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第三十三話 三人の活躍(2)

「うーん」

「どうしたの?」

「いや……ボクはそれ、ブラフだと思いますよ」

「どういう意味?」

「警部さんは、モデルさん以外の三人に彼女を疑ってると話したんですよね。その行動はきっと、さっきボクが取った行動と同じ原理です。恐らく警部さんが疑っている人物はボクが疑っている人物と同じ……」

「えぇっ?マジっすか!」

「そんな……目星がついてるなら、どうしてさっさと指摘しないの?相手は二人も殺した殺人鬼だよ、泳がす必要なんてないじゃん!」

「恐らく警部さんはボクと違うアプローチで黒幕を暴こうとしてるんじゃないかと思います。顔見知りだし、自白させようとしてるのかも……警察が到着したら手遅れだから多分、黒幕も焦ってるはずです。この部屋で行われたトリックの推理を終わらせて、早くボク達も合流しないと……」

 話を続けようとして、さっき驚いた声を出した新米警官の顔が青褪めているのに気付いた。目がキョロキョロと動いて呼吸が乱れている。なにやら混乱している様である。

「どうしたんですか?具合でも悪くなりましたか」

「いや、あの……ちょっと待って欲しいっす。もう犯人が分かってるんすか?自分、話に全くついて行けてないんすよ。捜査に協力できてないっす。それどころか邪魔ばかりしてる気がして……」

「とんでもない!そもそも事件が複雑化して黒幕が目的の達成に手間取っているのは、新米警官さんが俳優さんの書き置きを見つけてその存在を暴いてくれたからですよ」

 ボクがそう元気付けると、彼の目の動きが徐々に落ち着きを取り戻す。

「あれってそんな重要だったんすか?でも配達員さん、さっき言ってたじゃないっすか。気が動転した俳優さんが妄想で書いただけかも知れないって。大手柄と思ってた自分の行動が状況をイタズラに掻き回しただけだと思ったら居た堪れなくて、どうにか巻き返そうと焦ったら見落としが増えて写真家さんにも手間掛けさせて。自分が情け無いっす」

「重要どころか、アレがなければどうなっていた事か……確かに、ボクはさっき円卓で書き置きの内容に関して煙に巻く様な話をしましたけど、あれは黒幕に向けたブラフなので忘れて下さい。恐らく本来の計画では、今日の出来事は二人のリハーサルによって起きた事故として一旦は話し合いが進んで、議論の焦点は過去の話に絞られる筈だったんですよ。それがあの書き置きが見つかった為に、まず黒幕の存在……脚本家さんの台本に則って事件を起こした第三者がいるかどうかを議論する必要が生じてしまった。その時点で計画は大きく狂ってるんです。だから今モデルさんが生きているのも、犯人がいる前提で事件の捜査を進められているのも新米警官さんのお陰なんですよ」

「じゃあ自分の行動は、ちゃんと黒幕の犯行を妨害できてたってことっすか……あぁ良かった!完全に自信喪失するとこでした。ありがとうございます、もう立ち直ったっす」

 新米警官は本当に安堵した様子で胸を撫で下ろす。ボクが黒幕を意識して話したブラフの所為で、あの時から彼には余計なプレッシャーが掛かっていたようだ。

「もっと早く、ちゃんとあの話の意図を説明していれば良かったですね。申し訳なかったです」

「いやいや、自分が鈍いのが悪いんすよ。まだ自分は黒幕の目星すらついてないっすからね。確かにあの場に黒幕が居るなら、刺激しないように立ち回るのが当然っすよ」

 唐突なパニックだったが、どうやら普段の調子を取り戻したようだ。遠巻きに見守っていた写真家が、こちらの様子を窺いながらおずおずと声を掛ける。

「大丈夫そう?遺体を観察してて気付いたことがあるんだけど報告して良いかな」

「お騒がせしたっす。お願いします」

「俳優さんの口元に乾いた涎の跡があるんだけど、首吊りの時に垂れたとしたら向きがおかしいの。口の端から横向きでほっぺの方に垂れてるんだよ」

「普通に寝てる時に垂れる方向ですね」

「だよね!だから気絶させられてたとしたら、直前まで横に寝かされてたんじゃないかって思うんだけど」

「そうなると、ベッドから首吊りの状態まで移行させたって事になりますね。でもこの部屋で人力以外で俳優さんを引っ張り上げるのは不可能だし……ロープの位置まで体を持っていけたとして、その位置を長時間維持する方法なんてあるのかな」

「高度を維持して横に……つまり空中で寝てたってことだよね。ハンモックみたいに」

「あぁっ!」

 写真家の発言に、またもや新米警官が驚いた声を出す。そして部屋の天井を見上げながら、なにやら手帳にペンを走らせた。堪らず尋ねる。

「あの……今度はどうしたんですか?」

「そうっすよ、ハンモックですよ!犯人はハンモックを使ったんす!」

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