お出かけ
仕事の時のレジーナは、黒い装束の上に、深緑色のローブを纏い、頭と顔をすっぽりと覆っている。
まるで死に神のような姿だが、弔い魔女に他の魔女が着ているような煌びやかなローブは相応しくないし、そんな豪華なローブを買うお金も無いから仕方が無かった。
前にいた村では、人々は皆レジーナが弔い魔女なのを知っていたから、日用品を買いにちょっと店先に立ち寄るのも嫌がられ、白い目で見られ、粗悪な物を高い値段で売りつけられた。
しかし、この町の人はローブに覆われたよそ者の弔い魔女の顔など見たことが無いし、興味もなかったから、ローブを脱いで休みの日に街を歩いていても誰にも何も言われずに済んだ。
レジーナは、教会の慰問箱で見つけた色あせた綿のワンピースに、エプロンをつけ、いつも垂らしている黒髪を固く結い上げ頭のてっぺんにお団子をつくり、クリーム色のスカーフを被って顎のところで結んだ。
こんなに地味な姿ならば、もしも誰かに自分が弔い魔女だとばれたとしても咎められることはないだろう。
しかし、そんな格好の彼女は、どう見ても農家の子供だった。
レジーナは貸本屋で借りた本と、古くなった靴下におがくずを詰めてつくった犬のぬいぐるみの入った籠を手に提げ、街へ続く道を歩いた。
「お弁当のパンを買うお金も残しておいてね。」
ぬいぐるみが言った。
「わかってる。」
レジーナが応えた。
希少な魔獣ブラックウフルフ種がこの辺りをウロウロしているだけでも珍しいのに、連れているのが子供と見間違えるくらいの女の子だったら、それこそ大騒ぎになってしまう。
そもそも、レジーナのような最下級の魔女が意思疎通できるような生き物ではないのだ。
レジーナは悪魔と契約した魔女とみなされ、その場で火あぶりにされるに決まっている。
そこでスクートはレジーナにお願いして犬のぬいぐるみを作ってもらった。
このぬいぐるみの体を借りれば、誰にも怪しまれずに大好きなレジーナとどこへでも好きなところへ行けるのだ。
「ぬいぐるみの使い道がわかっていたら、もっとちゃんとした物で作ったのに……。」
貧しいレジーナには適当な材料を用意することができず、高い魔力と知能を有する誇り高き魔獣ブラックウフルフ種のスクートを使い古しの靴下なんかに憑依させることになってしまい、申し訳なさでいっぱいだった。
「どうして? 体中、レジーナのにおいがいーっぱいで、ボクここ大好き。」
「んひゃっ! 変なこと言わないでよっ!」
白い顔を真っ赤にさせて怒るレジーナに
「なんで? レジーナって時々意味がわからないことで怒るよね。」
スクートは首を傾げた。
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