街へ
ぬいぐるみのスクートを連れたレジーナは、冒険者ギルドのメダルを門番に見せ、城壁都市の城門をくぐった。
冒険者ギルド。
都市国家連合の加盟都市にはそんな名前の大きな組織の支部がそこかしこにあり、その名の通り冒険の斡旋はもちろんのこと、インフラ整備や治安維持、その他多種多様な仕事を代行している便利屋のような役割を担っている。
レジーナのような魔法使いをはじめ、戦士や職人等、多様な職種の者が階級別に分類され、様々な職業を斡旋していた。
ギルドに登録している者は、身分証として職種や階級別に色や形の異なるメダルを与えられる。
このメダルがあれば、都市国家連合の加盟都市ならば市民ではなくても街に入る事ができるし、仕事をする事もできるのだ。
身寄りも、何のコネも無いレジーナにとって、決して安くはない月々の登録料を払ってでも冒険者ギルドに在籍することはとても大切な事だった。
門番の男はたまにやってくるスカーフをした女の子の顔を覚えていた。
ほんの子供にしか見えない農家の娘が最下級とは言えギルドの認定する魔女だなんて大したものだ。
俺の娘も将来魔女になりたいと言ってるが、ちょっと出遅れちまったかな?
まだまだ先の事だと思っていたが、そろそろ魔導学校の入学準備が必要かも知れん。
男はそんな事を考えながら、いつもレジーナに笑いかける。
レジーナはその度にペコリとお辞儀をして早足にその場を去った。
ギルドの事務所の受付嬢以外の人間はメダルに記録されている名前や職業を見ることはできないから、レジーナが弔い魔女だとわかってしまう心配はないのだが、人にメダルを見せる時はいつも緊張してしまう。
それに、この門番は、仕事着を着たレジーナが城門をくぐる時はメダルを見せても触ろうともしない。
あからさまに顔を背け、早く行け、と手を振るだけだ。
だから、今日のように笑いかけられると、何だか騙しているような気がして居心地が悪かった。
「ねえ、レジーナ、抱っこして。」
籠の中にいるぬいぐるみのスクートが何か話をしたい時はいつも抱っこをせがむ。
「はいはい。」
レジーナは籠からスクートを取り出して前に抱えた。
「いつも思うんだけど、門番のおじさんへのあの態度はどうかと思う。」
スクートは少し非難をこめた口調でそう言った。
確かに、門番の弔い魔女としてのレジーナに対しての振る舞いをスクートは知らないから、レジーナの先ほどの態度を無礼だと思われても仕方がない。
人から辛く当たられたり、見下されるのはお前のその態度にも原因がある。
幾度となく言われたことのあるその台詞をスクートの口から聞く事になるのかと思うと、レジーナの身体は強張った。
しかし、
「あのおじさん、いつもレジーナの事いやらしい顔でニヤニヤ見てるよ。もっと気をつけないと、こっちにもその気があるって誤解されちゃうよ。」
突拍子のないスクートの言葉に、レジーナは吹き出した。
「どうやって気をつけたら良いの?」
「ボクなら急所に噛みついてやる。」
「そんな事したら余計誤解されちゃうわよ。」
「な、何で⁉︎ あのおじさんヘンタイの人なの?」
スクートはぶるっと身震いをして、しばらく考えた後、慎重に言った。
「ヘンタイの人なら話は別だね。ヘタに刺激したら面倒だから、やっぱり、これまで通りで良いのかも。」
「そうだね。ふふふ。」
レジーナはぬいぐるみのスクートをぎゅーっと抱きしめた。
「レジーナってばずるい。こんなにたくさん人がいる所じゃ、お返しの抱っこができないよ。」
スクートは口を尖らせた。
「でも、もっとぎゅっとして。あと、キスしてもいいよ。」
「うーん……今はやめておく。」
さすがに、使い古しの靴下にキスをする気にはなれないのだった。
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