76_桜花動乱_メズキ
関西某所――。
シルバーベルが新たに拠点とした場所にメズキ達は到着する。
車が止ると同時にぞろぞろ隊員たちが防御陣形を組ながら侵攻を始める。
『無理せず。ヤバイと思ったら逃げるように今日は手応えを見るだけなので』
ヘルメットに内臓された無線で指示を出す。
『『『了解!』』』
レスポンス良く返事が返ってくる。
(このヘルメット、思いの外使えるかも)
『では突撃、行動を開始してください』
先陣を真っ先に切るのはメズキだった。
右手には特大の銃火器、左手には特大のタワーシールドを持ちながら突飛な機動力で一気に拠点に侵入する。
拠点は外周を柵で囲んでいくつかのテントがある簡素なものだった。
「どちらさんかと思えば……悪いが今は休憩中なんだ。ドンパチやるつもりは無い」
渋い声と共に拠点から現われたのは中年一歩手前のしなびた男性だった。手にはスチールのマグカップを持っておりコーヒーブレイク中だった。
「…………」
威力偵察とは言え明らかに無抵抗な人間を攻撃するわけにはいかず、メズキは肩透かしを食らった。
「お嬢さん、獣桜組ところかい?」
「…………」
「無視か、まぁ仕事ならそんなものか」
「獣桜組の人間が殺されたと聞きましたが事実でしょうか?」
「事実だ。こちらも襲われたものでな。まぁ、こんな場所じゃ証拠もクソもないがな」
「……ふむ、まずは言い分を聞きましょう」
「言い分も何も、いきなり押しかけて来てそれに応戦した」
男が嘘をついている様子はなかった。
だが、言い分の食い違いは獣桜組とシルバーベルで確実に出てきていた。
仮にシルバーベルの言い分が事実である場合、獣桜組の立場は悪くなる。
「しかし、ここ獣桜組の敷地です。あなたは不法滞在をしているようなものです」
「地図ではここは獣桜組ではないという話だったが、古い情報だったか?」
「ここは敷地との境界線上にあります」
「ではここは敷地外ということだな」
「こちらは攻撃してもお咎め無しということをお忘れ無く」
「コーヒーを飲んでいるだけの相手に?」
(この男……わざと無抵抗になって攻撃させないようにしている? 壊れたらまずいものがあるのか、それとも)
「ここではエマが法だ」
「その法が及ぶか及ばないかの話をしている」
男は静かに話を切り返す。
「ここであなたたちを皆殺しにすれば問題ありませんよ」
「皆殺し、ここにいるのは私だけなのに」
男はコーヒーブレイクを終えると、ライターを取り出す。
胸ポケットからタバコを取り出すとなれた手つきで口に咥えて火を付ける。
「まさか!」
「自己紹介がまだったなお嬢さん。私はエイトボール、大層なコードネームを与えられているが、ただのしがない小隊長さ」
エイトボールは攻撃の素振りを見せない。
(何もしなければそちらも攻撃しないということか。だが――)
エンジン音がいきなり響き渡る。
『隊長! いきなり車が出現しました! テントに隠していたのでしょうが……カモフラージュされていたようです!』
爆走する車に向ってメズキは銃口を向ける。
「止りなさい! 撃ちます――!」
車に注意が逸れた瞬間、エイトボールが逃げ出す。
『総員確保!』
だがエイトボールが上手だったのか発煙弾を事前に準備していたのか周囲が見えなくなる。
追うことも不可能では無いが、メズキは舌打ちをして捜索を切り上げる。
ヘルメットの機能でエマと通話チャンネルを開く。
『組長、しくじりました……というか戦うまでもなく逃げていきました』
『あらら、追い打ちしたらええのに』
『相手は非武装で戦意もなく、何より獣桜組のテリトリー外の付近でした。下手に発砲すれば我々の立場が悪くなります』
『ほんまに細かいとこまで気が回るのはええけどそれで取り逃がしたんは褒められんなぁ』
『申し訳ございません。ですが拠点は抑えたのでここで何をしていたのかすぐにわかります』
『ふーん……拠点の制圧は予想以上の成果やな。なら今回の取り逃がしと帳消しでええわ。物品は犬組に回しておくように』
『了解、それではまた』
『気をつけて帰ってくるんやで』
(チッ、あのエイトボール……中々に厄介な相手です。こちらの内情に詳しいと見ていいでしょう)




