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第三十二話 三人の活躍(1)

 写真家は、彼らの士気の低下を敏感に感じ取った。

「ちょっと二人共、なに落ち込んでるのさ!これはただ、私の得意分野だったってだけだよ」

「いえ、にしてもさっきまでボクらがこの部屋で費やした時間は無駄でした……もっと早く写真家さんを頼れば良かった」

「いや。違うね!私がこのベッドに注目出来たのは、二人が部屋をいくら探しても糸が出てこないって教えてくれたからだよ。遺体は調べても、遺体を置いた場所は調べてないんじゃ無いかって思えたんだ。だから二人の時間は無駄じゃなかった。いいね!」

「写真家さん優しいっすねぇ……警部だったらきっと、馬鹿の一言で終わりっすよ」

「優しいとかじゃなくて、本当のコト言ってるだけだよ。それに私はそんな言葉遣い悪くないもん。さぁ二人の本領発揮はここからでしょ。早くこの滅茶苦茶に長い糸の使い道を考えてよ!私、記憶力は良くても難しいこと考えるのは苦手なんだからさ」

「うん、ありがとう……切り替えて頑張るよ」

「頼りにしてるからね。私は俳優さんの遺体に証拠が残されてないか、もっと隅々までよく観察してみる。新米警官さん、構わないよね?」

「はい。お願いするっす。好きにしろって言われてるし、こっちに来るのを警部が止めなかったって事は写真家さんも自由に調べて良いと受け取って大丈夫っすよ」

「じゃあ新しく何か見つけたら報告するから、糸の方はよろしくね」

「了解っす」


 ベッドの上の糸を詳しく調べた結果、大量に見えたそれは複数本の糸を一本に繋げたもので、片方の先端が五〇〇円玉大の輪に結ばれていることが分かった。長さを確認する為に糸を引っ張り、手繰り出していくと糸は際限なく伸び、絡まない様に部屋の中を動き回る必要があった。結果、糸の全長はリビングを軽く十回は往復出来る程であった。部屋の間取りは四・五平米であるため大体五〇米に及ぶことになる。新米警官が首を捻った。

「この糸は俳優さんを縛るのに使われた筈っすよね。それにしては余りにも長過ぎないっすか?」

「ですね。これを全部使って俳優さんを縛ったとしたら、それはもうがんじがらめに……解く事すら困難になるでしょう。右腕にしか痣の残らない縛り方も見当がつきませんが、糸の一部が俳優さんに接するよう使用されたとして、次は皮膚が引っ張られていた事が謎です。糸が体に接した状態で動いていた事は間違いないでしょうが、その移動の末に、この長さの糸が全部シーツの下に隠れるだなんて挙動は全く見当もつきません」

「自分にもさっぱり……想像しようとしたらどうしても、この部屋の中を巨大な糸が勝手に、自らの意思を持って動いてる気持ち悪いイメージしか浮かばないっす」

「本当に、あり得ないとは分かっていてもそうとしか思えないくらいに奇妙ですよね。布団に巻き取り装置が内蔵されているわけでもないし……」

「うーん……糸……紐……あっ!蛇を使って毒殺とか、有名なトリックにあるっすよね!」

「な、なるほど!実はこの屋敷には巨大な蛇が棲んでいて、俳優さんを引っ張り上げてから、通気孔を使って脱出したとか?最大級の蛇ともなると重量は一〇〇キロを超えるらしいですから、俳優さんを持ち上げる錘としても十分に役目が果たせますね」

 二人にはまだシーツを捲った瞬間の禍々しい衝撃が残っており、どうしても意識がオカルト染みた奇怪な方向に引っ張られているらしかった。黙々と遺体を調べていた写真家が、耐えかねて声を掛ける。

「ちょっと二人ともしっかりしてよ、そんな非現実的な推理、さっきまで全然してなかったじゃん!もっと真面目に、論理的に分析してよね」

 喝を入れられ、狼狽えながら慌てて弁解する。

「ごめん、ふざけてた訳じゃないんだけど取り敢えず何か突破口を見つける為に案を捻り出さなきゃと思って……」

「自分が蛇とか言い出したからっす、申し訳ない……けど通気孔を使うって発想は悪くないと思うっすよ?例えば部屋同士の通気孔が繋がっていれば、別の部屋からこの部屋へ催眠ガスを流したりも出来るじゃないすか」

「ガスはちょっと大掛かり過ぎませんか?確かに俳優さんを気絶させる方法の一つとして、考えられなくはないですが」

 下手に突飛な意見を出したらまた怒られるのではないかとビビりながら返すと、写真家からは具体的な情報が飛んできた。

「通気孔は隣室同士で繋がってる筈だよ。私が部屋決める時、本当は屋敷の裏手で窓から緑が沢山見える一〇一号室にしたかったんだけど、料理家さんから通気孔を渡ってくる他人の生活臭が苦手だから隣室は空けておいて欲しいって言われて、仕方なく一〇二号室に決めたんだよね。配管の構造としては二部屋ずつ隣とT字で繋がってる形かな?大廊下から見える通気孔の数は向かい合って一個ずつ、屋敷全体で四個だからね」

「この部屋の隣室ってモデルさんの部屋っすよね。まさか……」

「いや、無いですね。状況証拠で考えるといちいちモデルさんが疑わしくなりますが、そもそも彼女には動機がありませんよ」

「それなんだけどさ、実は警部さんがモデルさんのこと疑ってるんだ。本当は過去の舞台に不満があったんじゃないかって」

「警部が?」

「うん。モデルさんが台本を取りに行ってる間に、円卓に居た私達にその事を教えてくれたんだよ」

「じゃあ、本当に彼女が黒幕ってことっすか!」

「私もどうかなって思ってたんだけど……通気孔を使えるのも彼女だけだし」

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