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貸本屋



「あの、この本の続きが読みたいんですけど。」


レジーナは貸本屋のカウンターに借りていた本を置いた。


「ああ、このシリーズは人気だからみんなが順番待ちをしているのよ。あなたが借りた一の巻は何年も前に出た奴だから、みんなとっくに読んじゃったみたいだけど。」


店番をしている女の子がそう言って名簿を差し出した。


「これに名前を書いてくれたら順番が来たら教えてあげるわ。」


「あっ、えっと、じゃあ良いです……。すぐに借りられる本を探しても良いですか?」


「もちろんよ。他にも面白い本がたくさんあるから、どうぞ好きなだけ見てちょうだい。」


店番の女の子は店内の書架にぎっしり並んでいる本たちを指し朗らかに答えた。


「ありがとうございます。」


レジーナは女の子にお辞儀をしてカウンターを離れた。


昨日の小説の続きはとても気になったものの、レジーナはお手本無しに自分の名前を書くこともできなかった。


もちろん、店番の女の子に訳を話して名前を書いてもらう事もできるのだが、きっと彼女は何の悪意もなく尋ねるだろう。


「本が読めるのに、どうして自分の名前が書けないの?」


嘘をつくのが苦手なレジーナには、スクートの事を言わずに質問に答えられる自信は無かった。





書架に並んでいる本の背表紙を見ながら慎重に本を選ぶ。


当然の事ながら何が書いてあるやらさっぱりわからないのだが、以前、適当に選んだ本を借りたためにとんだ目に遭ってしまった。


何げなく書架から抜き取った本の表紙に描かれた可愛らしいメイド姿の女の子に惹かれ借りた本を、いつものようにスクートに読んでもらっていた時のことだ。


学の無いレジーナにはわからない言葉もたくさんあり、書かれている内容の半分も理解できないことは特に珍しくはない。


それにしても、何だかおかしい。


違和感を感じながらもスクートにブラシを当てながら話に耳を傾けていると、


「『んほっ。んほっ。旦那様っ、らめっ。らめぇ〜っ! 赤ちゃんできちゃ……。』」


「ス、ス、ストップ! ストーップ! それ以上読んじゃダメーっ!」


「何で? ボク、続きが気になるよ。」


「だめっ! スクートのえっち!」


「レジーナが借りた本でしょ? 頼まれて読んでるだけなのに。」


突然真っ赤になってブラシを振り回すレジーナにスクートは抗議をした。


「い、いいから! もうお終い!」


レジーナはスクートから本を引ったくり、籠の中にしまいこんだ。





そんな事があったので、本を選ぶにも細心の注意が必要だ。


結局、十歳くらいの女の子が母親と一緒に選んだ本の隣に並んでいた本を取った。


「あら、懐かしいわね。私も子供の頃よく読んだわ。大人になってから読んだらまた違う発見があるかも知れないわね。」


レジーナの選んだ本を見た店番の女の子がそう言ったのでレジーナはホッとした。


どうやら怪しい本ではないようだ。



「みなしごの魔法使いの男の子が学校のお友達と一緒に悪い魔法使いをやっつけるお話なんですって。」


貸本屋を出たレジーナはウキウキと言った。


学校へ行った事のないレジーナは「学園もの」が大好きだった。


それに、孤児の自分と同じような境遇のヒーローが大活躍するのを見るのも痛快だ。


「あんまり面白そうじゃないなあ。」


ぬいぐるみのスクートは一緒に籠に入れられている本を眺めながらぼやいた。


「前に借りた本が変で面白かったな。ほら、召使いの女の子がお尻に……むぎゅっ!」


スクートはそれ以上言葉を続ける事ができなかった。


「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん、いくらぬいぐるみだからってそんな、雑巾を搾るみたいに握っちゃ可哀想でしょ。」


道を歩いていた老婆がレジーナに注意をした。



お読みいただきありがとうございます!


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