脚本家自身が洗濯したであろう衣類が水の中を漂っているだけだった。

「一体どこに消えたんだろうねぇ」

「密室殺人ってワクワクするね」

「まだ殺人じゃないですよ……犯人はこの部屋にはいないみたいですけど、どうしますか?」

「まずは現場検証でしょ!」


 ボクたちは犯人が忽然と消えた部屋で、引き続き現場検証を行う事にした。まず凶器だが、どうやら廊下に落ちているトロフィーで間違いないらしい。血溜まりに触れていないはずの台座の角にしっかりと血痕が付着していたのだ。

 凶器の特定は簡単だったが、問題はその方法だ。トロフィーは一升瓶ほどの大きさの杯に、高さ約七センチ余り、縦横約二〇センチ平方の台座が付いたもの。重さはそこまでだが、そのサイズと重量の兼ね合いを考えると片手で扱うには難しい代物であった。

 更に脚本家の頭部にある打撲痕の位置はほぼ頭頂部であり、仮に彼が立ち上がった状態で殴られたとすると、このトロフィーの台座部分で殴るには一般的な人間の身長では不可能に近かった。彼が屈んだところをゴルフのスイングの様にして殴るか、座った状態の彼をそこそこ身長のある人物が上から振り下ろして殴ったかのどちらかであると予想された。

「犯人はわざわざこの椅子を移動させてから、脚本家を座らせて殴ったんですかね?」

 廊下に倒れた椅子を見て二人に尋ねる。

「どうしてそう思うの?」

 ボクは先程までの考えを二人に話してみた。

「なるほどねぇ、確かにこの廊下じゃトロフィーを振り被るにも狭いか……」

「ここのドアが開いていたのは、廊下で椅子に座らせた脚本家を空間に余裕のあるリビングから殴った為ではないでしょうか?」

 ドアは廊下に向けて開き切っており、それを塞ぐように椅子が横倒しになっていた。つまり椅子が設置された時点でドアは既に開いていたということになる。

「確かにリビングの中は廊下より天井も高いし、何より開けてるから身動きも取りやすいだろうねぇ」

「よくそんなポンポン推理できるよね!配達員くんってなんだか推理小説に出てくる探偵さんみたい」

「いやいや……推理小説は好きだからその言葉は嬉しいけど、まだ可能性を羅列してるだけだって。ただの妄想だよ」

「探偵ねぇ」

 音楽家の顔が曇る。

「音楽家さんは推理小説とかお嫌いですか?」

「いや、別に……」

「ねぇねぇ、それよりトロフィーのここ見てよ!絶対トリックだよね」

 彼女が指で示した部分、トロフィーの下部には黒く細い糸が絡まるように巻き付いていた。何度か手品の種明かしで見た事があるインビシブルスレッドに質感がよく似ている。

「何かしらの細工があったことは間違い無いでしょうね……となると最初の凶器がトロフィーかどうかも怪しくなってくるのかな」

「私が見た糸はきっとこのトロフィーに繋がってたんだよ。犯人は糸を使ってなにか現場工作したんだ」

「そうなると、やっぱり一〇五号室の俳優さんが怪しいねぇ」

「脚本家さんから直接話を聞ければ早いんですが……」

 そんな期待も虚しく脚本家は意識を取り戻さないまま、やがて到着した救急隊員によって担架に乗せられ、運び出されて行った。

新年明けましておめでとうございます!今年も休まず毎日更新を続けて参ります。よろしくお願いします!

報告になりますが、なろうでの投稿を始めてから数日で、大変ありがたい事にカクヨムでの他作品もPVが増えていまして、恐らくここから知って読んで下さった方がいらっしゃるのでは、と皆様には感謝してもし切れません。ありがとうございます。お話はまだまだ始まったばかり。引き続き応援、宣伝などよろしくお願い申し上げます。



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