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87_桜花動乱_ヤマト

 ヤマトは移送される瞬間を突いて脱走を成功させた。

 

 両腕は手錠で拘束されたままだが、そんなことはお構いなし正面から扉を飛び越えてシルバーベルの敷地から飛び出していた。

 

 

 寒さが皮膚を突き刺す夜。

 雑木林を走り抜ける。月夜が唯一、ヤマトの光だった。

 

(あのランタン女が来たらやべえな……とにかく真っ直ぐ走って逃げるか)

 

 まともな装備も無しに直感で走る。

 

 

 

 野生の感覚かヤマトの進む道は確実に獣桜組を目指していた。

 まるで帰るべき場所に吸い寄せられるように。

 

 

 

(長い夜になるな)

 

 

 

 ヤマトは既に追っ手の足音を察知していた。

 

 

 音の数から人数までも把握出来るほどだった――。

 

(この足音は――なんで?)

 

 

 明らかに人間の速度を超えている、独特の癖があるステップに聞き覚えのある息づかいや言葉微かに聞こえる。

 

(カナメさん。どうしてシルバーベルに!? 助けに来てくれたのか?)

 

 ヤマトは一瞬、足を緩めるが、直ぐに加速させる。

 

(いや、あの人を巻き込めねえ。これは俺が解決しなきゃならねえことだ!)

 

 

 更に足を加速させる。

 

 強靱な筋肉が大地にくぼみを作りながら、ヤマトの背中を前へ前へ押し出す。

 

 

 

 

 それでもカナメの速度には到底敵わない。

 

(どうすりゃいい――)

 

 

「見つけた――」

 

 ヤマトはその言葉を聞いてピタリと足を止める。

 

 全身を黒いコートで体を覆うが、僅かな駆動音からそれらが機械であることは直ぐにわかった。

 

(アンドロイド兵!? マジかよ!)

 

 ヤマトは手錠を掛けられた両手を見ると分が悪いことを再認識する。

 

 

「その声、あんたまさか――」

「ターゲット補足、排除します」

 

 コートに隠れて見えなかったが腕にはガウスキャノンの一種が内臓されていた。

 

 ヤマトは咄嗟に体を低くして木々の間を縫うようにジグザグに走り逃げる。

 

 

(あのアンドロイド兵……まさか……)

 

 

 ヤマトは苦虫をかみつぶしたような気分だった。

 

 

(早くしねえとヤバイな)

 

 

 ヤマトは手錠を見つめる。

 

(邪魔くせえ……クソがよ……)

 

 ヤマトに起きたここ最近の出来事全てに思い当たる節があった。

 

 だがそれを説明しようとどうしても説明できない問題に目を合わせなければならない。

 

(逃げてたバチが当たったか)

 

 アンドロイド兵はヤマトを補足すると一直線に向ってくる。

 

 

(せめて手錠が無けりゃ、少しは戦えたか――)

 

 万事休す、ヤマトはため息をついて最後の抵抗の準備を始める。

 

 

 アンドロイド兵のガウスキャノンが放たれる。

 

 瞬間、奇妙なことにアンドロイド兵は防御姿勢を取っていた。

 

 

「いきなり実戦はしんどくないです?」

「チユの弟子ならこれくらいは朝飯前ですよ」

「はぁ……」

 

 馬の耳に巨大な盾、そしてあまりにも大雑把なレバーアクション式のグレネードランチャー。

 

「メズキ……」

「あら、どなたでしょうか? すみません最近もの覚えが悪くて」

「助けてくれたのか?」

「さぁ? 私はそこにいるアンドロイド兵に用があるのです。あなたに興味はありません。どこへでもお好きなところへ」

 

 そう言う割りにはメズキはアンドロイド兵とヤマトを遮るように立っている。

 

 

 そして、レバーアクション式のグレネードランチャーがスピンコックする。

 

 

 

 

「獣桜組の流儀をご覧に入れましょう」

 

 

 メズキのセリフを聞いたヤマトは一瞥してから獣桜組に向った。

 

(相変わらずだな)

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