89_桜花動乱_ナガト
「まぁざっとこんなものです」
「へ……へぇ……」
ナガトはたじろぐばかりだった。
ヤマトの戦いを何度か見ていたが、これはその比ではない。
もっと荒々しく、野生の獣が近代兵器を手にしたような光景だ。
爪や牙が銃火器に成り代わっただけの獣だ。
「さて、人食い虎は行きましたか、まったく世話のかかる子です」
「……ひとついいですか?」
「なんですか?」
「あの、なんで獣桜組の皆さんヤマトを邪険にしているようでめちゃくちゃ気に掛けているんですか?」
「そりゃあ、彼が小さいころからみんなで面倒見てましてからね」
「え?」
「タイガ殺したのだって、のっぴきならな事情があった事ぐらい誰だってわかっていますよ。それでも示しをつけるために獣桜組から追い出した。それだけです」
「えっと……つまり、組一丸でツンデレかましてるってことですか?」
「……概ねその通りなのが癪ですね。誰だって家族は可愛いでしょう?」
「家族……」
「獣桜組は元々流れ者の一派、ヤクザですからね。身内が一番信用できたのですよ。血は水よりも濃いってやつです」
「でもヤマトは……」
「その件は絶対にエマの前で話しをしては行けませんよ。最悪首が飛びます」
「すみません。一回やってます……」
「よくそれでエマの機嫌を取れましたね」
「あの時はつい……」
「でもまぁ……エマがそうならなるほど……チユが貴方を選んだ理由がわかったかもしれません」
「え、どういうことです?」
「それは自分で考えるべきことです」
「えぇ……気になるな」
「さて、蛇足はこれくらいでいいでしょう。先ほどの戦い方は私のやり方ですが、こういう荒っぽいやり方も手のひとつとして覚えて下さい。チユも自分のやり方だけだと搦め手しかできない不器用な子に育つと思ったのでしょう」
「でも俺はここまで押し切る力は」
「別に自分自身の力じゃ無くても良いんです。例えば強力な武器を使うとかでもいいのです」
「武器……」
思えばまともに使ったことのある武器はナイフくらいのものだった。
「チユはナイフを教えていた。おそらく汎用性の高さからでしょう」
「でもそれ以外は教えてもらっていないですね」
「違います」
「え?」
「あなたが教わりたいと言わなかったからです。あなたはこの先どう生きてくのですか? 何者になりたいのですか?」
「何者って……自分が何かなんて考えたこと」
「よくある話ですね。自分がよくわからないって現実逃避する人。結局、理想の自分になりきれないことを知っているけど直視すると耐えられない。考えることを放棄してしまっている人間」
「それは違うかと」
「あら、そうですか。では何故より強い武器の使い方を覚えなかったのでしょうか? ナイフ一本だけで全てを変える縛りプレイでもしてるのですか?」
メズキは表情を崩ささない。
「……」
「自分が何者なのかを問うのではなく自分は何者になりたのか、そうすればおのずと自分に足りない部分、足りている部分、自分がわかってくると思います。常に大きな目標とそこへたどり着くための小さな目標を持ってください」
「はい……」
「あと、そんな意識高いこと言われてもできねえよバーカと思ってジャンクフードでも食べながら息抜きも忘れずに」
(ただ真面目な性格ではなく所々に茶目っ気がある人だな)
「どうかしました?」
「いえ、別に……ちょっとホッとしただけです」
「ホッとした?」
「メズキさんもジャンクフード食べるんだなぁって」
「……私とて完璧超人ではありません。休日にはオシャレしてカフェに行って遊びますから」
(この人の私服……どんなのだろう)
「あ、いいお店知ってるので今度行きましょうか」
「ああ、はい、是非」
「この場合、後進育成として時間外労働になるのでしょうか。労働扱いなのでしょうか?」
(変に真面目だなぁ……)
「まぁいいでしょう。とりあえず戻りましょうか」
「ヤマトはどうします?」
「これ以上助けたらエマに怒られるので、放置します。大丈夫です彼は絶対に死にませんから」
「なんでそんなことが言い切れるのです?」
「見守り隊が来てますから」
「見守り隊って……」
「獣桜組、鷄組が既に配置についています」
「そんな気配どこにも」
メズキは上を指差す。
「では帰りましょう」




