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74_桜花動乱_ヤマト

 

 

「――以上の理由から、ナガトの感染者等級を丙種に、ヤマトの感染者等級を一級に昇格とする」

 

 五山の送り火の大宴会が終わり、祭りの雰囲気が薄らと椿宮師団に漂う中、ヤマトとナガトは滅多に使わないと噂の表御座所に呼ばれた。

 

「まぁ、つまるところ昇格だ」

 

 等級昇格、特に一級から丙種、それ以上の昇格の場合、委任式が行われる。この委任はカナメとの謁見という意味もあり重要な式になる。

 と言っても普段から顔を合わせていることもあり、顔ぶれに新鮮味はなかった。

 

 

「俺は丙種になれねえのか?」

 

 ヤマトの質問にカナメは少し悩んだ表情を見せた。

 

「それは迷った。上げても良いが椿宮師団としての丙種の枠になるな」

「じゃあ……今はいい」

 

 獣桜組の未練か散々成り上がろうとしていたヤマトが驚くほどあっさり身を引いた。

 

 ナガトの背中を見ていくうちにヤマトの思いつきの行き当たりばったりな目的だけではダメなことが実感できた。

 

(俺は何がしたいんだろうな……)

 

 このまま椿宮師団に居続けることはヤマトに出来ず、かといって獣桜組には戻れない。

 

 どこにもヤマトの居場所はない。

 

 

 とりあえず一級に上がれたのは何かしら進歩だと自分に言い聞かせた。

 

(真実を言うべき……ダメだ一度決めたことを覆すなよ男だろ)

 

 委任式が終ると直ぐに宴会場に場所を移し、昇進祝いの宴が開かれた。

 

 

 

「で、お前ら何飲む?」


「お酒は――」

「飲んだこと無い――」

 

 ヤマトとナガトは二人して酒を断る。

「酒飲んだことないのか……」


「そりゃあ二十歳は超えてますけど、このパンデミックとかで……」

「俺は……飲むなと言われてるから飲んでないな」

 

「えぇ……飲みたくない?」

 

「別に?」

「飲みたくねえな。酔っ払いに良い思い出がねえ」

 

「……そうかぁ……アルハラになるし飲みたくなったら言えよ。とりあえずお茶にするか」

 

 カナメの気遣いでナガトとヤマトはお茶になった。

 ずらりと並ぶ料理にヤマトとナガトは目を輝かせながら次々と皿に取り分ける。

 

 ナガトは小皿に少し取り分けて自分の席に戻るがヤマトは料理が乗せられた大皿を持って席に帰る。

 

「やっぱお前よく食うな」

「昔はもっと食ってた。一日十回くらい飯食ってたな」

「よく太らねえな……」

「そのぐらい食わないと腹減るんだよ」

 

「そういや動物系の感染者になると食事量が増えるんだってな」

 

「大宴会見たろ?」

「うん……俺の一年分の食事を数時間で胃袋に収めてたよ」

「俺はあの中でも食う方になるな。感染者になる前から大食いだったけど」

 

 宴会場の扉が開くと二人白衣を着た女性達が現われる。

 白衣の胸ポケットに名札がありアンナ、ヒラの二名だとすぐにわかった。

 

「宴会中すまない。ヤマトはいるかい?」

「ここだ」

「お酒を飲んだか?」

「いや飲んでないけど?」

「セーフだ!」

 

 女医たちは顔を揃えて安堵する。

 

「おー、アンナ先生どうした急に?」

「陛下か……ヤマトの血液検査した結果、アルコールの分解能力が一切消失していることがわかった」

「……てことはヤマトが酒を飲んだら」

「即入院だとも」

「あぶねえ……うっかりで死ぬところだった……」

「陛下も気をつけたまえ。全く、宴会を開くと聞いて慌てて病院を飛びしてきて本当によかった」

 

「え、俺酒飲めないのか」

「飲むと死ぬと思った方がいい」

「マジか……」

 

「とりあえず間に合って良かった。食べ物に特に制限は無いから好きに食べて良いが――」

「良いが?」


 

「食事を抜くことだけは絶対にするな。君は栄養失調状態一歩手前だ!」

 

 その場にいる全員が首を横にした。

 ヤマトの大食いぶりは有名だし、好き嫌いもなく何でもよく食べる。

 

 それでなぜ栄養失調状態一歩手前になるのか謎だった。

 

「わかった。もっと食う」

 

 

 

「いや、おかしいでしょ!」

 

 ナガトがようやく突っ込みを入れる。

 

「無理も無い、これだけ食べて栄養失調だと言われるのはおかしな話に聞こえるだろうがヤマト君はミオスタチン関連筋肉肥大という特異体質を持っている。その上で骨格形成能力が人並み外れている。骨が鉄骨と同等の強度の骨だ」

 

 

 ヤマトは空腹のため何を言っているのかさっぱりわからないアンナを横目に次々と料理を平らげている。

 

 

「それって凄い筋力と骨を持つって事でいいのですか?」

 

 ナガトが代わりに話をしている。

 

「ん、この肉美味いな」

 

 

「話を全然聞いてないな……」

 

 アンナが呆れる。

 

「とりあえず変な病気っての腹いっぱい食えば解決するんだろ?」

「それはそうだが」

「じゃあもうそれでいいじゃねえか。詳しいことはお医者さんのあんたらが知ってりゃ――」

 

 ヒラがヤマトの頭をゴンと殴る。

 

「いってえ!」

「自分の体質を自分で把握しろ馬鹿者。しかもお前傷口ダクトテープで塞ぐような馬鹿だから医者の話はもっとよく聞くようにしろ」

「ああもうわかったよ! じゃあそのミオグロビンだっけ?」

「ミオスタチンだ」

 

 ヒラはもう一発拳骨を加える。

 

「いってえなあ! 一回で覚えられ――」

 

 ゴッ!

 

「だろうな、抜糸もすっぽかして追加の検査もサボってお前に物覚えを聞く方が馬鹿らしくなるくらいお前は馬鹿だからな」

 

 

 この後ヒラは、一時間かけてヤマトの症状を説明した。

 

 

「うお、この肉美味いな」

 

「このアホ虎がぁ!」

 

 そんなことはお構いなしのヤマトだった。

 

 


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