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08_生存遊戯_ナガト

 

 ナガトはトモエに頼まれて椿宮師団まで足を運んだが、招かれざる者であり命を奪われそうになった。

 

(結局、僕は何がしたかったんだろう)

 

 当てもなく怯えて潜み、姿を眩ませること二週間。

 ここがどこなのかさえナガトにとってはどうでもいいことだった。

 

 廃墟が際限なく続いている。かつての立体交差は人の手が入らなくなって植物に侵され風雨に晒された結果、崩落している。

 

(たった数ヶ月でこんなことになるんだな)

 

 ナガトはしみじみと自然の力に驚く。

 荒涼の風が廃墟に響く音。寒さが指先をいじめる。

 

(そういえばここどこだっけ……)

 

 今更地図を見る気持ちにもなれなかった。

 幸い、こんな廃墟の場所でも動物は住み着いており上手く捕まられれば食事には困らない。

 感染者は時より見かけるが昼間は活性が低いのか刺激しなければ特に害はなかった。

 

 ナガトはシェルターの中に入る。

 人間が二人足を伸ばせるくらい広々とした造りのシェルターはナガトの力作だ。ビルの廃材やコンクリートの破片を上手く積み上げている。

 しかも、周りの風景に溶け込みぱっと見は全くわからない。

 

(誰に習ったんだっけ……)

 

 どこかの冒険記でも読んだのだろうと決めつける。

 

 シェルターの中には一斗缶と銅管パイプで造ったストーブがあり煮炊きに加えてシェルター内部を温めてくれる。

 

 一斗缶の上に落ちていた鉄筋を折り曲げて造った五徳に鍋でスープを温めている。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ナガトはスープを飲み干す。今日は珍しく魚を捕まえられて満足だった。

 

(ネズミ、ネズミ、でっかいネズミ、虫、虫って続いていたからなうまさが段違いだ)

 

 ナガトは久々に腹を膨らませることが出来て満足だった。

 

 

 そして眠る。

 

 

「あと何日こうしてりゃ良いんだろう」

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 

 

 ナガトは目を覚ますと歯磨きと日光浴をするために外を出る。

 

「*ナガトには理解できない言葉*」

「は?」

 

 ナガトがシェルターから出た瞬間、銃口が眼前に突きつけられる。

 見上げると亜麻色の長い髪に真っ白に透き通る肌、険しい表情、瞳の奥には一種のワイルドさを持つ。

 

(とても綺麗な人だな)

 

 銃口よりもそっちの方にナガトは気を取られてしまった。

 

「*ナガトには理解できない言葉*」

「…………?」

 

 ナガトはとりあえずどうにもならないので両手を挙げて降伏する。

 

「*ナガトには理解できない言葉*」

「えっと……何って言ってるの?」

 

 大げさに首を傾げてわからないジェスチャーを伝える。

 

 女性は少し考えてからあっとした表情で耳に付けているデバイスをトントンとタップする。

 

「サバイバルゲームのプレイヤーかしら?」

 

 デバイスから女性の音声を拾って日本語に翻訳された言葉に変換される。

 

「違う違う」

「あら残念、射殺すればポイントだったのに、はぁ、民間人いたとは知らずに銃口を突きつけてごめんなさいね」

 

 女性は銃口を空に向け、スリングを回して肩に銃を回す。

 

「物騒だね」

「ここにいるプレイヤーの中では大人しい方よ」

「そっか……ここは新宿だったのか」

 

 ちゃんと地図を見ておくべきだったとナガトはつくづく後悔した。

 

「私はセレネ・シュミットトリガ」

 

 セレネは友好の印か握手を求める。

 

「えっと」

 

「感染症予防?」

「いいや……」

 

 ナガトはおそるおそる手を握る。

 

「よろしくね!」

「あ、うん……」

 

 ナガトが芳しくない反応を見せるのは言わずもがな、女性に対して酷い想い出が記憶に新しいからだ。

 

「そっちの名前は?」

「ナガト」

「ナガト、それは名前? 名字? ごめんなさい日本のことは詳しくないの」

「名前かな……名字は無いよ」

「名字がないのね……」

「ほら、昔日本で夫婦別姓とかの議論が起こって、結局は名字を使わなくて良いってなったらしくて、親がどっちも名字がなかったから、名字無しなんだ」

「そう、ドイツは名字を大切にする文化が今も残っているから、名字が無い方が違和感ね」

「国の違いだね」

「ええ、でもまぁ、それはそれで個性なのかしらね、きっと」

 

 

 

 このセレネとの出会いが、ナガトの人生を大きく左右する事になるとは誰も知る由もなかった。

 


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